第二章 面接
オープニング曲 『クレハの季節』
https://x.com/HanashioKikei/status/2013089880767598755?s=20
ツイッター(現X)にて公開中
また夕方。
昨日と同じく夕陽が牢内に差し込む頃。
私は呼び出され、牢を出た。
朝と同じく取り調べ室…ではなかった。
むしろ拘置所の外へ向かっている。
軽い驚き。
「あの…どこへ…?」
「支部舎だ。少々我々の話を聞いてもらう。そのため、連行させてもらうが」
ふさっと手錠にハンカチを被せられる。
「すまんが、外すわけにはいかんのでな」
「承知しております」
外へ出てみて驚いた。
街が騒然としている。
何かお祭りでも?とも思ったが、違う。
怒号が飛び交っている。
「これは…何の騒ぎなのでしょうか?」
警護の人に聞いてみた。
「先日、君たちが呼び出した化け物。あれに街を破壊されたことに怒る市民のデモ、だったはずなんだが」
「だった、はず?」
「あれを倒したメルリ殿をエルフォイドと称し、いま暴れている彼らがエルフイーターと呼ぶキメラで街を破壊したのは彼女だと主張する者たちが、デモを扇動し、今ではこの有様さ」
「そんな…キメラを呼び出し街を破壊したのは私たちなのに…」
「だからこそ、真相の究明が急務なのだ。それについて、詳しいことは着いてから話す」
「…はい」
なんてこと…
私たちにはバックボーンとなるような組織はない。
だからこれほどの規模の暴動を起こし、自らの罪を有耶無耶にできるほどの力は無い。
背後にハルキが?
それも考えづらいのだが、強いて言えば、そのくらいしか考え付かない。
それはモルドレン支部でも同じなのではないだろうか?
私を含めた、モルドレンに残された者たちから、この暴動の原因を突き止める証言は得られないと思う。
それで…私が呼ばれた?
しかし、知ってること話せることは、全て報告しているのに…
◆
この「両手」のせいで表からというわけにはいかなかったか、裏口から支部舎へ入る。
それは…久しぶりに見る風景だった。
ここから逃げ出した私にそう思う権利があるかどうかは分からないが、それでも懐かしく感じる。
給湯室。トイレ。表からは見られない、支部の内側。
かつて私もここにいたのだ、という感慨。
時を経て、全く違う立場でここに来るとは思わなかったが。
案内されたのは、小さな会議室。
開かれたドアの向こうにいた人物に、私は度肝を抜かれた。
「久しぶりだな。藤枝」
そう声を掛けたのは、私がまだ白騎士団のド新人で、治安部を目指していた頃の戦技教官。
名はスティーズ=ヴァンフォード。
『天賦の武人』との二つ名がある。
卓越した剣の技術の持ち主。
それは、ただ相手を斬るというだけでなく、無駄が無く、流れるような所作から『舞』とすら呼ばれている。
大剣を使いながらも流麗、しかし重厚な『舞』。その技術に誰もが憧れ、彼を目指す。私もかつてはその一人だった。
「…お久しぶりです、先生。 …いえ、そうお呼びしてよろしかったのでしょうか…」
目を合わせられず、私は俯いた。
有能な指導者の生徒が今や犯罪者なのだ。
「構わんよ。むしろ、これからまたそう呼ぶことになるって話で来てもらったんだが」
「…どういう…ことですか?」
「それは私から説明しよう」
ヴァンフォード先生がいることに驚き、フリームスさんに気が付かなかった。
「君が提出した報告書を読ませてもらった。作文の試験ではないので採点はしないが、結局、反町ハルキなる人物を捕らえねば話が進まない、ということが分かった。しかし、モルドレン支部の騎士を使って広域捜査、という訳にもいかん。君も今見ただろうが、モルドレンの歴史上、初めてのことなのじゃよ、こんな騒動は。それで、じゃ。協議の結果、君に探しに行ってもらおう、ということになった」
「…私…が?」
あまりにも突拍子もない話に、頭がついていかない。
「無論、反町ハルキを捕らえられればそれに越したことはないが、どこに行ったのかヒントも無ければ探しようがないじゃろう。じゃが、君の報告書に拠れば、反町ハルキはオヌマー殿と戦闘、オヌマー殿に全ての【設定】を抜かれた後、返されておる。ということは、オヌマー殿の【設定】に、反町ハルキの【設定】のショートカットが残っている可能性がある。ショートカットの先を探れば、反町ハルキの行方が掴めるかもしれん」
オヌマー…あ、カナート君のことだ。ヒエロフで会った時、カナート=オヌマーって名乗ってたな。
それしてもショートカット…それは考えなかった。知ってはいたが、奪った【設定】を返すなんて、そんなバカげたコトをする人がいるなんて、思ってもみなかったから。そんなバカをする人のおかげで、ハルキの行方を追うことができるかもしれないとは。
「それで、私は何をすれば…?」
「今しがた君に追ってもらうと言ったが、検察課での協議の結果、今捕らえられている君の仲間を連れて行っても良い、となった。じゃが、最低1人、ここに残すように、と。釈放ではないからのう。捕らえた者を全て、という訳にはいかん。誰が行くのか、誰が残るのかは、君が決めて良い。そもそも、旅行者同士の揉め事など、珍しいものではない。ただ今回は、それが街中で、被害も大きくなってしまったことが問題なので、野放しという訳にもいかんでな。君たちの見張りは付けさせてもらう。連絡員という名目だが、いざというときには然るべき処置を取る、ということになっている」
然るべき…言うまでもない。私たちを消す、ということか。もっともな話だ。
「そして、もう一つ、条件がある」
「もう一つ?」
「昨日の揉め事を見ていた者からな、あのままで外へ出しても、野垂れ死ぬだけじゃと。じゃから、今一度、武技の技術を見直しさせたい、との申し入れがあったのじゃ」
「…あ!」
私はヴァンフォード先生を見る。
「それで俺がここにいる、ということだ」
先生が見てらしたのか。嬉しいやら恥ずかしいやら。
「じゃが、オヌマー殿たちも移動はするじゃろう。なるべく早く追いかけたい。そこで、3日間。ヴァンフォード君の下、今一度、己の武技を磨いてくれたまえ」
「ありがたいお話です…が、私がそれほどの厚遇を受けてもよろしいのでしょうか?」
「厚遇、と受け止めてもらえるならありがたい。先ほども申した通り、今は街中の混乱をどうにかするので精一杯なんじゃ。正直なところ、厄介払い、といったところじゃな」
なるほど、合点が行った。
どれほどの広さなのか分からないこの世界でカナート君とまた会うなんて至難の技だ。厄介払いとは実にその通りで、ホンネは帰って来るな、ということだろう。目的を果たすまで戻ってこれないのだから。
「仲間と、話し合いをさせていただけますか?」
「それはもちろん構わん。じゃが、あまり時間はない。結論は早く願うぞ」
「俺は明日朝、支部舎の道場で待っている。迎えが行くから一緒に来い。【設定】の凍結はその時に解除する」
「はい。分かりました。よろしくお願いします」
深々と一礼し、私は会議室を後にした。
ヴァンフォード先生に、直々に稽古をつけてもらえる。
かつての私ならばウキウキの余り小躍りするほどの喜び様であったろう。
しかし今は…
己の立場、そしてこの先の目的を考えると、浮かれてはいられない。
それでも、憧れの剣士の指導を受けられることは、重苦しいことばかりのし掛かる私の胸の中に、小さな希望を灯した。
エンディング曲 『私だけ(F)』
https://x.com/HanashioKikei/status/2013221745772376537?s=20
ツイッター(現X)にて公開中




