表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

5

「立花さんーっ! ちょっと、ねえっ! 待ってってば!」


 校庭を歩いていると、突然、後ろから声を掛けられた。

 振り返ったことを、すぐに後悔する。緑だ。ここまで走ってきたのか、胸に手を当て、肩で息をしている。


「何?」


 今日はやたらと緑が絡んでくる。昼間のことを根に持っているのか?

 早く帰りたいことを――できるだけ態度で示し、それでも一応待つ。


「一緒に帰ろう」


 突然の事で、頭の中が真っ白になった。


「何で?」


 頭の整理が追いつかず、つい訊き返してしまった。

 すると、緑は、ぱっと顔を明るくし「友達だから」と、よく通るその声で、ハッキリとそう言ったのだ。


 頭がクラクラする……。これなら、まだ後ろからバットで殴られた方がマシだ……。


「どうかした……?」


 緑が、首を傾げた。


「あなたの家は……わたしとは反対の方向でしょう? だったら、一緒に帰る意味がないと思うけど?」


 わたしの中では、断ったつもりだったのだが、緑はそんなこと、まったく気にした様子はなく、「気にしなくていいよ!」なーんて、馬鹿げたことを言い出す始末だ。


 ――本当に頭が痛い……。


「あなたのお友達は、どうしたの……?」


 お友達。ここでは緑の取り巻きたちのことを指す。


「今日はみんな、何か用事があるみたいで……。だから私、ひとりなの!」


 緑は、にっこりと笑った。


 ああ。そう。つまりは、こういうこと?


 緑は、いつもは一緒に帰ってくれる《お友達》がいるけど、今日は、全員、何かしらの用事があって、たまたまひとり、寂しくしているから。その……。お世話役として。このわたしが選ばれたというわけね。なるほど。緑のお世話役が出来る日が来るなんて、すごく光栄ではあるが、こちらからしてみれば、迷惑以外の何者でもない。


「そ。でも、わたし、このあと大事な用事があるから……今日は他の人と《一緒》に帰ってくれる? じゃあ、また明日、学校でね」


 わたしは、緑に背を向け、とくに深い意味はないけど、地面に両手をつき、これまた意味もなく《クラウチングスタート》の姿勢に入り、ここから数百メートル離れた校門に向かって、残りの体力を惜しむことなく注ぎ込んだわたしは、それは、それは、速かった。多分、人生で一番速かったに違いない。


「へっ? あぁ……えっ……ちょ……っ! 私をひとり、ここに置いて行くつもり!」


 背後で、緑が叫んだ。


 校門に向かって《全力ダッシュ》を決めたわたしに、緑の声は届かなかった。


「あーあ……いっちゃった……つまんないの……」


 緑は地面に落ちていた、小さな石ころを蹴り飛ばした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ