表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話 親戚たちが手のひらを返してきましたけど、私の心はもう動きません


 あれから5年の月日が流れた。


 私は25歳になった。  中身は45歳のおばさんだけど。


 あの運送会社でのパートから始まった私の第二の人生は、着実に前へ進んでいた。  死に物狂いで働き、前世の図太さとネットスキルを武器に、今では事務の主任を任されている。


 そして今日。  私は祖母の七回忌の法事に来ていた。


「あら、恵ちゃん。久しぶりねぇ」


 甲高い声がして振り返ると、そこには叔母がいた。  前世で、私に「野垂れ死ね」と言い放った、あの叔母だ。


「すっかり綺麗になって。今は正社員なんですって? 幸子姉さんから聞いたわよ。えらいわねぇ」


 叔母は満面の笑みを浮かべ、私の腕を擦ってくる。  その目は、かつての「ゴミを見るような目」とは正反対の、「利用価値がある身内を見る目」だ。


 ……滑稽だわ。


 私が無職の時は切り捨て、自立して小金を持ったと分かれば擦り寄ってくる。


「お久しぶりです、叔母さん」


 私は完璧な営業スマイルで、丁寧にお辞儀をした。


「おかげさまで、毎日忙しくさせていただいています。母にも少しは楽をさせてあげられていますので」


「まあまあ! うちの息子なんてまだフラフラしてて……ねえ、今度うちにも遊びにいらっしゃいよ」


「ありがとうございます。でも、仕事が立て込んでいますので」


 私は明確に、拒絶の壁を作った。  怒りも恨みもない。ただ、関わりたくないだけだ。


 前世で言われた「縁を切る」という言葉。  今は私の方から、謹んでお返しさせていただきます。


 ◇


 しかし、私にはまだ、最大のミッションが残されていた。  それは「Xデー」の回避だ。


 前世の記憶では、母は私が40歳の時に急死した。  原因は、脳卒中。


 今はまだ、あの時より15年も早い。  けれど、病魔の芽は早めに摘んでおくに越したことはない。


 私は強引に母を病院へ連れて行った。


「もう、恵ったら大げさなんだから。ただの肩こりよ」


「いいから! 脳ドック受けないと損なんだよ!」


 自腹を切って、無理やりMRI検査を受けさせた。  結果を待つ間、私は生きた心地がしなかった。  もし、運命が変えられなかったら?


「佐藤幸子さんのご家族の方」


 医師に呼ばれ、診察室に入る。  モニターには、母の脳の断面図。


「……娘さん、よく連れてきてくれましたね」


 医師の言葉に、心臓が跳ねた。


「ここに、小さな未破裂の動脈瘤があります。放っておけば数年後、あるいは十数年後に破裂して、くも膜下出血を起こしていた可能性が高いです」


 ……やっぱりだ。


 前世の母の死因は、これだったんだ。


「今なら、カテーテル手術で処置できます。本当に、いいタイミングで見つかりました」


 その瞬間、全身の力が抜けた。


「……よかった」


 涙が溢れて止まらない。  変えられるんだ。運命は。


 ゴミ屋敷で一人死んでいく未来も、母が冷たい床で死んでいる未来も、全部。


 ◇


 後日。母の手術は無事に成功し、退院の日を迎えた。  病院を出ると、春の柔らかい風が吹いていた。


「お母さん、お腹空いてない?」


「そうねぇ。何か甘いものでも食べたいわね」


 私たちはコンビニで、温かい肉まんを二つ買った。  ベンチに並んで座り、湯気の立つ肉まんを割る。


「美味しいね、恵」


「うん、美味しい」


 ただの、百数十円の肉まんだ。  でも、隣に母がいる温もりが、それを特別な味に変えていた。


 私は確信した。


 勝ったんだ。  私は、あのクソみたいな運命に、完全勝利したのだ。

第4話をお読みいただきありがとうございます。


最大の懸念だった「母の病」を未然に防ぎ、ついに運命の歯車を完全に上書きしました。 コンビニの肉まんで笑い合える、そんな当たり前の幸せこそが、恵の欲しかった宝物でした。


次はいよいよ最終話。 40歳になった恵が見る景色は、前世とはどう違うのか。 「幻の塩むすび」の結末を、ぜひ見届けてください。


最終話「平凡な食卓と、どこかの誰かのニュース。私が掴んだ未来」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ