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3/3

3 壊れてる

放課後。

「…ここ?」

電車を乗り継いで元東京都八王子市、現新東京都十王市まで来た。

八王子…何かと昔は話題となっていた場所、主に雪。


新東京都十王市横町○○


この住所を頼りに到達したのは古そうな雑居ビルだった。

しかし入っているテナントはない。いや怪しすぎる。

…えっと、勝手に入っていいのかな?

む、女は度胸、いざ。

というわけで入口らしきドアから中に入る。

「…意外」

ビルの中は案外普通の…少し古い感じの事務所みたいな構造だ。

「…来たか」

「む⁉」

背後から声を掛けられた、驚いて背後を振り向く。

「久しぶりだねぇ、嬢ちゃん」

「…おじさん、誰?」

そこにいたのは壮年の大柄な白人?男性…。

「…おっとそうだ、記憶を処理されているのだったな」

「…?」

「俺は…ふむ、セルゲイと名乗っておこう」

「…セルゲイ…スラブっぽい」

「よく知っているな、嬢ちゃん…そうだ、俺はキーウ出身だ」

「日本語、うまい」

「そりゃどうも、ああ、それでな」

「…なに」


「今からでも遅くない、引き返せ」


「なぜ?」

「わかるだろう?その加護は世界を壊しかねないものだ」

鉄血の加護、スキル「加護貫通」、確かにこれを応用すれば…世界のパワーバランスは崩れかねない。

「問題ない」

「…何故だい?」

「…む、世界はとっくに壊れている」

「…もっと壊れるぞ、世界が、嬢ちゃんはその重圧に耐えきれるかい?」

「…む、それも問題ない」

「ほう?」

「…む、だって私はもう…壊れているから」

「…そうかい」

セルゲイは煙草をくわえ火をつける。

「じゃあ、会議室に行くか、役者は揃っている…嬢ちゃん…いや、この国の防衛産業のフィクサー「竜谷孝弘」の娘…竜谷翼」

「たばこ、臭い」

「…」



「入るぞ」

そう言ってビルの二階の端にあるドアを開けるセルゲイ。

続いて私も中に入る。

「…む」

中に入ると、それはドラマとかでよく見る大企業の会議室のような部屋。

部屋の中には十人ほどの人間。なんか全員胡散臭そう。

「…来たか、セルゲイ、それに竜谷孝弘の娘」

と上座に座っている男性がそう声を掛けてくる。

「私は山谷徹…この国唯一のPMC【モタザルモノ】の社長だ」

「…む」

「因み、私は持たざる者ではないぞ?まあ私以外は全員、持たざる者の元軍人だがね」

軍人、軍隊、つまり現在は、持たざる者の唯一の受け皿。

10年前、当時は年齢関係なく人類の8割が加護を得た中で、何故か軍人は誰一人、加護を授からなかった。

現在各国の軍隊はその規模を少し縮小しながらも維持されている。

その理由は「迷宮の加護」が突然消滅した時に備えて、という表向きのものと、「持たざる者」の唯一の公的な受け皿としての裏にものと、まあ色々ある。

…そう現代兵器が無用の長物となった現代においても世界の軍備はおおむね維持されているのだ。

「でだ、君の加護は本当に、【迷宮の加護】を貫通するというものなのかね?持たざる君の妄想ではなくて、か」

「…む、本当」

「本当かね?にわかに信じがたい」

…?

「…じゃあなぜ私を呼んだの?」

「竜谷孝弘との契約があったからだ…全くなぜこの私がこんな非現実的でくだらないことに関わらなきゃいけないのか」

「…むむむ」

「このBランク探索者であるこの私が、だ。クソ、まさか無能共の世話を押し付けられるとはね」

なんか愚痴を言いだした。

とそこで私は気が付く、部屋にいる他の人間、恐らく全員「持たざる者」、が山谷を冷めた目で見ている。

…どうやら彼はあまり慕われてはいなさそう、というかむしろ。

そして彼ら彼女らは同時に私に何かを期待する視線を送ってくる。

…なに?

「もういい、竜谷の娘、帰っていいぞ、私は契約を果たしたからな」

「…加護は本当」

「ふん、なら今ここで証明してみたらどうかね?まあそんなこと不可能だろうが」

…だるい、帰る。

とめんどいので帰ろうとした私の頭に、さっきのセルゲイの言葉が反芻する


―じゃあ、会議室に行くか、役者は揃っている―


…改めてあたりを見回す。

愚痴を言い続ける山谷、私に何かを期待する視線を送る元軍人達。

…む、そういうこと

「わかった」

「…何がだね?」

山谷の疑問の声を無視する。

「セルゲイ…貸して」

「…ああ」

そうしてセルゲイから渡されるのは…黒い拳銃。

確かぐろっく17?とか言うやつだ。

安全装置を外し、コッキングをして薬室に弾丸を送る。

そして構える。


Bランク探索者、山谷に向けて


「…何の真似だ?」

「…簡単、証明する」

「…ガキが!ふざけたことを!ふん、やってみるがいい!そのガラクタで私を…」

「貫通付与」

躊躇なく引き金に指を掛け、引く。


―パァンッ


ビルに響く乾いた音。


―ドサッ


頭を撃ち抜かれた山谷が崩れ落ちる。

「…ビューティホー」

「…おいおい躊躇ねぇな」

誰かが言う。

「…言ったじゃん、加護は本当だって」

セルゲイが倒れた山谷に近づく。

「なるほど、確かに…加護を貫通しているな、それに」

「…む?」

「嬢ちゃん、あんたはすでに…人として壊れている」

「む、役者として、演じただけ」

「…は、全く」

そう言ってセルゲイは煙草を咥え火をつける。

「たばこ、臭い」

「…多分、硝煙の匂いだろうよ、臭いのは」


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