表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ:砂漠の奇跡

 砂が口に入る。男は顔を横に向けてかすれた呼吸と共に砂を吐き出す。あれから、どれだけの時間がたっただろう。じりじりと照りつける太陽の下、砂漠に倒れこんだ男はここ数日の出来事を思い返していた。


「この先に必ず緑地がある、絶対にみんなでたどりつこう」

出発前、村長はそういった。大陸南部の王国の侵攻により近隣の村人が虐殺されているとの知らせが届いた日のことだ。侵攻から逃れるために砂漠の奥にあると伝承されている緑地を目指して出発した。

 “死の盆地”、人々からそう呼ばれるここは、大陸中央に位置する広大な砂漠である。周囲を囲む山々により一切雨が降らないため、草木はおろか虫一匹すら生きられない。そんな絶望的な場所を元は数十人いた集団がよろよろと歩く。

 しかしどれだけ行けど砂漠の向こう側が見えることはない。数日前から水が底をつき、食料もなくなった。目の前に広がる砂の海は次第に体力と気力を奪う。振り返れば遠くのほうに倒れた仲間たちがいる。よろめいて倒れていく村民を気に掛ける余裕など無く、ただゆっくりと一筋の希望を目指して歩く。集団は、少しずつその数を減らしつづけている。そして今、最後に残った男も足がもつれその場に突っ伏してしまった。

 呼吸するたびに口に入ってくる砂はもはやほとんど残っていなかった口の水分を完全に奪い取ってゆく。これまでの出来事を走馬灯のように思い出しながらゆっくりとまぶたが落ちていく。そのすきまから見覚えのない男の背中が見えた。蜃気楼か、と男は思った。その男がしゃがみ込み、地面に手をかざす。すると信じられないことが起きた。

 大量の水が湧き出したのだ。透き通ったその水は砂に吸い込まれることなく周囲に広がり、やがて倒れた男のもとへたどりついた。顔や指先にあたる水の感触を感じながら、男は最後の力を振り絞り、震える手で水をすくい喉に流し込む。カラカラだった体に命がみなぎる。本物の水だ。まだ生きていける、そう実感した瞬間、大粒の涙がこぼれ落ちなおも増え続ける水に混ざった。流れ広がる水に、後ろで倒れていた者たちも生気を取り戻し、目の前で奇跡を起こした男を見つめる。

「あなたは…あなたは何者ですか」問いかけられた男はゆっくりと立ち上がり、振り返りながら言った。


「ハリム=ナロイド、ここに国を作りに来た」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ