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ルービックキューブ

作者: ショート

これはとある“彼”の体験談。


彼には友達がいました。それは町の病院に入院中の同級生[ユメコ]でした。ユメコはとても重い病気にかかっていました。彼はそんなユメコを少しでも元気づけようと、毎日のように病院に足を運びました。別にユメコが好きなわけではない、ただ気がついたらいつもそこには病院がありユメコがいた。そんな感じだと彼は言います。


ある時、医師からユメコへ宣告が告げられました。

「あなたはあと余命約1ヶ月でしょう」と。

ユメコは治らないとわかっていたようにすんなり落ち着き少し口元に笑みを浮かべうなずきました。

医師は話を続けた。「だが、この薬を飲めば治るかもしれない。あくまで可能性の話だが、もしこの薬が効けばあなたは少なくとも生命の危機は脱するでしょう。………しかし、この薬は効いてるかどうかは結果をみないとわからない。1ヶ月後あなたが生きているかどうかで初めて判断される。だから、私達はこの1ヶ月あなたをただ見守ることしか出来ない。あとは、あなたの生命力しだいです。」と、そしてユメコは「わかりました」と一言言い薬を飲みました。


そして………………………………どのくらいたったでしょう!?そこには彼とベッドに腰掛けているユメコがいました。そしてユメコは彼に言いました。「あなたの事が好きです」と。

彼は考えました。あまりにも突然で、あまりにも唐突で。

ここからは彼の考えです。皆さんも考えてみて下さい。好きではない、ただ、とても仲のいい友達である異性に告白されました。しかし、その人の生命はあと1ヶ月。あなたならどうしますか??

同情し、あと1ヶ月間自分が側にいることで一生分の幸せが得られるのであれば。と思い了承する。だいたいの人はこっちだと思います。しかし、彼は違いました。彼は、同情で付き合いもし1ヶ月後にその人が生きていたらどうするか、そのまま同情で付き合ったとは告げず付き合い続けるか、同情で付き合っただけだからと言い、すぐに別れを告げる。どちらにしても、後者の方が最低だと考えました。そして、彼はユメコへ断りの返事を出しました。

そして、その日彼が帰ろうと病室のドアを開けた時ユメコが「ありがとう」と言い優しい笑顔で彼を見送りました。彼はそんなユメコに「この1ヶ月は一生分楽しんだと思えるくらい笑顔にしてあげる。最も親しい異性にはなれないけど、最も親しい友になるから」と言いました。


次の日彼は病院へ向かっていました。左手にはお見舞いの果物、右手には新品の[ルービックキューブ]を持っていた。

ユメコが入院中ずっと暇潰しにと遊んでいた[ルービックキューブ]。

ユメコの大好きな[ルービックキューブ]。

ユメコが笑顔になる[ルービックキューブ]。

を持って。病室に入る前に袋から出しキューブの面をバラバラにして。そして、病室へ……………………。

しかし、病室には誰もいない。彼はベッドに手に持った[ルービックキューブ]を置き、病室を飛び出した。

そして、看護師さんに聞いてみると、ユメコは昨日彼が帰ったあと病室で自殺したらしい。彼は呆然と立ちつくした。そんな彼に看護師さんは一枚の紙を渡した。それはユメコからの手紙だった。そこにはこう書かれていた。


彼のいない1ヶ月は私にとっては生きていく意味がないもの。

私を今まで支えてくれた皆さん。

今までありがとう。


バイバイ


彼は自分がユメコを殺したと思いました。ユメコの気持ちに答えれなかった自分を責めました。

そして、少し時間が経ちユメコの通夜が営まれました。その席に彼の姿はありませんでした。

そして、その夜彼は後悔の念の中眠りにつきました。

そして、夢の中にユメコが表れました。ユメコは言いました。


「あんな言葉を残して彼をこんなにも苦しめるなんて、本当にゴメンなさい。別に彼を恨んでいたわけではないの。ただいつも私の心の中にいたあの彼が今は違う彼になってしまったって思うと………。」

彼は言いました。

「だけど、やっぱり自分が告白を断ったから自殺に追い込んだのではないのか??だって本当はあと1ヶ月は、必ず生きていれたのに」

「ええそうね。何もしなければあと1ヶ月は必ず生きていれたわね。………だけど、私考えたのあなたがあの別れ際に言ってくれた事について。<一生分楽しんだと思えるくらいの笑顔にする>って言ってくれた、その時私は本当に嬉しかった。それでね思ったの、これからのこの1ヶ月間今以上の楽しみを味わえるかなって。私はたぶん味わえないと思ったの、残り1ヶ月のカウントが減っていくごとに私の笑顔も減っていくように思えたの。だから、あの日私は一生で最も幸せのあの時間に生命を絶ったの。」

「だけど、だからって、そんなのわからないだろ。もしかしたら、その時以上に幸せな時が来るかもしれない。もしかしたら薬が効いて死なずにすんでいたかもしれない。そしたら、さらに幸せになれたかもしれない。なのに」

「ううん。そんなことはないわ。自分の体だもの。自分の事は私が一番わかっているわ。……………………………それにね、私後悔はしてないわ。だって、一番楽しい時に死ねたのだから。そうでしょ??1ヶ月後の結果をみなければ効いているかわからない、それって、[ルービックキューブ]と同じじゃない!?やっている間はこれで合っているのかわからないけど、完成したら、ああ、合ってたんだって思うでしょ。だから、[ルービックキューブ]と同じだと思うの。そして、[ルービックキューブ]で一番楽しい時間は完成した時ではなく完成させるまでの経過の時間。だから、私は一番楽しい時間に死ねたの」


そう聞いた彼は、ユメコがそう言うなら、ユメコが後悔や恨みを残していないのなら。とユメコの手を握り、一言「ありがとう」と告げた。そして、目が覚めた彼は思った。

自分の夢に出てきたのだから、自分の都合のいい方にしただけと思われるかもしれない。けれど、彼は夢に出てきたユメコを本当のユメコの意思と思うことを決めました。

夢の中から、立場を逆転させて自分の笑顔を取り戻させてくれたユメコを、片手にはあの時もう完成することがないとおもわれたバラバラの[ルービックキューブ]を持っているユメコが、ユメコでないはずがないと思うようになりました。



……………。



そして、最もの決めてになったのは、彼にとって彼女は、崩壊しそうな彼の心を完成させるために夢に出てきた “夢子”    だったからなのです。

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