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『灰を駆ける者 ― ASH WALKER ―』  作者: たーゆ。
第1部「灰の路」 第2章「灰の綻び」

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第22話「臨界」➆

 侠佑が息を吸い込んだ。  

次の瞬間、腹の底から響く怒号が、路地裏を震わせた。


 「とっとと由佳ちゃんの居所を言わんかいッ!!!」


 ビリビリと空気が振動した。  

それは単なる大声ではない。  

ドスが効いている、という表現すら生温い。  

殺意と恫喝が混ざり合った、魂を直接殴りつけるような咆哮。


 「ひっ……!」


 その場にいた全員が、身体を強張らせた。  

チンピラたちは白目を剥きそうになり、震え上がって抱き合うように縮こまる。

蓮司でさえ、その声の迫力に一瞬、瞬きをした。  

蹴り技の応酬の中にいた自分の狂気とは違う、

大人の、理性を伴った本気の怒り。

 そして、紗良もまた、肩を跳ねさせた。  

彼女は呆然と父を見ていた。  

こんな父を見たことがなかった。  

いつもヘラヘラして、母に頭が上がらず、頼りない背中しか見せてこなかった父。  

それが今、鬼のような形相で、見知らぬ少女(由佳)のために声を荒げている。  

 怖い。  

けれど、その怖さは、チンピラたちに向けられたものであり、

自分たちを守るための壁のようにも感じられた。

 侠佑は、肩で息をしながら、射抜くような視線で男たちを睨みつけている。  

その目には、焦りが滲んでいた。  

娘の紗良はここにいる。無事だ。  

だが、もう一人の少女、由佳の行方がわからない。  

時間が経てば経つほど、絶望的な状況になることを、彼は誰よりも知っているのだ。


 「……い、言います。ただ、その由佳って女のことかどうかは分からない」


 金髪の男が、震える唇を開いた。  

観念したのだ。  

目の前のこの「中年」が、自分たちの組織のルールなど通用しない、

もっと恐ろしい何かであると本能で悟ったからだ。  

 それに、隣に立っている「黒いパーカーの怪物」が、

今にもまた顔面を蹴り抜いてきそうな殺気を放ち続けていることも、

口を割らせる大きな要因だった。


 「で、でもよ、わ、分からねぇんだ……詳しいことは……」

 「ああん?」

 「ホントだ! 嘘じゃねぇ! 

  俺たちはただ、仕事しろって言われただけで

  ……仕事場所も、直前にSNSのDMで指定されるんだよ!」

 「仕事?お前らの仕事ってなんや?」

 「お、俺らの仕事は盗みがメインなんだ!ただ、前に一緒になったメンバーの中で

  女を攫った仕事をしたことがあるって話した奴がいた!」

 「ほーん」


 侠佑の目が細まる。  

嘘ではなさそうだ。末端のチンピラに重要な情報を渡すはずがない。  

だが、それでは手がかりにならない。


「誰の指示や。お前らにSNSのDMを送ってる奴のアカウント名くらいあるやろ」


 男たちは顔を見合わせた。  

沈黙。  

再び侠佑が足を上げようとすると、慌てて口を開く。


 「『道化師ピエロ』……!」

 「俺たちは、そう呼んでる……! 

 本名は知らねぇ! 

 いつもピエロのマスクを被った動画で指示が来るんだ!」


 「道化師」。  

そのふざけた名前が、この状況では妙に生々しく、不気味に響いた。


 「お前ら、その『道化師ピエロ』から仕事の話は来てないんか?」

 「あ、ああ、ちょうどその女に声を掛ける前に連絡が来てた。

  た、たしか場所は……?」

 「……南の、鴨川沿いにある古い化学工場の跡地……

  明日の早朝にそこに行けって言われた。なんか大掛かりな仕事をするらしい。

  それ以上は本当に知らねぇんだよ!」


 男は泣きながら地面に額を擦り付けた。  

これ以上の情報は出てこないだろう。  

侠佑は大きくため息をつくと、威圧の空気を霧散させた。  

ふっと肩の力が抜け、いつもの「冴えないおじさん」に戻る。


 「……さいでっか。おおきに、協力感謝するわ」

 声色は軽いが、目は笑っていない。  

 「さ、ほな消えよし。これ以上ここにいたら、

 そこのお兄ちゃんがまた暴れ出すかもしれんしな」


 顎で蓮司をしゃくると、男たちは弾かれたように立ち上がった。  

砕かれた手首や痛む足を抱え、互いに支え合いながら、

逃げるように路地の闇へと消えていく。  

彼らは二度と、紗良の前に現れることはないだろう。  

今日の恐怖が、骨の髄まで刻み込まれたはずだ。


 路地裏に、静寂が戻った。  

だが、その静けさは、穏やかなものではなかった。  

張り詰めたピアノ線のような緊張感が、まだそこかしこに残っている。

 蓮司は、肩で息をしながら立ち尽くしていた。  

両手はだらりと下がっているが、全身の筋肉はまだ硬直したままだ。

血走った目が、まだ虚空を睨んでいる。  

暴力の衝動は収まったが、一度沸騰したアドレナリンはすぐには冷めない。  

身体の中に熱い鉛が溜まっているような感覚。  

そのやり場のないエネルギーが、微かな震えとなって指先に表れていた。





とてつもなく遅くなってしまい申し訳ございません!!

今晩も投稿しますので見て頂けると幸いです!!!

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