アクションゲーマー、機兵を駆る!~キーボードマウスで地球防衛~
趣味作品です。
─ 2ⅩⅩⅩ年6月6日 国際宇宙観測センター ─
ピコン…、ピコン…
国際宇宙観測センター…通称ISGSのメインルーム。
小さな劇場ほどの広さの部屋の壁の一面には、巨大スクリーンがレーダーの観測状況を365日24時間映し続けていた。
このスクリーンに映されるレーダーの観測範囲は地球を中心とした半径は、約100kmというこの施設の名に恥じないものである。
「…ふあぁ~あ」
メインルームに常駐する観測結果の分析官500人の内、一人の若者が欠伸をしながら背伸びする。
「暇かね?」
そこに通りすがった口髭を生やした初老の男が、欠伸をした若者に揶揄うように声を掛けた。
「あっ、済みませんでした!」
声を掛けられた若者は、慌てて姿勢を正して謝罪を口にする。
「気持ちは分かるが、万が一があるかも知れない。
気を付けたまえよ。」
元々そこまで叱るつもりが無かった初老の男は、若者が素直に謝罪を口にしたことで口頭注意に留めた。
「それじゃ頑張りたまえよ。」
ポンポン
初老の男は自分の若い頃を思い出し、若者の肩を軽く叩いて激励する。
「はい!」
若者が詳細分析のPCに向き直るのを見届け、初老の男は自分の仕事部屋に踵を返す─
ピコンッ!
その瞬間、レーダーが異物を探知した通知音がメインルームに木霊する。
「何だ?」
「おそらく彗星でしょう。」
初老の男の問いに、欠伸をしていた若者は推測を述べる。
滅多に無いことではあるが、これまでのケースではほとんどがそうだった。
しかし今回は違った。
ピコンッ!ピコンッ!
次々と鳴る通知音。
「っ!?」
前例に無い現象に、若者は目を見開いて硬直してしまう。
ピコンッ!ピコンッ!ピコンッ!ピコンッ!
こうしている間にも通知は次々となされ、メインルーム内が俄に慌ただしくなる。
ピコンッ!ピコンッ!ピコピコピコピコ
遂に通知が追い付かなくなるという明らかな異常事態。
「くっ…、借りるぞ!」
居ても立っても居られなくなった初老の男は、硬直する若者のPCを引っ手繰り詳細の分析を開始する。
ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ
(早く…、早くしてくれっ…!)
分析の待ち時間中、初老の男の脳内では警鐘が鳴り響く。
[ scan completion ]
(来たっ…!)
初老の男は、ようやく完了した分析結果のファイルを逸る気持ちで開く。
「………何だ、これはっ…!?」
分析結果を読んだ初老の男は、PC画面に記されたあり得ない分析結果に驚愕する。
「未確認飛行物体の大艦隊だと…!」
それは何百年もの昔、人類が宇宙に向けて飛ばした宇宙探査機によって誘われて来た。
「人類が滅ぶぞ…!」
外来生物に原生生物が駆逐される。
それは人類…否、地球の歴史上幾度となく繰り返され証明される摂理。
この日。
後の地球の歴史に人類の大虐殺として記録される、星の海原からやって来た外来生物と原生生物の生存競争が勃発したのだった。
─ 同日 日本 ─
どーもどーも、芸馬宏斗です。
今や廃れたpcアクゲーが趣味で、世界大会入賞賞品のキーマウが何よりの宝物の純日本人独身男性25歳だ。(恋人募集中!)
…え?誰に自己紹介してるんだって?
さあ…?何か自己紹介が必要な気がしたんだが、まあ気にしたら負けだ。
「…っと、もう少し…」
それなりに高い高画質ゲーム用モニターの中では、デフォルトのままの地味なプレイヤーキャラが騎士鎧に剣という装備で、モニターに収まりきらない巨体の黒いドラゴンを攻めたてる。
ドラゴンのHPを示すバーの残りはあと僅か。
俺が今やっているゲームのタイトルは「 Dragon Soul 」という、アクゲー全盛時代に最高難易度と呼び名の高かった死にゲーの高画質リメイク版だ。
そして今俺が戦っているドラゴンは、アクゲー全盛時代の余多のプロゲーマーですら匙を投げたと言われるラスボスだ。
この黒いドラゴンのせいで、このゲームのストーリーの結末は長らく謎のまま“だった”のだ。
(イケるっ…、イケるぞ!)
トライ&エラーを繰り返し、かれこれ数時間は針の穴を通すような緻密な操作を続けていた。
それでもニアミスは何度かあって、現在回復瓶の残り使用回数は0。
『GAAAAA!!』
ドラゴンが咆哮を上げ、口元に蒼白い炎がちらつく。
ブレス攻撃の動作。
(来たっ!)
ブレス攻撃は範囲が広く操作キャラのHPの9割を消し飛ばすヒットダメージに加え、秒間1回×3秒の当たり判定継続時間がある凶悪な攻撃だ。
しかしその分予備動作が他の攻撃動作に比べ僅かに長い。
このボスで唯一安全に連続で攻撃出来る、まさにハイリスクハイリターン。
ボスのHPが残り僅かの今、数時間に及んだ戦いに終止符を打つ千載一遇の好機だ。
『ザシュッ!』
一撃、HPの残りが目測で1/4削れる。
『ザシュッ!』
二撃、HPの残りが半分減った。
『ザシュッ!』
三撃、HPバーはほぼ見えない。
ピンポーンッ
「っ!」
ビクッ!カタッ
極限の集中状態の最中、インターホンが鳴り過剰に反応してしまい、キーボードの入力が一瞬遅れた。
(やべっ…!)
『ゴオオオォォッ…!』
「しまった!」と思った時には既に遅く、攻撃モーション中の操作キャラが炎の直撃を食らう。
カタカタカタッ!
操作キャラのHPの残りは1割未満。
俺は一縷の望みをかけて、回避モーションのキーを連打する…が。
『グワアアァッ…!』
操作キャラの断末魔、そしてモニターが暗転し、歪んだフォントの文字が浮かび上がる。
[ you died ]
「ぐわああぁっ…!」
ガチャ
「おおーやってんね~。
…プレイヤーキャラの真似上手いじゃん。」
などと宣いながら、人の家に勝手に上がり込んで来たこいつの名前は十羽聖次。
小学生からの腐れ縁で、俺をPCアクゲーに沼らせた張本人だ。
にも関わらず聖次の野郎は、今や主流となって久しいフルダイブVRに乗り換えてしまったのだが…。
「お前、お前えぇ~っ!」
数時間の努力をパーにされ、聖次の襟を掴んで前後に揺さぶる。
「おー熱烈な歓迎だなぁ~。
だが俺はノーマルなんだ、悪いなホモ。」
「だ・れ・が、お前なんか!
そして俺はホモじゃねぇーっ!」
芸馬→ゲイ→ホモという連想なのは分かるが、そのせいで中学高校とどれだけ恥ずかしい思いをしたことか!
「手前こそ“辞典”じゃねぇか!?」
名前を弄られた俺は、聖次の名前と聖次にまつわるエピソードを弄り返す。
「誰が“永遠の2番手”で“鈍器”じゃ!」
そう。
この男…聖次は、いくら努力しても一番には決して成れないというジンクスがあるのだ。
学校のテストしかり、体育祭や部活などのスポーツしかり。
大体何らかのイレギュラーが起こり、聖次や聖次が属するチームは二位になる。
だから聖次&二位を制する→次点→辞典という、ちょっと複数な連想だ。(こじつけとも言う。)
聖次はあだ名はともかく、最早呪いとも言える自分の体質を突つかれるのが嫌いなのだ。
…理由?
………。
「二番手にしか成れない」という聖次の体質は、「異性関係にも適用される」とでも言っておこう。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
「…んで?ヒロは何を発狂してたんだ?」
いつもの儀式をしてしばらく、落ち着いた聖次に問われた。
「ドラソの黒竜が後一撃で倒せたんだよぉ…。」
聖次に対する怒りが萎えた今、思い出すのもただ辛い。
「エンディングムービーならMy Tubeで見れるだろうに…。」
「俺はVR版じゃなくPC版のムービーが見たいんだよぉっ!」
確かにFDVRで自由度の高いモーションを取れるようになったことで、ドラソクリア耐久配信などというものが成立する程度にはクリアの敷居が下がった。
しかしとある検証動画で、VR版の黒竜のHPがPC版より遥かに減少していることが明らかとなり、肝心のムービーも中途半端な終わり方で物議を醸した。
PC版のファンからは「VR 版のエンディングムービーは、VR版に逃げた軟弱者へのお情け」という過激な意見が出る一方、大多数は「黒竜の弱体化は連続ダイブ時間の制限によるもので、エンディングはPC版と同じ」「中途半端な終わり方は次作の示唆」という筋の通った意見で纏まっていた。
しかしドラソの製作会社が「「 Dragon Soul 」のストーリー上の続編は予定していない。」と発言したとするゲーム情報誌の記事が見つかったことから、「真のエンディング派」は支持者が少数ながら古参者の支持を集めている。
「はぁ…、分かったよ。
俺が聖職者で回復サポートするから、もう一辺やってみろよ。」
「流石聖次、心の友よ。」
そう言って俺はいそいそと押し入れを漁り、埃を被っていたコントローラーを見つけて聖次に渡す。
「うぇ、バッチぃ…。」
うるせぇっ、腐肉スライムぶつけんぞ!
… … … … … … …。
… … … …。
…。
─ トライn回目 ─
『グワアアァッ…!』
もう幾度となく聞いたプレイヤーキャラの断末魔。
「あー…、ドンマイ?」
これは誤算だ。
「「ドンマイ?」じゃねぇよ!
何なんだよお前、殺られるの早過ぎんだろっ!?」
ソロプレイの時は回復が足りずに詰まっていた。
だから回復役がいれば多少のミスは問題にならない…筈だった。
「いや~、VRならこうはならない自信はあるんだけどなぁ~。」
確かに聖次はVRバトロワのプロ大会で二位になったこともあるので、聖次の自信は信用できる。
しかし…しかし、だ。
「一回も回復することなく退場とか、お前が居る意味無いじゃんかよ…。」
むしろボスのモーションがソロと変わってしまうので、逆にやりにくくなっている説まである。
「…いや~、6月になったばかりだってのに暑いなぁ~。」
「あからさま過ぎんだろっ!?」
下手な誤魔化しが突っ込み待ちであると分かっていながら、突っ込まずにはいられないのが俺たちだ。
「ま、アイスでも食って一端頭冷やそうぜ?」
冷やすってそういうのじゃ…
「…ファーゲン?」
ブランド物のお高いカップアイスかと聖次に問う。
「ゴチになります!」
「それはいいけど立てよ。」
表出ろ、一緒に行くんだよ!
奢りは良くてもパシりはNG、それが俺という人間だ。
…………………。
…………。
…。
ジリジリ…
コンビニに向かう道中、アスファルトからの照り返しに肌を焼かれる。
聖次は誤魔化しで言っていたが、6月の始めだというのに暑いというのは本当だった。
「ひぃ…ひぃ…溶ける。
…なあヒロ、俺溶けちまうよ…。」
汗の一つも掻かずに隣を歩く聖次が、死にそうな顔を作ってふざける。
そんな聖次への、俺の返答は一つ。
「溶けちまえ。」
そうすりゃ買うアイスは一つで済む。
「ところがどっこい、コンビニだ!」
聖次は俺に振り返り、背にコンビニを背負って得意顔だ。
と、そこへ…
ブロロロッ…、ブロロロッ…!
俺たちの歩く歩道の横の道路を、自衛隊の軽装甲車両が複数、猛スピードで通過して行った。
「危ねっ!
お巡りさ~ん、スピード違反の兵隊さんを捕まえて~!」
ガキか。
「ガキか。」
おっと、口が滑った。
「何おぅっ!?俺は公務員であろうと道交法の遵守をだな─」
「はいはい。
じっくり聞きたいとこだが、お前溶けちまうんじゃなかったのか?」
高説を垂れ始めた聖次を、数分前の聖次の設定に乗っかって突つく。
「おっと…そうだった、急ぐぞ!」
設定したならしっかり守れよな。
「へいへい…。」
などと思いながら、急かす聖次を追って歩く。
「急げって、早くしないと─」
ウウゥ~~ッ!
突如鳴り始めたサイレン。
「何だっ!?」
「知るかっ!?」
非常事態を知らせる不協和音に、狼狽える俺たち。
『ただ今…全国に…緊急避難指示が発令されました。』
何だってっ!?
『お近くの公共シェルター…または…地下鉄などの地下施設に…避難して下さい。』
「隣のバカ国が遂に核ミサイルでも射ちやがったてのか!?」
放送の内容を聞く限り自然災害では無い、…聖次の言ったことは可能性が高そうだ。
「とにかくアイスは後だ!」
「おうっ、仕方ねぇ!」
俺と聖次は、とりあえず役所に向かって走り出した。
バタバタバタバタ…
ブーン、ブーン…
先ほどの放送を聞いて行動の早い者が、手段問わず次々と役所に向かって行く。
…………………。
…………。
…。
役所に向かい始めて数分後。
「何だってんだよ、本当に!?」
俺も聖次も運動が得意では無い。
休日に集まってゲーム三昧をするような男達は、避難する人々に遅れていく。
その焦りから、俺は誰ともなく悪態をつく。
「…なっ、おいヒロっ…あれ!」
今度は本当に疲労で辛そうな顔をした聖次が、唖然として立ち止まり空を指差す。
「何だっ…って本当に何だあれ!」
立ち止まっている暇は無いと叱責しようとした俺だが、上空に浮かぶ銀色の円盤を見て、聖次と同様に唖然と立ち止まってしまう。
「UFO…?ハハッ、いつの間に俺はSFゲームを起動したんだ?」
受け入れ難い光景に、聖次はここがゲームの中だと現実逃避を始めてしまう。
「おい聖次っ、しっかりしろ!」
聖次を正気に戻そうとする俺だが次の瞬間、今以上に現実離れした光景を“目に焼きつける”こととなった。
キュイイィ…
鳥肌が立つような高音と共に、銀色の円盤の下に光球が発生する。
その真下には役所を含む都市中心部。
「…まさかっ!?」
フワッ
円盤の1/5程のサイズにまで膨張した光球が、ゆっくりと地上に落ちていく。
次の瞬間。
ドオオオォォッ…!
大地を揺らして響く轟音。
「ぶわっ…!?」
次いで届いた強風に煽られ、地面を転がる。
…パラッ
倒れた俺に、石の粒が降ってくる。
「痛て…、って街はどうなった!?」
ガバッ!
俺は痛む身体を無視して上体を起こす。
「そんなっ!?ウソだろ…。」
俺の目に映ったのは瓦礫と化した街と、円盤から放出される無数の小さな円盤と、いくつかの銀色の逆さ円錐。
どうやら敵は空からやって来て、人間を皆殺しにしたいらしいことを理解させられた。
「…………。」
何故?どうして?そんな得体もない問いが頭の中をループする。
「……っ、………い!」
何かが聞こえるが、頭が働かない。
ガクンガクンッ!
「おいっ、ヒロしっかりしろ!」
「…あ、聖次…。」
身体を激しく揺さぶられ、やっと頭が働き始める。
「よし、聞こえてるな。
…街がああなった以上、俺たちは自分で判断して避難しなくちゃならない。」
…確かに街がああなる前の避難勧告で、こういう時に頼りにするべき公務員などは軒並み壊滅状態にあるだろう。
「…でも、自分で判断ったって…。」
自然災害ならいくらかの知識はあるが、エイリアンが侵略して来た時に取る行動など知らない。
「とりあえずヒロん家に戻るぞ。
んで、持てるもん持ってここから出来るだけ離れよう。」
聖次に行動方針を示されたことで、まだ多少の混乱があれど思考が巡り始めた。
と、同時にある疑問が浮かぶ。
「聖次の荷物は?」
聖次の口ぶりだと、俺の家で荷物を詰めたらそのまま行くという風に聞こえた。
「あ?…ヒロお前、俺ん家が何処にあるか知ってんだろ?」
「あっ…。」
聖次の家は市内にある…いや、あった。
「てなわけで、ヒロん家にある物は現時点を以て俺と共用だ。」
「お前の物は俺たちの物ってな?」と言う聖次だが、浮かべた笑みは暗いものが滲んでいた。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
『突如世界中に襲来したUFOですが、光の球を投下し街を壊滅させたという速報が入りました。
壊滅した街は』
プツン
パンパンに膨らんだバックパックを背負った聖次が、行き先決定の参考がてら点けていたテレビを消す。
これで分かったことと言えば、UFOに攻撃を受けたのはここだけでは無いことと、世界各国で軍が出動しているということくらいか。
「何処に行く?」
テレビを消してから考え込んでいる聖次に問う。
「…自衛隊の基地に向かおう。」
「何だって!?」
各国では軍が出動しているが、日本の自衛隊も例外では無い。
となると自衛隊の基地なんかは、エイリアンの良い標的となるだろう。
そんな危ないところに態々向かおうと言うのか?
「考えてみろ、エイリアンはいきなり街を吹き飛ばした。
極端な話、エイリアンに取って地球上の全てが攻撃目標になる。
なら防衛設備のある基地に身を寄せた方が、防衛設備の無い場所より安全かも知れない。」
…流石は学年二位の頭脳、聖次の考え方は言われてみれば納得できる。
それに近くには丁度良く、小規模ながら自衛隊の駐屯地があった筈だ。
「分かった、行こう。」
俺は立ち上がり、聖次同様にバックパックを背負い緩衝材を詰めた手提げカバンを持ち上げる。
「…なぁ、それ必要か?」
手提げカバンを指差し、呆れた顔で訊ねてくる聖次。
決まっているだろう?
「こいつを置いて行くなんてとんでも無い!」
背中のバックパックか手提げカバンかを選べと言われたら、俺は間違い無く手提げカバンを選ぶ。
「とんでも無いのはお前の頭ん中だよ。」
…何はともあれ、最寄りの駐屯地へいざ行かん!
… … … … … … …。
… … … …。
…。
平和な時には徒歩でも1時間かそこらの時間で辿り着けた最寄りの駐屯地も、低空を飛行し生存者を探す小型円盤を避けながらでは、辿り着くのを諦めてしまいそうになるほど遠い。
ブゥウウゥンッ…!
空気を震わせる独特な音を発っしながら、一機の小型円盤が森を歩く俺たちの頭上を通過する。
ゴオオォッ…!
通過した小型円盤の後を、日本が世界に誇る最新鋭ステルス戦闘機 F - V4J カミカゼ が追う。
ビシュッ!
カミカゼの右翼の付け根からレーザーが発射される。
ボッ…
レーザーの一撃を受け、遥か遠くで撃墜される小型円盤。
自衛隊の最新鋭戦闘機は、エイリアンの小型円盤より優れているらしい。
しかし…
ビビビビビッ!
小型円盤を撃墜したカミカゼに、四方八方から小型円盤のレーザーが殺到する。
ボッ、ボンッ!
数発は耐えるカミカゼだが、集中砲火をくらい機体から出火。
出火時の爆発で重要部が損傷したのかは分からないが、カミカゼは制御を失い高度を落として行く。
ズドオォン…
墜落。
機体の性能が勝っていたとしても、エイリアンの小型円盤の圧倒的物量に、自衛隊の戦闘機部隊は劣勢を強いられている。
「おいっヒロ、見えたぞ!」
空戦の一部始終を絶望感と共に眺めていた俺に、先を歩いていた聖次が喜色を隠さずに、目的地に到着したことを伝えてきた。
…………………。
…………。
…。
俺たちの目的地の駐屯地は、市街地から離れた山間部に、ひっそりと設けられていた。
駐屯地の規模としては防衛拠点になるほどでは無いが射爆場を備えていて、それ故に開発段階と思わしき自衛隊の戦闘車両が度々目撃されていた。
また一部の自称軍事専門家達は、駐屯地の規模に対して入って行く人員や物質が多いことを指摘しており、彼ら曰く「地上の射爆場はダミーで、地下に秘密の開発施設がある筈だ。」とのこと。
(ははっ…、こりゃガチかも知れないな。)
駐屯地に待機する、何台もの大型トレーラーを見て俺はそう思った。
腐れ縁たる聖次も当然同様の噂は知っていて、これまた俺と同じように思ったのか、俺に確認するように話かけてきた。
「なあヒロ、…あれって明らかに移送準備だよな?」
俺たちの他にもいた一般人は大型トレーラーに注目しがちだが、聖次は元々この駐屯地に置かれていた人員輸送車を指している。
ダンプカーの荷台に屋根をかけただけのような一見何の変哲の無いその車両には、本来乗り込むべき自衛隊員が何らかの機材を次々と運び入れていたのだ。
「戦うこと以上に今優先すべきことなのか!?」
俺たちが気付くことは他の人たちも気付く。
俺たちの他にいた一般人の1グループ、家族連れの父親らしき男が自衛隊員の一人に怒鳴る。
「隊に下された命令を、一般人の方に教えるわけにはいかないんです!
あなた方は我々が責任を持って保護するので、落ち着いて我々の指示に従って下さい!」
突然戦闘に巻き込まれて不安になるのは分かるが、自衛隊も己の役目を果たそうと必死なのだ。
ブゥウウゥンッ…
小型円盤の発てるあの音が近付いて来た。
「敵機接近、数およそ10!」
警戒をしていた隊員が叫ぶ。
「対空防御用意!…」
ブゥウウゥンッ!
円盤が高速で飛来する。
「始めっ!」
バリバリバリバリッ!
6本の銃身を束ねた牽引式の対空ガトリングガンが、轟音を鳴らして高速で20ミリ弾を吐き出す。
ブゥウウゥンッ ブゥウウゥンッ
ガガガッ!
ボッ、…ズザアアァ!
20ミリ弾を受け、何機かの小型円盤が駐屯地の近くに落ちて慣性で滑っていく。
「まだ来るぞっ!?」
一度の襲撃は防げても、続けて何度も襲撃されては対空ガトリングの銃身が焼けてしまう。
元より数台だった対空ガトリングガンは次々に焼き付いて使いものにならなくなってしまう。
ブゥウウゥンッ!
小型円盤が防衛ラインを突破して来る。
「退避ぃーっ!」
部隊指揮官が叫ぶも間に合わない。
ビッ!…バアァンッ!
「うわあぁっ!」
「キャアアァッ!」
一度攻撃を受けてしまったら、後は数に蹂躙されるだけだった。
バアァンッ!
「ぐわっ!」
かくいう俺も、何度目かの着弾の余波に吹き飛ばされ、意識を失ったのであった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
もしも…、もしもこれが物語なら。
きっと…目覚めたら今日の朝に戻っていたりして、俺は一目散にここから逃げることだろう。
ズキッ…
しかし全身に感じる痛みが、これが現実だと突き付けてくる。
ゴゴゴゴ…ガコンッ
「おーい誰か!生きているやつはいないのか!?」
「隊長っ、ゼロ・ストライカー移送用トレーラー…全滅です!」
「こっちに生存者がいるぞ!」
ガヤガヤガヤ…
震動と何かが開いたような音の後、小型円盤の空爆を生き延びたにしては無事過ぎるやり取りと、多数の人が動き回る気配がする。
トントン…
「大丈夫ですかっ!聞こえますかっ!?」
背中を軽く叩かれ、大声で意識の確認をされる。
「…ぅ、ぁあ。」
ジャリッ…
返事をしようとして、口の中に土が入る。
この辺で身体中を支配していた痛みが和らぎ始め、ようやく自分がうつ伏せに倒れていることを知った。
「こちらに生存者アリ!
一般人男性一名、外傷は軽微、意識もあるもよう!」
「何っ、本当か!?
衛生兵、強心剤の投与を!」
バタバタッ
誰か…聞こえた会話からおそらく衛生兵が駆け寄って来る。
ポン、ポン、…ゴロリ
そして軽く何かを確認した後、仰向けにされる俺。
そして…
「チクッとしますが我慢して下さいね!」
ブスッ!
「んぐっ!?」
痛ぇ、思いっきり刺しやがった!
「チクッと」とか言うレベルを超越してんぞ!?
予防接種や採血の比では無い痛みに、助けられた身だが軽く殺意を覚える。
「メディック、こっちに来てくれ!」
「了解!」
バタバタッ…
刺すだけ刺して、転がる俺を放置して慌ただしく去って行く衛生兵。
「よお…、お互い運が良かったみたいだな。
立てそうか?」
仰向けに寝転んだままの俺に、聖次が軽口を叩きながら手を伸ばす。
「本当に運が良いなら、エイリアンに空爆されるもんかよっ!」
グイッ!
「っとと…。」
軽口を叩き返しながら、聖次に引っ張られて立ち上がる…が少しふらついた。
「それな!
はぁ…、ほんとにこれからどうなっちまうってんだよ…。」
これからの良い展望が浮かばず、流石に弱った様子の聖次。
世界有数の治安を誇る国で暮らす、他国人に「平和ボケしている」とも揶揄される日本人にこの現実は厳し過ぎた。
むしろそれで発狂して暴れ出さないだけ、聖次の精神は強靭な部類だろう。
しかしこれで終わりでは無い。
ブゥウウゥンッ…
「ひぃっ…き、来た!?」
先ほどの空爆を生き延びた誰かが怯えた声を出す。
また人が集まり始めたことで探知されたのだろう。
しかし先ほどと違い、対空兵器は全て破壊された後だ。
「くっ…やむを得ん!
安室特技二尉、行けるか!?」
『やらなきゃならないんでしょう?
行けますよ。』
指揮官らしき自衛隊員が無線に聞くと、スピーカーに発せられた声が何処からか答えた。
ブゥウウッ
「見えた、敵機だ!」
その数およそ10、後続は無い。
一度破壊した地点など、一回の攻撃で十分ということだろう。
ウウッ!
高度を下げた、地上攻撃態勢。
メキメキメキッ…!
「何だ、…っ!?」
近くで聞こえた破壊音に、俺は破損した建物の倒壊かと危惧した。
しかしその音は、駐屯地の地下から迫り上がって来ていた巨大リフト、その上にあるいくつかのコンテナの内一つが、内側から破られた音だった。
「…巨大なロボット?」
コンテナの中から出てきたのは、戦闘機を彷彿とさせる人型の機体。
ガシャ…
立ち上がったその機体は、下げていた両腕を前に突き出すかたちで固定する。
ブゥウウゥンッ!
小型円盤が迫る。
それは先ほどの空襲の焼き直しのように思えた…が。
トトトトトトトトトトッ!
空砲のような軽い発砲音。
しかし効果は絶大だった。
ボンッ、ボッ!
被弾した小型円盤がクレーのように落とされていく。
トトトトッ
ボッ、ボンッ!
トトトトッ
ボンッ、ボンッ!
トトトトットトトトッ
ボンッボンッ、ボッ!
『最後だ…!』
トトッ、…ボッ!
『…すげぇな。』
危なげ無く10機の小型円盤が処理された。
パイロット?の安室二尉も驚いている。
「良し、…新たに移送トレーラーを要請しろ!
安室特技二尉、新たな移送トレーラー到着まで防衛出来そうか?」
小型円盤の編隊を処理したことで、自衛隊は次の行動に移るつもりのようだ。
『俺の機体だけじゃ、弾が足りないですね。
レーザーも、ああも敵機の数が多いんじゃ…。』
性能的には勝っていたカミカゼと同じく、結局一機では小型円盤の物量には敵わない。
残酷なまでの事実だった。
「しかし我々では…」
『分かってます、だから俺は“特技”なんです。』
あんな特殊な兵器は、自衛隊員と言えども操縦出来る者は限られているらしいことが、指揮官と安室二尉の会話から分かった。
「その特技って何のことなんですか?」
そう自衛隊の指揮官に訊ねたのは、我が友聖次。
「何だね?一般人に機密を教えるわけには─」
『いわゆるVR適性ってやつだ。』
指揮官の言葉に重ねて、パイロットの安室二尉自身が答えた。
「おいっ─」
『今は機密とか言っていられ無いでしょう?
…それで、えっと…。』
「俺、十羽聖次って名前です。
大会で準優勝する程度にはVR適性が高いですよ。」
もしかして聖次はあの機体に乗るつもりでは無かろうか!?
『ほぅ…それは中々。
なら試作二号機に乗ってくれ、囮程度の動きはしてくれよ?
整備班、勇敢な彼の搭乗補助と二号機の起動を頼む。』
置いてけぼりの指揮官。
この指揮の儘ならない非常時には、結局戦う力のある者の意見が強いのだ。
そして今、その戦う力のある者に認められた聖次が言う。
「あっ…あそこにいる芸馬宏斗って奴も、俺ほどでは無いですがVR適性高いっすよ?」
あの馬鹿っ、何を暴露してくれているのか!?
『そうか…なら彼は試作三号機だ。』
いやいやいやいや、本気か貴様っ!?
「無理無理ムリムリ!!」
確かに俺のVR適性も高い方らしいが、俺はどうしても現実と剥離したVR内の動きが苦手なのだ。
ガシッ…!
高速で首を横に振り後退る俺を、自衛隊員…多分整備班が拘束する。
ズルズル…
俺はそのまま、デカデカと「Ⅲ」と書かれたコンテナの方に引き擦られて行ったのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
キュイイィ… パッパッパッ
モーターが回転しているような音、順に光が灯る様々な電装計器類。
はい。
無理やりぶち込まれた人型兵器のコックピット内です。
「うぅっ…、やだよーたたかいたくないよー(泣)」
あまりの拒否感に、精神が若返る俺。
しかしいくら駄々を捏ねてみても、固く閉ざされたコックピットハッチは開かない。
「くそっ…聖次の奴、覚えておけよな…!」
『プロトⅡ、プロトⅢ、聞こえるか?』
『は、はいっ!
プロトⅡ、聞こえます!』
えっと…通信はどうすれば?
『プロトⅢどうした?聞こえないのか!』
『ヒロまさか…、まだダイブしてないんじゃ無いのか?』
嘘だろっ、まさか通信まで脳波感応なのかよっ!?
PCゲームのVCと異なり、VRの脳波感応は考えるだけで、生体データから合成した音声信号を、相手の脳に直接投射するシステムだ。
これにより、思考→発声→耳で音声受信→脳で言語に変換という伝達プロセスの発声と音声受信を省略し、単純に伝達速度が上がる他、伝えたい相手に聞き間違い無く伝達出来る。
実に軍隊向きではないか?
しかしデメリットとして、慣れていないと思考が全て流出するという、黒歴史確定現象が起きてしまうのだ。
それを多感な年頃にやらかせば、二度と脳波感応など使いたいとは思えない。
『特技二尉、敵編隊が来る!』
外の自衛隊の指揮官…隊長さんでいっか…。
が、三度の敵編隊襲来を無線で伝えてきた。
外部からはさすがに脳波感応とはいかないらしい。
『くそっ、プロトⅢは駄目だ。
俺とプロトⅡで迎撃する!…プロトⅡ、お前はやれるな?』
『ヒロがすんませんねぇ。
ま、ヒロが吹っ切れるまでは持ちこたえさせないといけませんから!』
聖次の奴…。
「何でそんな覚悟キマってんだよぉ~…。」
操縦方法がVRだからって…これは実戦で、たった2機の人型機動兵器で、無双ゲームみたいに勝てるわけが無い。
…ゲーム?
『富良糸一佐、敵の来る方向は同じ…こちらから打って出ます。』
『…分かった。
君たちが敵を食い止めている間に、撤収準備を急ごう。』
打って出るなんて、万が一の時はどうするつもりなのか?
運良く機体の行動不能で済んでも、エイリアンは敵対したモノを徹底的に破壊しようとするのではないか?
駐屯地の惨状から、それは明らかだ。
安室二尉はまだいい、だが聖次は一般人で…俺の友人だ。
『良しプロトⅡ、行くぞ付いてこい!』
ドウッ!
『プロトⅡ、十羽聖次…行きま~す!』
ドウッ!
俺の機体に伝わる叩き付けるような二回の振動。
ゴウウゥ…
巨大な物体が離れていくのが分かった。
『…さて、ヒロと言ったな?』
富良糸という名前らしい隊長さんが、無線の向こうから話かけてきた。
『ああ、返事は求めていない。
…独り言だと思って聞き流してくれ。』
「求めていない」「独り」「聞き流す」…、言葉の端々から富良糸隊長が、俺に欠片も期待していないことが分かった。
(…期待?俺は何を…?)
『私…いや俺は「国を護ろう」だとかそんな崇高な意志で自衛隊になったわけじゃない。』
聖次が戦いに行ったと言うのに、このおっさんは自分語りか?
『憧れだけで入隊して、現実に打ちのめされた。』
理想通りの人生なんか歩めやしない。
そんなことは分かっている。
…だから俺はゲームに魅せられたのかも知れない。
『それでも見っとも無く隊にしがみ付いていたら、いつの間にか隊の秘密計画に関与していたよ。』
努力はいつか実を結ぶとかいう話ならうんざりだ。
『だと言うのにこの期に及んで俺がやったことと言えば、建前上でも守るべき一般人を兵器に乗せたことだけだ。』
罪悪感を感じているなら、今すぐここから出して欲しい。
『君に我々を守って戦えとは言わない。
ただ何の偶然かその機体は、私では無く君達の方が扱えるようだ。』
…結局「強い兵器を使えるなら戦え」という意味じゃないのか?
『我々では残念ながら君達を守る力が不足している。
だがその機体を使えば、君は君自身を守ることが出来る。』
…多数の円盤をたった一機で撃退したことを思えば、隊長さんの言っていることは確かなのだろう。
『まるで映画みたいな状況だが、そうなると彼らは主人公か?』
唐突に変わった話の内容に、俺は真面目な話が終わったことを覚る。
(てか、本当に自分語りかよ…。)
どうしようも無い現実に、実は隊長さんも参っているのかも知れない。
『最近の映画なら意外と俺らみたいなのが主人公だったりしますよ。』
無線に割り込んで来た声は、外で撤収作業を進める隊員の誰かだろうか?
『一佐済まないっ、何機かそっちに抜けられた!』
打って出た安室二尉から、緊迫した無線が入る。
『2班、3班は作業を急げ!
1班は携行SAMを持って私に付いて来い!』
無線から聞こえた隊員さんの「イッパン」という言葉にドキリとする。
(違う、一般人に武器を持たせても戦えやしないんだ。)
それこそ映画やゲームでは無いのだから、訓練もしていない人間が戦える道理など無い。
…これは聖次が例外なだけだ。
カタッ…
カプセルに押し込められる時ですら手放さなかった宝物のキーボード・マウスが、入れていた手提げカバンから出てくる。
(…ゲーム。)
昔からゲーム…とりわけFPSというジャンルのゲームは、しばしば「現実との混同」を問題視されていた。
(ゲームを現実と混同する?)
それはゲームに触れたことの無い者が、イメージだけでゲームを悪し様に言って騒いでいるだけだと俺は思う。
『何だあれっ、オブジェじゃなかったのか!?』
『一佐、エイリアンの機動兵器だっ!』
聞こえて来る無線はまさにゲームのようで、現実感が無い。
(現実感が無い、つまりフィクション…?)
ゲームを現実と混同するのはタブーだが、今は現実がゲームに寄せて来ている。
「ゲームなら…、怖く無い…!」
シュル…、カチッ
俺はVRカプセルの外部端末用端子に、キーボード・マウスを接続する。
ヴンッ…!
外部機器が接続されたことで、VRカプセル内にホログラムモニターが現れた。
(良し、ヨシッ!)
VR技術の発展により今や様々な分野に普及したVR操作。
特に人型ドローンなどの複雑な動作を行う機械はプログラムやAIでの制御に難があり、VRでの遠隔操作が一般的となって久しい。
しかし機械である以上、動作の調整などの整備が必要だ。
この機体も機体内部にVRカプセルを内蔵しているが、人型ドローンの類いだからそれは変わらないだろう。
カタカタッ…、クリッカチッ!
(となれば整備用のプログラムもあるってな…!)
機械の調整には動作の繰り返しが必要であり、その度に一々ダイブなどしていられない。
それに場合によっては長時間の試運転も行ったりもするため、こうした機械にはテストプログラムが内蔵されているわけだ。
『うわぁっ!』
『プロトⅡ!?』
『っ…、大丈夫です!』
(クソッ、メンテプログラムはどれだ!?)
無線からは聖次達がエイリアンの機動兵器に苦戦している様子が聞こえてきて焦る。
カチカチッ
(違う!)
カチカチッ
(これでも無い!)
流石は軍事機密の塊である秘密兵器と言ったところで、機体に内蔵されているデータが大量にある。
一応検索はかけたのだが、それでも100近いファイルがヒットした。
俺はそれらしき名前のファイルを片端から開いて確認するが、試験機だからかプログラムによる実働データばかりだ。
プログラムによる実働データがあるということは、確実に稼働プログラムがある筈なのだが…。
『隊長っ、SAMの残弾がありません!』
『クソッ、小銃で撃ち落とせ!』
『了解っ!』
円盤の迎撃に出た隊長さん達も、かなり無茶な行動を取り始めた。
カチカチッ
(あった!)
ようやく目的のメンテプログラムを発見した。
(で、あとは…)
カチカチッ、カタカタカタッ、カチカチッ
思った通り非常に細分化された各部動作プログラムを、ゲームで馴染みのあるキーに対応させていく。
VR 操作限定のアクゲーをどうしてもやりたいがために身に付けた技術だ。
しかしシンプルにさせ過ぎても使いものにはならないだろう。
(AG なら丁度良いな…!)
というわけで俺がチョイスしたのは「ARMORED ・GEAR」というロボアクゲーだ。
このゲームは自由な動作をウリにした高難易度ゲーム…なのだが、自由な動作のために操作キーが従来のアクゲーの3倍以上となっており、「歩くのも儘ならないクソゲー」「まともに動けるのは変態」という評価がついたある意味で伝説のゲームだ。
pcアクゲープレイヤーを自認する俺は評価の言葉を借りるとするなら“かなりの”「変態」である。
カタカタッ、カチッ!
(セット完了!)
ズドォンッ!
「何だ!?」
カチカチッ
機体の動作プログラムとAGの操作キーのリンクが完了した途端に揺れた地面に、俺は外の状況を確認するため外部カメラを起動させる。
パッ
全方位に映し出される外の景色。
「うわぁっ!?」
そして正面には銀色の逆さ円錐がプロトⅢに螺旋状の突起物を向けていたのだ!
ガチャガチャッ
俺はキーマウのついでに持って来ていたセットのVC用ヘッドセットマイクを装着する。
キュイイィッ…!
途端に聴こえてきた甲高い音。
「って、ドリルかよっ!?」
エイリアンがそんな原始的なロマン武器を使うんじゃねぇ!?
と内心で突っ込みを入れてみるが、割と絶体絶命の状況だ。
『ヒロッ…!』
聖次の焦ったような声。
(チクショウッ、何か武器は…!?)
カチカチッ
やる気を出した途端に殺されるなど冗談じゃ無い!
俺は機体観測プログラムを開き、エイリアンの機動兵器を倒せそうな武装を探す。
キュイイィッ…
迫るドリルの先端。
「これだ…!」
俺が見つけたのは[ 胸部収束レーザー砲 ]。
名称からしてロボゲーに必ず存在する、いわゆるゲロビに違い無い。
(食らえ必殺っ!)
ターンッ!
俺は気合いを入れてキーを叩いた。
パカッ、ビシュウウゥッ!
俺からは突然宙から照射されているように見えるオレンジ色のレーザービームが、エイリアンの機動兵器をドリルとなっていた逆さ円錐の先端から丸く膨らんだ天辺までを貫く。
シュウウゥ…
(おぉぅ、貫通…。)
正面一杯に映っていたエイリアンの機動兵器だが、レーザービームを受けて大穴ができ、その穴からは青空が覗く。
グラッ…、ズゥウンッ…!
いくらエイリアンの技術でもボディに大穴を開けられては一溜りも無いのか、ゆっくりと地響きを発てて倒れる逆さ円錐。
『今のは何だ!?』
『今のはプロトⅢに搭載された収束レーザーだ!
そうか、起動したのか…。』
天を貫いた光は向こうで戦う二人にも確認できたらしく、聖次は驚き、安室二尉は光の正体を聖次に伝えてから感慨深そうに呟いた。
『ヒロ君だったかな?無事にプロトⅢを起動出来たようで何よりだ。
早速で悪いがそちらに抜けた円盤の対処を頼む。
こちらはエイリアンの機動兵器の相手をするのがやっとでな。』
感慨に浸るのも束の間、安室二尉は俺が機体を起動させたとみるや、矢継ぎ早に指示を出してきた。
やっと覚悟を決めた素人に対して、何の配慮も無さが、聖次と安室二尉のおかれた状況を物語っているようだった。
「了解!
…行くぜ、ゼロ・ストライカー!」
カタカタッ!
俺は無線に「了解」と返し、気合いの呼び掛けをした後キーボードを操作する。
ガンッ、グググッ…
ちょっとした衝撃の後、徐々に高くなっていく視界。
仰向けで横倒しだったゼロ・ストライカーが、片手を地面につき立ち上がっているのだ。
プシューッ!
オートバランサーが働き、機体各部のシリンダーが加圧される。
(ゼロ・ストライカー、大地に立つ。)
「ってな。
んじゃお次はっと…」
100年以上経っても色褪せることの無いロボアニメの金字塔…その記念すべき一話目のタイトルを捩りながら、俺は安室二尉の指示をこなすべく武器を選択する。
「おっ、これで一気に片付けてやるぜ!」
俺が選んだのは[ 腕部マイクロミサイルランチャー ]。
安室二尉は[ ハンドマシンガン ]で円盤を撃墜していたが、本来素早い目標には誘導兵器と相場が決まっている。
…ぶっちゃけ狙いをつけるのが面倒なのだ。
ターンッ!
というわけでエンターキーで武装を起動。
ピッ!
レーザー砲は即座に発射されたが、今度は十字の描かれた円が外の景色に重なって表示された。
「あっ、そうか。」
一瞬首を傾げた俺だが、誘導兵器にはロックオンが必須であることを思い出す。
「スッスッス~…っと」
スッ、カチッ スッ、カチッ スッ、カチッ
マウス操作でレティクルを動かし、円盤に合わせたらクリックでロックオン。
ピピッ!
それをひたすらに繰り返していたところレティクルが消失し、ロックオン済みを知らせる四角の枠が太くなった。
…これはおそらく全てのミサイルに目標の設定が完了したということだろう。
「んじゃま、ほいっ。」
ターンッ!
気を取り直して二度目のエンターキー。
ガシャガシャッ!
「おおっ!?」
映し出される、伸ばされたゼロ・ストライカーの両腕。
その前腕部の装甲がスライドして開き、中からミサイルランチャーらしき機械が競り上がってきた。
まさかの仕込み武器という、ある意味お約束で浪漫に興奮する俺。
バシュシュシュシュッ!
一斉に発射されるミサイル。
ドドドドドンッ!
全弾命中。
アサルトライフルで対抗する迎撃部隊を襲っていた円盤は、一機残らず殲滅された。
『プロトⅢか、救援感謝する。』
隊長さんの感謝の言葉をこそばゆく感じながら、俺は隊長さんに訊ねる。
「どういたしまして。
…ところで隊長さん、この機体用の武器は無いのか?」
このゼロ・ストライカーには固定武装がかなり搭載されているようだが、人形兵器に携行武器が用意されていないなどあるわけが無い。
『ストライカーの武器なら四番コンテナ以降に入っているが…』
隊長さんの言葉に周囲をぐるりと見渡せば、いくつかの未開のコンテナが並んでいる。
(へぇ…、てことはゼロ・ストライカーは三機しかないのか。)
まぁ、自衛隊の秘密兵器らしいので、試作機が三機も稼働可能な状態なだけでもかなり進んだ計画だろう。
今はそれよりも、だ。
「じゃあ、長距離攻撃が可能な武器はどれだ?」
『それなら五番コンテナに組立式5インチキャノンが入っているが…』
戦車砲の口径が確か120mmだったので、それ以上に威力がありそうな武器だ。
『しかし何を?』
決まっている。
「聖次っ、今援護してやるからな!」
(五番コンテナは…、あれだな。)
カタカタカタッ
ガシュン、ガシュン
俺はストライカーを、[Ⅴ]と書かれたコンテナの側まで移動させる。
ガコンッ
コンテナを開くと、中には弾の発射機構・砲身・弾倉が入っていた。
『無茶だっ、5インチキャノンは拠点攻撃用だ!』
(なるほど、精度はあまり良くないのか…。)
ガシャン
レシーバーにバレルを嵌め込み、キャノン砲本体が完成。
良く考えてみれば、戦車砲も停止しての砲撃が前提であるのに、それ以上の口径の砲が戦車より不安定な人形兵器の携行武器で精度など求められないのだろう。
しかし命中補正がマイナスのロマン砲など、ゲームには必ずと言っていい程存在している。
ガチッ
組み立てたキャノン砲にマガジンをセットし、射撃準備が完了した。
「ならPSで当てれば良いんだよぉ!」
ドオォンッ!ドオォンッ!ドオォンッ!
どうせ狙いを付けても当たらないのだ。
だからゲームで培った“当て勘”を信じる。
『何だとっ!?』
『流石だなヒロ、命中だ!』
驚く安室二尉に、俺を賞賛する聖次。
どうやら無事に標的に命中したらしい。
『安室二尉、このまま一気に!』
『あ、ああ…そうだな!』
若干戸惑いの隠せ無い安室二尉だったが、そこは秘密兵器のテストパイロット。
聖次に引っ張られる形ではあったが、そこからはエイリアンの機動兵器を次々と撃破していった。
勿論俺も二人に合わせて前進し、全てのマガジンを空にするまで射ちまくった。
『周囲に敵影無し。』
しばらく索敵をしていた安室二尉の報告。
『そうか…。
諸君…敵は殲滅した、我々の勝利だ!』
「「「「「うぉおおっ!!」」」」」
隊長さんの宣言に上がる勝鬨。
街は壊滅したが俺たちは生きている。
ゲームで言うならクリアランクは Dだろうが、クリアはクリアだ。
[ 1st 任務 エイリアンの襲撃 ] 完了
ゼロ・ストライカーのイメージは人型に近いバイカス
(手マシンガン→バイカス&バルバドス
胸レーザー砲→ストフリ
腕スライドミサイル→NT -1
組立式キャノン→陸ガン)
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