第15話「喧騒の中の静寂」⑧
観客は拍手と笑い声を交えながら会話していた。
「めっちゃ楽しそうじゃん」
「SNSに上げたらバズるぞ」
「いやー、あの避け方マジすごかった」
「見て見て、自撮りもバッチリじゃんw」
「次も誰来るんだ?」
ざわめきの波がリングを取り囲み、熱気と湿気が夜気に張りついた。
リング脇には紙コップやペットボトルが転がり、靴裏が砂を踏むたび、かすかな音が重なっていた。
「俺もやりたいw」
「でも短刀持つ勇気ないわw」
「やっぱり彼女、度胸あるな」
「避けられた瞬間の顔が面白いw」
「これ絶対ストーリーに載せるわ」
女性もスマホを片手に、「やったー、面白かった!」「友達、絶対驚くよ!」
と声を弾ませ、リングを後にする。
その背中を、フラッシュの白光が切り取った。
蓮司は無言でテーピングに手を戻し、
指の感覚を確かめるようにゆっくりと巻いていく。
リングの熱気と湿気、観客のざわめきとスマホの光は、夜の空気に溶けていった。
女性がリングを降りて数歩進むと、ざわつきが一段高くなる。
観客たちは次のラウンドに視線を向け始め、
リング中央をスマホ越しに覗き込んだ。
「おい、あの子、思ったより攻めてたな」
「自撮りしながら短刀とかすごすぎw」
「動画撮った?絶対バズるぞ」
「うん、手元のブレも含めて面白い映像になるw」
「次、誰来るんだろうな?」
「確かインフルエンサーって噂だよ」
「マジか、あの人来るんだ、見ものだな」
スマホの画面が夜の空気を照らし、いくつもの顔が青白く浮かび上がる。
リングを中心に、現実と虚構の境がゆらめいていた。
「いやー、SNSで盛り上がってるの知ってる?フォロワー何万だって」
「うわ、絶対映えそうじゃんw」
一人の観客がスマホを掲げ、リングを映しながら囁く。
「ねえ、動画のネタ的にはここが一番盛り上がる瞬間かも」
「ほんと、次のやつが決闘系ってだけで、もうテンション上がる」
女性観客のひとりが友達に向けて笑いながら言う。
「ねえ、次の人、絶対写真映えするよ」
「あ、絶対ストーリー用に撮ろう」
「この空気感、SNSで流したら反応やばそう」
観客の期待と興奮が夜風に混ざり、湿った匂いと熱気が漂う。
スマホの光がちらちらと揺れ、
誰かの笑い声が波のように押し寄せては消えていく。
「そろそろ来るんじゃない?」
「うん、リングに入る瞬間から面白くなるぞ」
「みんなカメラ準備して!」
「正直、あの人の動き、どうやって避けるんだろうな」
「避け方見たいw」
「俺の動画、先に撮らなきゃ」
「いや、俺のフォロワーに流すんだ!」
空き地のざらついた地面に、スマホの光が散りばめられていく。
その中心で、蓮司はひとり、深く息を吐いた。
観客の喧騒の中、彼だけが静寂に取り残されていた。
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