第三十四話 転生したら悪役令嬢だったので前世のゲーム知識で無双して逆ハーRTAと思ったら(中略)爆発して死ぬと言われたから親友ポジションに収まったらヒロインが私に惚れて爆死しそうです
マーレ水族館に行ってからオトネの様子がおかしい。
どうもあれから私のことを避けているようだ。
いつもなら私とイナノが学食でご飯を食べていると当然のように私の向かいに座ってくるのだが、最近は一人で食べているようだ。
よく生徒会の誰かがオトネが一人なのを見つけて一緒に食べているみたいだけど。
イナノとクッキーのことでトラブルがあったから、私ではなくイナノを避けているのかと思ってイナノを置いて一人でオトネのクラスに行ってみたが、オトネは私の姿を見るなり教室から逃げていった。
「イナノはいないわよ!」
と声をかけてもそれを無視して走り去っていったから、どうやらイナノではなく私を避けているらしい。
なんで?
クッキー一緒に食べようって言ったのに結局私一人で食べたから?
いやまさか、オトネはそんなに器の小さい子じゃないだろうし、そもそも私が貰ったクッキーだし。
「あら、ようやくあの貧乏人もレイ様と自分は不釣り合いだって気づいたみたいですわね~」
「まったく、空ノ城家に取り入ろうとレイ様に近づくなんて、図々しいったらありゃしないですわね~!」
眼鏡をかけたひょろ長い女生徒とそばかすのぽっちゃりした女生徒が現れた。
えーと、誰だっけ?
ああ、鳥牧エイと下津羽ビイか。
あんまりにも久しぶりだったんで存在を忘れてたよ。
てか空ノ城家に取り入ろうと近づく不釣り合いで図々しいのはお前たちじゃい。
私とオトネが仲良くしてたら近づく勇気もないくせに。
カチンときたので二人を無視してオトネを追いかけることにした。
背後から「レイ様ー!」「あんな奴より私たちと仲良くしましょうよー!」とか悲痛な声が聞こえたが、無視だ無視。
「オトネさん!お待ちになって!」
逃げるオトネを追いかけるが、オトネは振り返りも返事もせずに走っていく。
しかし私はRTA元世界一位!
こういうこともあろうかと校舎の間取りはしっかりと頭に入れておいた!
残念だったな!
オトネ、そっちは行き止まりだ!
「っ!」
曲がり角を曲がると、行き止まりに肩で息を切らしたオトネが立っていた。
「オトネさん、どうして逃げるの?」
「う…」
振り返ったオトネの目には大粒の涙が浮かんでいた。
え?
泣かせた…?
なんで?
私何かした?
「こっちこっち!こっちにオトネちゃんたちが走ってったよ!」
「オイ、どうしたんだオトネ!」
「レイさんにいじめられたんですか!?」
「大丈夫かオトネ!」
「…なんで僕も来なきゃいけないんですか…」
「もめ事だと聞いたが、何があったんだ?星宙君、空ノ城君」
「……」
間が悪いことに生徒会とヒサメ先生までやってきてしまった。
何故か最後尾にはイナノまでいる。
しかし不幸中の幸いなのか、これで私の後ろには壁ができた。
もうオトネは私をかわして逃げることはできない。
ここには窓もないから窓から逃げることもできない。
詰みってヤツだ。
「オトネさん、私、何かしてしまったかしら…?」
「違います!レイさんは悪くありません!」
なるべく優しく静かにそう尋ねると、オトネは泣きながら声を上げた。
すっかり興奮しきっているようだ。
とにかくオトネをなだめないと…。
「落ち着いて、オトネさん。もしかして誰かに何か言われたのかしら?」
私が何かしたんじゃないなら多分コレだろう。
鳥牧エイと下津羽ビイあたりに空ノ城家に取り入ろうなんて図々しいだの身の程をわきまえろだの言われたってところか。
オトネは真面目だからそれを真に受けてしまったんだろう。
「…私と一緒にいたら…レイさんが嫌な目で見られます…」
ビンゴ!
やっぱりそうだ!
ったく、あいつら一回締めとかないとダメだな。
「友達に戻ればいいって…思ったんですけど、でも、レイさんの顔見たら、気持ちが抑えられなくて、悲しくなって…!」
うん?
…親友は立場が違いすぎるから友達に戻るってこと?
でも親友も友達も鳥牧エイと下津羽ビイから見ればそんな変わらないような気がするけど…。
「でもやっぱり私、レイさんのこと、好きで…好きで、大好きで…!我慢できなくて…!」
うん?…うん?
友達としての、好き、だよね?
にしては、その、なんか、アレ?
なんか、嫌な予感がしてきたぞ。
「やっぱり私レイさんの恋人でいたいんです!」
「「「「「「「はあ!?」」」」」」」
私の声と生徒会5人、そしてヒサメ先生の声までもがハモる。
あのヒサメ先生まで素っ頓狂な声を上げたというのに、イナノだけは声を上げずにスンとした顔をしていた。
いやいやいやいや、え!?
いつから!?いつ私とオトネは恋人になったの!?
初耳なんだけど!?
「え…、レイサマ、オトネちゃんと付き合ってたの…?」
「でもレイさん女性ですよね…?もしかして男性だったんですか…?」
「女に決まってるでしょうが!」
シズクの的外れな言葉に思わずキャラを忘れて声を上げてしまった。
あー、うんうん、なんか今までの些細な違和感が全部つながったぞ。
『私はレイさんと出掛けたいです!』
オトネをデートに誘う生徒会の5人に言い放ったあの言葉。
あの時点でもうオトネは私のことがそういう意味で好きだったんだ。
『私、レイさんがいないとダメなんです…!』
私に依存するかのようなあの言葉。
あれも私がいないと何をしていいかわからないという意味じゃなくて、私のことが好きすぎて何も手に付かないからずっと傍にいたい的な意味だったんだ。
果てにはレッカとのデートに私を付いてこさせるという奇行。
あれだって私以外にはなびかないから、それを見ていてほしいというオトネのアピールだったに違いない。
『カイさん、レイさんの恋人なんでしょう…?私が、私がもたもたしてたから…!』
夏休みの終わりにわざわざうちまで来た時のアレもそうだ。
オトネはカイが好きなんじゃなかった。
オトネが好きなのは私だった。
『…私が一人で生徒会の方々と出掛けることができれば、付き合っていただけるんですね?』
そして、あの言葉…。
多分オトネはあれを私のお題をクリアできたら“恋人になる”ととらえたんだ。
『あ、あの、じゃあ付き合ってくれるって約束は…?』
それに対して私が言った言葉は…
『いいわよ』
あああー!私のバカ!
なんでなんの考えもなしにあんなこと言ったの!?
あの日からオトネの中では私と恋人になってるつもりだったんだ!
イブキとの修行で何故か闇魔法を使えたことだって、そのせいに違いない!
いわゆる…愛のパワーってヤツだ。
アレは私という“恋人”がいたから起きたんだ。
『え!?それ交換条件なんですか!?あの、それどっちも私が得してますけど!?』
とか
『はい!喜んで!次のデートは私が全部出しますね!』
とか
今思えばオトネはいつだって私のことが好きだって全力でアピールしてたじゃん!
それをなんで私は気づかなかったんだ…いや、もしかしたら気づいてたのかもしれない。
けど、そんなはずないと思いたかったから気づかないふりをしてたのかもしれない…。
だって私は乙女ゲームのイケメンが好きなドノーマルぞ!?
いやいやいや、無理!
無理無理無理!
私にそっちの趣味はないの!
つかあのクソウサギ!
こうなる前に止めろよ!
って、え!?これどうなるの!?
逆ハーエンドの条件に空ノ城レイまで落とせなんてものはない。
全属性Sが逆ハーエンドの条件の一つだから闇属性をSにするために空ノ城レイのイベントは必須だが、闇属性をSにしてしまえばもう空ノ城レイは放置で構わない。
もちろん逆ハーエンドに空ノ城レイが加わることもない。
そもそもシュトまほに空ノ城レイエンドはない。
他のエンディング条件を満たさずに最後まで進めると一人寂しく終業式を迎えるというバッドエンド、通称ぼっちエンドになるのだが、その際に空ノ城レイが出てきてこれでもかと嫌味を言われるから、これを空ノ城レイエンドと呼んでもいいのかもしれないが。
ってそんな話はどうでもいい!
一体これからどうしたらいいんだー!




