恵子さんへ
まこたろう作
恵子さんへ
恵子さん
あなたは誰だったんですか。
本当はいい人だったんですか。
本当は男だったのですか。
本当は女だったのですか。
あなたの過去は作り物だったのですか。
あなたの美しい顔と体は他人だったんですか。
あなたは詐欺師なんですか?
この喪失感は何なんだろうか、どうすればよかったのか、自問しています。
マッチングアプリであなたとマッチングした時の嬉しさ。
64歳で転職活動に悩んでいた自分に、パーと明るい光が差した気がしました。
最初からなついてくれて、いい予感しかありませんでした。
アプリメールからLINEに移行するときにもらったidがいかにも量産型みたいで違和感がありましたが、“交際”を始めました。
交際を始めて二日後、温泉に入ったときの写真を送ってくれましたね。
それは50代後半にはとても見えない美しさでした。とても色っぽく、
何かを語りかけてくる目と口が魅力的でした。
あなたから仲良くしてくださいねと言われ、こちらこそー、と浮足立っていた自分がいました。なんかいい予感がしていました。
今こうしているうちにも自分がとった行動が果たして正しかったのか、胸が締め付けられています。
たった一週間で終わってしまった恵子さんとの交際。
お母さんが一月後に老人ホームに入るから、お母さんの入所後の次の日に会いましょうね、と言われ、その間にお互いをもっと理解して、いい感じになって会おうとしていましたが、その前にあなたのうちの近くまで行っていればよかったのではないかと思っています。
その時会えたあなたは
写真の通りの女性でしたか。
または、いかつい男でしたか。
または、闇バイトで雇われたおにいちゃん?
または、冷酷な若い美人のおねえさん?
または、現れなかった?
あなたは誰だっだたのですか?
明日朝メールしてね、って言われて、
「おはよう、かわいこちゃん」
て送っても恵子さんから最初にメールが来るのは決まって午後2時過ぎ、お寝坊さんの恵子さん、かわいいねー、腕のなかですりすりしたかった。でも、友達と買い物行ってお昼食べて、ショッピングセンターの写真を送ってくれました。“お寝坊さんじゃなかったんだ”勝手に考えてごめんなさい。
お昼一緒に行ったというお友達も綺麗でしたね。
あれは誰だったのですか?
本当の友達? 詐欺師の?
無料素材? SNSの誰かの写真?
お母さんに二人のことを話したらとても喜んでくれたって言ってましたよね。私もとても嬉しかったんです。この人を大事にして、3年前に亡くなった実母への足りなかった孝行の穴埋めができるかもしれないと思うと、なんか嬉しかったです。ありがとうという思いでした。
LINEを初めて2日目で美しい温泉入浴姿を送ってくれました。3日目あなたの辛い過去について教えてくれましたね。すし職人の元夫の浮気現場を目撃して、恵子さんは心に大きな傷を負いました。内容Vシネマ的なドラマティックさで、本当にあったらショックだろうなと、全面的にあなたの味方になりました。うつ病になったり、復縁してまた裏切られて、破局を迎えて、食べていくために美容院を始めたが、コロナで閉店を余儀なくされて、今のEコマースに行き着いたという、さりげなくここが核心だったんですよね。私はあなたが経験した悲劇を全部信じました。そして、Eコマースの実際のスクショを見たとき、商品はアダルトグッズでしたが、あなたの商才と成功が羨ましく、賞賛の気持ちを素直に持ちました。私もかつて同じ商売をやろうと思ったけど、うまくいかなかった経験があったのです。このことは言わなくてよかったと思います。もし触れていたら、もっと早く恵子さんとの関係が終わっていたでしょう。
あなたは親孝行な人でした。お母さんを大事にしていましたね。送ってくれたお母さんの写真、上品な人でした。背景はなぜかうちではなく、どこかの施設か、お店の長椅子でしょうか。左に片麻痺があったような気がしましたが脳梗塞だったのでしょうか。在宅で介護していたんですよね。
あの上品なお母さんは誰ですか?
親友のお母さん?
あかの他人?
「暇なときは料理を作ったり、お掃除をするの」
って言って台所の片づけ前と後の写真を送ってくれました。お母さんの介護の合間にせっせとやっていたのでしょうね。 広ーいシステムキッチン、恵子さんが建てたという家も立派なんだろうなと想像をめぐらしていました。同時に羨ましかったし、この台所で一緒に料理を作りたいと思いました。でもね、これまで作った料理の写真はどう見てもタイヘイの定期デリバリーにしか見えないものばかりでした。
あの料理たちはあなたが作ったのですか?
業者のサイトから引っ張ってきたのですか?
いろいろと見せたがるあなたが見せてくれなかったものがありました。
家と車です。
さすがに足がつきやすいからですかね、あと、家の外観も。Eコマースで儲かったので、家と車を買いました。と言ってた割には、富の象徴がなかったですよね。今考えると不自然なというか、あなたらしくないところがぽろぽろとあったんですよね。しかし、私はそんなことはどうでもよかった。いずれ実際に行けば見られるからね。
私のうちに招待して料理を作ってあげる!!
って言ってくれて、もっと仲良くなったら行こうと思っていました。そして一緒にお風呂に入る。そうしたかった。
恵子さんが毎日送ってくれた泡をまとった入浴姿の写真、毎日露出が多くなって、あと少しで「肝心」なところが見えそうなところまで行きましたが、次の段階に行く前に私はあなたがあなたでないことに確信をもってしまったのです。
それを教えてくれたのはAIです。
私を信じ込ませたあなたの悲しい過去、長々と感動的で同情を引くには十分な物語を作ったのもAIでしょうね。
皮肉ですよね、だます側も騙される側もAI頼みって。
「もう歳がいっている私に大変な仕事を続けて苦労してほしくない!」
あったかい人だと思いました。
しかしそこに添付されたURLとあとに続く商売のやり方指南で、私は 「不幸」にも気づいてしまったのです。
― 怪しい -
遅かったのか早かったのか。遅くはなかったけど、早くもなかったと言うんですかね。これまでの経緯をChatGPTに聞いてもらいました。
“”間違いなく黒“” でした。
典型的なロマンス詐欺。私はベッドに座り込んで、しばらくぼーっとしてしまいました。
次の日、朝の挨拶は送らずに私は様子を見ました。
恵子さんからいつもと同じ午後2時頃に今日始まりの挨拶。
その日は恵子先生からEコマースの授業を受けるはずでした。
しかしそのメッセージの後私はあなたをブロックしました。
それから今も喪失感が続いています。いい人だった恵子さんとの関係を自ら断ってしまった! 今でもブロックを解いてまた話したいと思う気持ちでいっぱい、でもその先どうなるかも容易に予想できる。
ブロックした後、あなたは私にどんなメッセージを送ったのか。
1、どうしたの?返信して!寂しい!
または、
2、バーカ、やっと気づいたか、お前みたいなじじい誰が相手すんだよ!
または、
3、何もなくいつもの詐欺師の日常が繰り返されているのか。
2か3であってほしいと思う、1だったら悲しすぎる。まだ頭の片隅であなたは善人だったかもしれないと思っている。
恵子さん
恵子さん
あなたは誰だったんですか。
本当はいい人だったんですか。
本当は男だったのですか。
本当は女だったのですか。
あなたは私を愛してくれていたんですよね、きっと。
終わり
高齢の皆さん、気を付けましょう!




