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序章 藤枝『紅葉』の帰郷①

オープニング曲 『クレハの季節』

https://x.com/HanashioKikei/status/2013089880767598755?s=20

ツイッター(現X)にて公開中

 夕食の時、「後で部屋へ来い」とハルキに言われたシャルは、食事もそこそこに慌ただしく浴室へ行った。

 そして自分の部屋へ行き、着替えて出てきた。

 わざわざ。

 前開きのシャツとヒラヒラのミニスカートに着替えて。

 いそいそとハルキの部屋へ行った。

 それから間も無く、シャルの鼻にかかった甘ったるい声がドアから漏れてきた。


 始まった。


 それでも…二週間ぶりくらい、なのか。

 私たちはヒエロフで捕えられていたから。

 その前まではこれを…毎日毎晩聞かされていたのだ。

 毎日、だから夜だけとは限らない。

 ちょっと目を離した隙に二人揃って消えて、しばらくしたら何食わぬ顔で戻ってくる。

 澄ましたフリをしてもまるで森の動物の声のようにこちらまで届いているのだけど。

 ロッジから締め出されたこともあったっけね。


 …嬌声が上がる。


 入った、のだろう。


 今夜は移動を始めて最初の夜。

 溜まっていたのだろう。二人とも。


 あの娘の、シャルの声はいつも大きい。

 そうでなくとも言葉少ないモヤシ君やゴリ男君が、その声が聞こえてくると俯き加減だ。

 私たちに聞かせたいのかもしれない。

 悦楽の艶声を。

 でもそれは…自分の興奮から出るモノではないのかもしれない。

 自分がハルキの、この集団のボスの(モノ)であることの主張。

 この群れでの地位の証を立て、私たちにマウンティングしたいのかもしれない。

 実際彼女はそういう態度を私たちに取る。

 常にハルキの傍に居て、ハルキと同じ高さから見下ろしてくるのだ。


 少しの間を置き、声の調子が変わった。

 姿勢でも変えたか。

 パンパンと肉に肉を打ちつける音が加わった。

 それに混じり、液体が粘る音も。

 まだ食事をしているのに聞かされては堪ったものではないが、自分の部屋へ行ってもそれは同じだ。

 逃げ場は無い。


 嫌だと思っても私がこのチームにいなければならない理由。

 私は、かつて白騎士団にいた。

 いた、と言っても胸を張れるようなものではない。

 私は強くなりたかった。

 力が欲しかった。

 その力で、守れるものを守ってみたかった。

 それで、白騎士団の治安部を目指した。

 入団後、訓練を受けてからの適正試験。

 不合格だった。

 私の剣技は、基準に満たなかったらしい。

 力が足りなかったのか。

 技術が未熟だったのか。

 それは分からない。

 ただ、不合格だ、と。

 それで、民生部へ回された。

 剣とは無縁な、市民の世話と事務が主の仕事へ。

 それも止む無しとしばらくやっていたが、心が満たされることは無かった。

 ある時、私は外回りで街の外へ出た時、不貞の輩たちに囲まれた。

 民生部では大剣を持つことは許可されておらず、護身用の小剣のみ。

 力で圧倒され、絶対絶命だった。

 その時。

 目前の輩たちの動きが止まった次の瞬間。

 赤と青の光に包まれ、それらは視界から消え失せた。

 一体何が起こったのか理解できないまま光球が飛んできた方向を見る。

 そこにいたのがハルキだった。

 私は彼に助けられたのだ。

 同時に…心がザワついた。

 強い。

 この人は、強い。

 私の心に欠けていた何かが、他人の手によって埋められて行く。満たされて行く。

 私の憧れた『圧倒的な力』というモノが、形は違えど目の前にある。

 一緒に来るか、と誘われた。

 私は…二つ返事で即答した。

 はい、と。


 また…姿勢を変えたか。


 それからしばらくして…『憧れた強い力』から()()を迫られた。

 私は…断った。

 かなり強く拒絶したから、ハルキの機嫌を損ねたかもしれない。

 それ以来、私に対するハルキの態度は冷ややかになったから。

 次の日には、私の立ち位置が変わっていた。

 対等に扱われなくなったばかりではない。

 戦闘時には一人で前へ出ることを命じられた。

 二人とも魔法を使う。

 特にハルキの魔法は強力な分、発動までの詠唱に時間が掛かる。

 その時間稼ぎをする必要があるのだ。

 理屈では分かる。

 しかし、心は理屈を受け付けない。

 ちなみにその日の夜は激しかった。

 いつまでも、いつまでも、いつまでも。

 夜が明けるまで、饗宴は続いた。

 私にソデにされた憂さ晴らしか、私に盗られそうになった憂さ晴らしか。

 二人とも野獣のような声を上げ、一晩中交わっていた。

 私はそれを一晩中聞かされたのだ。

 そして夜が明け、私は見た。

 シャルの満足げな顔を。

 勝ち誇ったような表情を。


 シャルの声の間隔が短くなってきた。

 同時にハルキの荒い呼吸が聞こえる。

 そして…

 長く甲高い嬌声に続き、野太い絶叫。

 まるで野獣の叫び。

 果てた、か。


 それにしても、ハルキもよくヤるなとも思う。

 相手の顔はハムスターなのに。

 ハムスター相手にサカっているとは思わないのだろうか?

 いや、この世界では獣人は珍しいものではないから、それはルッキズムだ、差別だと言われてしまうかもしれないが。

 相手に穴があれば誰でもいいのではないのか、彼にしてみれば。


 …また始まった。

 お盛んなことだ。


 身体一つで地位を得られるというなら、それは簡単な話だ。

 それでもこんな男と…交わるのは嫌。

 嫌なのに…離れられない。

 それはモヤシ君もゴリ男君も、そしてシャルにしても同じだろう。

 ハルキの魔法はとてつもなく強い。

 その強さに、私たちは守られている。

 他のグループとの諍いはハルキが解決してしまう。

 なんなら相手グループから奪うことすら可能だ。

 そんな恵みを与えられている以上、この男に逆らうことは無理。

 気に入らないからとチームを抜ければ、外は弱肉強食の世界。

 一人で何人もの相手に勝てるというなら話は別だが、私には無理。

 それはモヤシ君もゴリ男君も同じだろう。

 私たちは群れなければ生きてはいけないのだ。

 …もう死んでいるのだけど。


 今日はまた一段と激しい。

 シャルが過呼吸でも起こすのではないかと思うほどに。


 それから時を置き、ゴリ男君が入り、モヤシ君が仲間入りした。

 ゴリ男君を入れた理由は明白だ。

 捨て駒。

 その証拠に、私とツートップで当たる戦略が採られるようになった。

 もっともゴリ男君を理解できるのは私しかいないという事情もある。

 ゴリ男君はまともに言葉を話せない。

 ハルキやシャルと…いやそれ以外、ほぼ全ての人たちとコミュニケーションが取れないのだ。

 彼は転生時、力を求める余り知能に配分すべきステイタスも、力に回してしまった。

 その結果、ほぼ言葉を、名前すらも失ってしまった。

 それを私が知っている理由。

 私には能力(アビリティ)がある。

 能力(アビリティ)とは、白騎士団に登録された特殊技能のこと。

 特殊技能といっても大部分は【魔法】だ。

 【魂の観察者(ソウルスポッター)】と名付けられた能力(アビリティ)は、言葉を介さず相手の思考を理解できる。

 言葉ほど器用ではないのでなんとなく程度ではあるが、ゴリ男君の考えを理解する程度には使えるものなのだ。


 また絶叫。

 しばしのインターバル。

 この静寂の間だけは、心が安まる。


エンディング曲 『私だけ(F)』

https://x.com/HanashioKikei/status/2013221745772376537?s=20

ツイッター(現X)にて公開中

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