3話 親友との再会
ユナリア公国、王都にある酒場での事だ。
ここ最近、ユナリア公国は国際的な立場上厳しく、王都の活気も無かった。
酒場はもちろんガラガラだ。傭兵達は帝国などの大きな国に居た方が良く稼ぐことが出来る。賞金稼ぎも、傭兵団も、今のユナリアは国力の低下と軍事力の低さから次の戦闘で負けると考えられている。その為か自由業を行って生計を立てている人間は国から兵士の募集が掛かっていようとも参加する者など居ない。そもそも現在はこのユナリア国に傭兵自体が存在するかどうかの方が危ういぐらいだ。
ほぼ誰も居ない酒場で一人、魔道士のような服装をした青年がカウンター席に座っていた。それはもちろんレストだ。
「アンタ、何処かの魔法使いの傭兵かい?」
マスターはそうレストに問いを投げた。
レストはそれに対して苦笑して返した。
「いえ、魔法が使えるのは確かですけど旅の軍師ですよ」
「ほ~、噂に聞く流離いの神軍師みたいだな」
一瞬レストの動きが止まったが、気のせいのようにも思わせた。
レストは苦笑して見せた。
そもそも旅の軍師なんて今の時代あまり居ない。とは言え、流離いの神軍師つまりレストは異例中の異例、大抵の旅の軍師は一度戦場に割り込むとその場で実力を発揮し、認められれば士官となるのが普通だ。だがレストは士官になる素振りは無く、その軍の軍師の心を徹底的に叩き潰して何処かへ去って行ってしまうのだから変わり者だ。
「流離いの神軍師ですか、有名な話ですね……」
「ああ、確か2年前にもユナリアと帝国の戦いに割り込んだったって聞いたな」
「へぇ~」
確かにレストには身に覚えがあった。2年前、帝国を通らずに他の国から順に回っていたときのことだった。本人は戦場に行く気が全くなかったのに、街にたどり着くどころか戦場にたどり着き、あまつさえ帝国兵に襲いかかられたと言うことが印象的で、憂さ晴らしにユナリアの本陣にずかずかと入っていったことを覚えている。
もちろんその戦いはユナリアの劣勢だったのにもかかわらずたった5分でその戦局が大きく傾いて完全な勝利まで持って行った。
「またこの国に流離いの神軍師様が訪れればいいんだがな」
「あはは、そう簡単に現れれば流離いの神軍師なんて言われないでしょうけどね」
レストは自分が流離いの神軍師と名乗ること無く、ただ笑ってそう言って見せた。その表情にも内心にも迷いは無く、ただ一の軍師としてありたかったからだ。
「全くだ。それよりアンタはこの国の士官でにもなるのかい?」
「まさか、国に仕えるには私はちょっとばかり無能ですよ」
レストはそう言って立ち上がった。
「お代、置いておきますよ」
レストは懐から銅貨をすうまいそっと置いた。
「あいよ」
レストは店を出た後、城下町の通りを歩いていた。
あれからユナリア公国の王都まで足を運んだのだが、それまでに戦場にも死兵にも出くわすことは無かった。
食料は得とくに心配は無い、問題になってくるのはこれから戦場に足を運んである程度稼いでおく必要があることだ。この調子だとあと一月ぐらいで底を尽きる。
「さて……どうしようか……」
と、そんな時だった。
前の方から数人の子供達が走って来た。
なにやらはしゃぎながらだったが、前は見えているのだろうか……
案の定の事だった。一人の小さな少年がレストとぶつかり、尻餅をついた。
「っと、大丈夫ですか?」
レストは小さな少年に声を掛ける。
彼の表情は笑みを浮かべているだけで発した言葉にも怒りの様子はなかった。
「大丈夫」
無邪気に笑ってそう返した少年の笑顔は何とも微笑ましかった。
「そうか、ならよかった。次からは気をつけるんですよ」
「うん!」
そう言って少年達は去って行った。
その場に残ったレストは子供達を見送った。
「平和……言い切れるわけじゃ無いけど、民は元気ですね」
実質、この大陸のほとんどが戦争のまっただ中だ。今のところ、戦争をやっていないのは帝国と古くから友好関係にある最西端のレーガル聖国だけだ。レーガル聖国は帝国の一部とも言ってもいいが、公式的には同盟国だ。
他の国は帝国の圧政に屈すること無く戦っているが、数で物を言わす帝国とは平行戦続きである。
そして現在、戦局が傾き掛けているのがユナリア国だ。実を言うとユナリア公国の友好関係にある魔族国バルマスはすでの帝国の手に落ち、孤立状態とも言っていいほどである。
(……あの死兵、帝国の……)
その時だった。レストの足がピタリと止まった。
背後から感じ取ったのは鋭い気配だった。
「俺はてっきり何処かの国に仕官したのかと思っていたぞ、レスト」
思い返される懐かしき思い出、幼き日々……
口ぶりと後ろ姿を見ただけで名前を言い当てたことだけでレストはある人物を思い浮かべた。昔からの腐れ縁でそれぞれの道に進むために故郷を同時に旅立った友だ。
忘れるはずが無い、よく噂は耳にしていた。最強の傭兵として名高い彼のことだ。
「6年……もうそんなに経つのか……久しぶりだね、エルド」
レストはゆっくり振り返ってそう言った。
エルド・ディスティ、大陸にその名を轟かす最強の傭兵、蒼いバンダナを身に着け、二丁のクロスボウを持ち「双銃魔弾」という異名を取る親友だ。




