第四章 紅葉(クレハ)の始まり③
オープニング曲 『クレハの季節』
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そういえば。
「先ほど、ヴァンフォード先生はオランジェット先生のこと呼び捨てでしたよね?」
「気になる?」
「気になる、と言えば、そうかもしれません」
「…素直じゃないなぁ。彼は同期なの。入団時のね。享年もこっちでの加齢もあんまり私と変わんないんじゃないかな? 私は23で死んで、それから7年くらい経ってるか。あっちじゃアラサー呼ばわりな歳ね」
「そんなことは」
「まぁこっちじゃ肉体は歳を取らないから。精神的にだけ、経験が増えた分、歳を取っていく感じ。やぁねぇ、全く」
オランジェットさんはそう言って笑うが、ここは笑っていいのか分からないところなので愛想笑いだけ、返した。
「彼は結構ガサツだからねぇ。モルドレンじゃ住みにくいんじゃないかって気もするんだけど」
「そんなこと、ないと思いますよ? とても優しい、優秀な剣士です」
「ふーん…そう。ふふっ。感じ方は人それぞれだものね。ほら、その優しい剣士さんがお待ちかねだよ」
オランジェットさんは道場の戸をノックもなくガラッと開けて
「おーっす、ヴァンフォード教官殿ぉ! ご注文の品、お届けに来たよ!」
と、元気な声。
「待ちかねたぞ! ……」
ヴァンフォード先生が黙ってしまった。確かに私を見ているような気がするのだが。
「どうしたぁ? スティーズ殿ぉ?」
「あ、いや、何でもない。それじゃ藤枝。昼メシ食ったら続き、始めるぞッ!」
「はいっ!」
オランジェットさんの元気が感染ったのか、私は元気に返事をした。
◆
「まずはコイツを食っちまおう」
先生の片手にあったビニール袋は、2人分のお弁当だった。
どちらも同じ、お肉がてんこ盛りの、お弁当。
「お前がバカなことやってるから冷めちまってるが、まぁいいか」
…あれ?
「…先生は私を待っていてくれたんですか?」
先に食べ終わっていてもおかしくないほどの時間が過ぎているのに。
「ん? ああ。メシってぇのは、一人で食うより大勢で食った方が楽しいだろ」
「…はい。そうですね」
私相手で食べて、楽しいだろうか?
でも、稽古の時と違って、先生は思いの外饒舌だった。
正直、こんなによく話す人だとは思っていなかった。
話しながらもモリモリ食べる。男の人だなぁ、って感心する。同級生の運動部の男の子たちもこんな感じ、だったかな。
さすがに先生と同じペースでは食べられないから、先生が先に食べ終わってしまっているのだが、それでも私を急かすことなく、それでいてよく話しかけてくれる。この辺りはやっぱりモルドレンの男性だ。オランジェットさんのガサツだという指摘は当てはまらないと思う。
話してくれる内容は、やはり剣術のこと。私が【設定】した薙刀を見て、薙刀について教えてくれた。稽古中には何も言ってくれない人が。
それで
「いかがでしょうか?」
薙刀という選択はどうだったのか? 気になって聞いてみた。
「力も無いのに大剣振り回すよりは全然マシだな」
との答え。
やはりそうだったのだ。大剣の重さが瞬発力を奪っていたのだ。私の考えが正しく、何より先生に認めてもらえたことが嬉しい。
もう一つ、気になったことを尋ねてみた。
「道場、誰も来ませんね」
さすがに私ごときに貸し切りにできるほどの優遇は無いだろう、と思ったのだ。
「まぁな。外のゴタゴタで、団員の大部分が出払ってる。民生の方にも応援頼んでるほどだ」
あ…
少し胸が痛む。それは、そもそも私たちが原因を作ってしまったのだから。
「…すみません…」
「何がだ?」
「外の事で…」
「まぁ関係ないわけじゃ無いが、どうも原因の根幹がそこじゃないっぽいんだよな。気にせんでもいいだろう」
「…はい」
少し、食事の喉の通りが悪くなる。でも、今は考えても仕方ない。自分じゃどうにもできないことを考えるより、自分ができることを精一杯やろう。それで、残りのお弁当を、がんばって平らげた。先生と同じ量だったから、さすがにキツかった。
「食い終わったか? じゃぁ早速、と言いたいが、いきなり動いてゲロでも吐かれたら困るから、少しずつ動いていくぞ」
前言撤回。
多分オランジェットさんの言うガサツ、というのはこの辺りを指すのだろう。それでも気遣いは感じられるが。
ともかく、先生の前で素振りをしてみせる。刃の重さ、柄の長さ、それらを含めたフィーリングを元に、少しずつ調整しながら。
それで、もう一つ。
せっかくなら改められることは改めてしまおう。
「先生。【設定】で追加したいことがあるのですが」
「なんだ?」
「メガネを掛けてもよろしいでしょうか?」
「…俺に聞くことか? それ」
「一応、人相とか、そういうことに抵触するかもしれませんので」
「車の免許じゃねぇから、それは好きにしていいぞ」
「はい、ありがとうございます」
転生時に視力の回復を【設定】に含めたのだが、元が悪過ぎたか若干の近視、それと乱視が残ってしまった。それでも生前よりは随分マシで、日常生活で困る場面は無かった。でも今は、せっかくならクッキリと見える世界でやってみようと思ったのだ。
イメージする。
どんなメガネ…でも今必要なのは、クッキリ、しかも動き回る相手を捉えられる広い視界。だからできるだけ大きなフレーム、大きなレンズが良い。見た目なんてク◯食らえだ。
そして今、眼前にメガネがある。びっくりするほどよく見える。案外とあれもこれも見えてなかったのだな、と改めて気が付いた。
「どうだ?」
先生の声に、そちらを見る。
ちょっとドキッとした。
あ、こんな顔をしてらしたのか。想像以上にボヤけて見えていたのだな。
「はい! クッキリ見えます! …いかがいたしました?」
私の顔を見て、先生が黙ってしまった、ような気がした。
「…あ、ああ。よく見えるなら、それでいい」
と曖昧な返事。
さすがにレンズが大き過ぎたか? それでもこの視界の広さは捨て難い。
「それじゃ俺が相手をする。武器は何を使えばいい? リクエストに応えてやる」
木刀ではないのか!
どれほどかは分からないが、少しは本気を出してくれる、ということだ。
「レイピアで、お願いします」
「その心は?」
私は、先の市街地での戦闘について、先生にお話しした。とても強い女性に出会ったこと。全く敵わなかったこと。その彼女が、レイピアを使っていたこと。
「ああ…ソイツはオスカレッテ=グランディールだ。サージエンス支部の団長、いや、元って言うべきなのか。アイツは強ぇえぞ」
「仕合ったことがあるんですか?!」
「こっちとの合同演習の時にな。あの突き、躱すのがやっとで、こっちも有効打を入れられず、結局双方引き分けで終わったさ」
「…先生が…?」
驚きだ。
あの女性がヴァンフォード先生と互角だなんて。
「世の中強ぇヤツはまだまだゴロゴロいる。白騎士団じゃなくても、な。だから、お前には、そんなヤツ相手でも、味方を、仲間を守れる力が必要なんだ。俺から盗める技術は、全部持っていけ!」
「はいッ!」
本当に、先生の言葉は示唆に富む。
力は勝つためじゃない。
守るために必要なものだ、と。
大剣を振り回す私がダメだった理由が、ハッキリした。
私は、勝ちたがっていたのだ。
エンディング曲 『私だけ(F)』
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