第五話 だから学力パラメータを下げる必要があったんですね
シュトまほには定期テストというイベントがある。
そしてそろそろその定期テストが近づいてきた。
視聴者の皆さんは私がオトネにしっかりと勉強を教えて学力パラメータを上げていると思っているだろう。
しかしその逆!
極力学力パラメータを上げずにここまでやってきた。
それどころかレベルアップで学力が上がっても、わざと学力を下げる行動をするように仕向けてきたのだ。
だから今のオトネは魔力は高いけど学力ほぼ0のアホの子だ。
今狙っているのは一人目の隠しキャラ、オトネのクラス担任の魔法学教師、氷塊ヒサメ(ひょうかい ひさめ)先生。
氷属性Sで水色の短い髪に切れ長の目の眼鏡のイケメンだ。
ちなみにシズクの従兄。
ヒサメ先生は生徒会の5人のように複数のサブパラメータと属性パラメータで好感度の上昇率が変わるのではなく、学力パラメータのみに好感度上昇率が依存する。
学力パラメータが低ければ氷のようにヒロインに冷たく当たるし、高ければ氷が解けたようにフッと優しい笑みを見せる。
他のパラメータを管理する必要がないからとても攻略しやすいキャラだ。
なのに何故隠しキャラと言われているのか。
そう、これがシュトまほスタッフの罠なのだ。
たしかに学力パラメータさえ上げればヒサメ先生の好感度はぐんぐん上がる。
しかし何故かその状態ではエンディングを迎えることができないのだ。
そこでプレイヤーは学力パラメータが足りないのかと考え、序盤からヒロインに勉強をさせる。
しかしそれでもヒサメ先生は落ちない。
学力パラメータをカンストさせても好感度をカンストさせてもヒサメ先生のエンディングが見れないのだ。
もしかして攻略キャラじゃないのかと諦めたプレイヤーも多いという。
逆だったのだ。
最初の定期テストから連続で3回赤点を取ること。
これがヒサメ先生のエンディングを見るためのフラグなのだ。
3回テストで赤点をとってから好感度を上げないとエンディングを迎えられないのだ。
本当にシュトまほスタッフは底意地が悪い!
ヒサメ先生のド塩対応を見続けろというシュトまほスタッフからのメッセージ!
赤点とったら好感度下がるのにまさか赤点をとることが条件なんて思わないじゃん!
ほんっとーに意地悪!鬼畜!
でもそこが好き!
というわけで別にオトネがイケメンたちにちやほやされるのにムカついてヒサメ先生の攻略を投げたわけじゃないのだ。
ヒサメ先生を攻略する際の難点としては、学力パラメータが好感度上昇率に関わるシズク、ライコウ、シンドの好感度上昇率を下げることと、赤点をとると全てのキャラの好感度が下がることだ。
でもまあ今生徒会の5人の好感度上昇率はバグってるから、多少下がったところでその倍上げればいいだけだ。
さっきも初めての定期テストを不安がってオトネが勉強を教えてくれとやってきたのだが、「テストの結果が全てじゃないのよ」「ありのままのオトネさんが素敵だと思うわ」とかなんとか適当なことを言ったらオトネは納得して自分のクラスに帰っていった。
やっぱりオトネはいつかとんでもない詐欺に引っかかると思う。
***
あれから二週間が経った。
私がこの世界に転生して初めての定期テストの日を迎え、私も頭を抱えながらテストに挑んだ。
後日廊下に張り出された順位表を見ると、オトネは学年最下位という不名誉な記録を叩き出していた。
ちなみに私も赤点だった。
…仕方ないでしょ、ゲーム中のテストイベントは自動進行で実際問題を解くわけじゃないからどんな問題が出るかなんかわかんなかったし、そもそもゲームで明かされてないこの世界の歴史とか地理とか魔法学なんか知らない。
転生前の知識でもなんとかなった数学と理科と国語(何故かシュトまほの世界の公用語は日本語)はいいとして、歴史と地理と魔法学が足を引っ張った。
歴史と地理にいたっては多分オトネより点数が悪かっただろう。
「レイさん~!私最下位でした~!」
涙目になりながらオトネが駆け寄ってくる。
それを見計らったようにひょろ長眼鏡とふとっちょそばかすの二人組が飛び出してきた。
「あら転校生さん、素晴らしい成績ですわね」
「最近レイ様と仲良くしてらっしゃるみたいだけど、やっぱり貴方はレイ様にふさわしくないわ」
久々登場の鳥牧エイと下津羽ビイだ。
水を得た魚のように楽しそうにオトネを責め立てる。
生き生きしてるところ悪いが、私も赤点なんだよ。
「レイ様~、こんな奴と仲良くしないであっちで私達と魔法学について語り合いましょうよ~」
「あらそれはとても魅力的ね。でもおあいにく様、私たちこれからヒサメ先生にお説教を受けにいきますの」
猫なで声ですりよってくる二人を見て目を細め、口元に手を添えながらそう答える。
二人はしばらくどういうことかとぽかんとしていたが、順位表に視線を向けていつも空ノ城レイがいるはずの位置に名前がないことに気づくと顔を見合わせる。
「え、どういうことですかレイ様…」
「ま、まさか転校生一人が説教を受けないようにわざと赤点を…!?どうしてこんなやつにそこまで…!?」
ごめん、実力。
しかしオトネは勘違いしたのか、「え?私のために…?」と両手で口をおさえて感動した様子で震えている。
いやごめん、だから実力。
そうか、私が目覚める前の空ノ城レイはシュトまほの空ノ城レイだったんだよね。
空ノ城レイはいつも学年一位か二位だったもんな。
そりゃいきなり赤点とったらわざとやったと思われるか。
「クソッ!私達は諦めませんことよ!」
「レイ様の親友にふさわしいのは私達ですわ!」
取り巻き二人組は捨て台詞を残して去っていった。
オトネはなおも顔を赤くして目を潤ませながら感動した様子で私を見つめている。
…説明するのも面倒だし…いや、そもそもどう説明していいかなんてわかんないからそういうことにしておこう。
***
「星宙君、空ノ城君。これはどういうことだ」
そして今、私はオトネと一緒にヒサメ先生から説教をされている。
「星宙君、君のような点数は今までに見たことがない。もちろん悪い意味でだ」
「ご、ごめんなさい…」
「一体何を学んできたんだ。私の授業など聞くに値しないとでも言いたいのか」
「ごめんなさい…!」
ヒサメ先生の氷のように冷たい言葉にオトネは小さくなって泣きそうな声で謝罪の言葉を繰り返している。
全部私のせいだからちょっとだけ心が痛む。
「空ノ城君、君もだ。一体今回のテストはどういうことなんだ」
「先生ごめんなさい!私のせいなんです!」
ヒサメ先生の説教対象が私に移る。
ド塩対応を期待してワクワクしていたが、オトネがヒサメ先生の言葉を遮った。
…余計なことを。
「オトネさん、黙ってなさい。理由がどうであれ結果が全てなの。私も説教を受けなければいけないわ」
「レイさん…」
まあその理由というのは単なる私の勉強不足なんだけど。
ヒサメ先生はオトネの「私のせいなんです」という言葉が気になっていたようだったが、長い説教の後、私たちは解放された。
「うえーん、レイさん私のせいでごめんなさい~」
耐え切れなくなったオトネは途中から泣いていたが、私はヒサメ先生のド塩対応に満足してほくほくしていた。
これよこれ、この好感度マイナス状態を堪能してこそシュトまほなんだよね。
この良さがわからないオトネはまだまだだ。
でも私までフラグを立てるわけにはいかないから、次の定期テストの前に勉強しておかないと…。
「オトネさん、ヒサメ先生は私たちのためを思って叱ってくださったのよ。だから私は少しも辛いと思っていないわ」
「レイさん…」
本当に辛いと思ってないしね。
「だから次赤点をとっても泣くんじゃなくてありがとうとお思いなさい。次からは私は隣にいないのよ?」
「は、はい!わかりました!」
次も赤点をとると決めつけている私の言葉に怒るわけでも疑問を抱くわけでもなく、オトネは元気よく頷いた。
よし、あと2回赤点をとらせてからオトネの学力パラメータを上げないと。
いや…まずは私の学力パラメータ上げ…か。
その後、イナノに付き合ってもらってめちゃくちゃ勉強した。