第4話 親戚たちが手のひらを返してきましたけど、私の心はもう動きません
あれから5年の月日が流れた。
私は25歳になった。 中身は45歳のおばさんだけど。
あの運送会社でのパートから始まった私の第二の人生は、着実に前へ進んでいた。 死に物狂いで働き、前世の図太さとネットスキルを武器に、今では事務の主任を任されている。
そして今日。 私は祖母の七回忌の法事に来ていた。
「あら、恵ちゃん。久しぶりねぇ」
甲高い声がして振り返ると、そこには叔母がいた。 前世で、私に「野垂れ死ね」と言い放った、あの叔母だ。
「すっかり綺麗になって。今は正社員なんですって? 幸子姉さんから聞いたわよ。えらいわねぇ」
叔母は満面の笑みを浮かべ、私の腕を擦ってくる。 その目は、かつての「ゴミを見るような目」とは正反対の、「利用価値がある身内を見る目」だ。
……滑稽だわ。
私が無職の時は切り捨て、自立して小金を持ったと分かれば擦り寄ってくる。
「お久しぶりです、叔母さん」
私は完璧な営業スマイルで、丁寧にお辞儀をした。
「おかげさまで、毎日忙しくさせていただいています。母にも少しは楽をさせてあげられていますので」
「まあまあ! うちの息子なんてまだフラフラしてて……ねえ、今度うちにも遊びにいらっしゃいよ」
「ありがとうございます。でも、仕事が立て込んでいますので」
私は明確に、拒絶の壁を作った。 怒りも恨みもない。ただ、関わりたくないだけだ。
前世で言われた「縁を切る」という言葉。 今は私の方から、謹んでお返しさせていただきます。
◇
しかし、私にはまだ、最大のミッションが残されていた。 それは「Xデー」の回避だ。
前世の記憶では、母は私が40歳の時に急死した。 原因は、脳卒中。
今はまだ、あの時より15年も早い。 けれど、病魔の芽は早めに摘んでおくに越したことはない。
私は強引に母を病院へ連れて行った。
「もう、恵ったら大げさなんだから。ただの肩こりよ」
「いいから! 脳ドック受けないと損なんだよ!」
自腹を切って、無理やりMRI検査を受けさせた。 結果を待つ間、私は生きた心地がしなかった。 もし、運命が変えられなかったら?
「佐藤幸子さんのご家族の方」
医師に呼ばれ、診察室に入る。 モニターには、母の脳の断面図。
「……娘さん、よく連れてきてくれましたね」
医師の言葉に、心臓が跳ねた。
「ここに、小さな未破裂の動脈瘤があります。放っておけば数年後、あるいは十数年後に破裂して、くも膜下出血を起こしていた可能性が高いです」
……やっぱりだ。
前世の母の死因は、これだったんだ。
「今なら、カテーテル手術で処置できます。本当に、いいタイミングで見つかりました」
その瞬間、全身の力が抜けた。
「……よかった」
涙が溢れて止まらない。 変えられるんだ。運命は。
ゴミ屋敷で一人死んでいく未来も、母が冷たい床で死んでいる未来も、全部。
◇
後日。母の手術は無事に成功し、退院の日を迎えた。 病院を出ると、春の柔らかい風が吹いていた。
「お母さん、お腹空いてない?」
「そうねぇ。何か甘いものでも食べたいわね」
私たちはコンビニで、温かい肉まんを二つ買った。 ベンチに並んで座り、湯気の立つ肉まんを割る。
「美味しいね、恵」
「うん、美味しい」
ただの、百数十円の肉まんだ。 でも、隣に母がいる温もりが、それを特別な味に変えていた。
私は確信した。
勝ったんだ。 私は、あのクソみたいな運命に、完全勝利したのだ。
第4話をお読みいただきありがとうございます。
最大の懸念だった「母の病」を未然に防ぎ、ついに運命の歯車を完全に上書きしました。 コンビニの肉まんで笑い合える、そんな当たり前の幸せこそが、恵の欲しかった宝物でした。
次はいよいよ最終話。 40歳になった恵が見る景色は、前世とはどう違うのか。 「幻の塩むすび」の結末を、ぜひ見届けてください。
最終話「平凡な食卓と、どこかの誰かのニュース。私が掴んだ未来」




