第三十二話 オトネの見る景色③ part4/5
※この話は27~28話のオトネ視点になります
星宙オトネです。
日曜日がやってきました。
毎日クッキーを焼き続け、ついに完璧で最高のクッキーを焼き上げることに成功しました!
でも毎日クッキーを食べ続けたので当分クッキーは食べたくないです…。
完璧で最高のクッキーを早くレイさんに渡したくて、待ち合わせ場所に早く来すぎてしまいました。
でも大好きなレイさんを待つ時間も楽しいので苦ではありません。
レイさんまだかなぁ…。
レイさんも私に会いたくて待ち合わせ時間よりも早く来ちゃったりしないかな…なんて。
こんな妄想をするのも楽しいです。
「ねーねーおねーさん」
そわそわしながらレイさんを待っていると、突然男の人に声をかけられました。
え?私に話しかけているのでしょうか?
「ねー、さっきからめっちゃ待ってんじゃん。ぜってーすっぽかされたんだって!俺と一緒に遊びにいかねー?ねー、いいっしょー?」
「困ります…!」
こ、これはナンパというやつでしょうか…?
私はレイさんみたいな魅力的な女性ではないのに、この人はなんて見る目がないのでしょうか…!?
あ、いや、でもこの人が見る目がないのだとしたら私を好きになってくれたレイさんも見る目がないということになってしまうから…。
つまりこの人は見る目があります!
いや、そんなことは今どうでもいいです。
ど、どうしましょう。
困りますと言っているのにあっちに行ってくれません…!
「あら、私の連れに何か御用かしら?」
「ヒッ、空ノ城家の…!?さーせんっした!」
おろおろしていると、レイさんが間に入って男の人にそう声をかけました。
レイさんが…私を助けてくださった…。
なんてかっこいいのでしょうか…!
ああ、レイさんがキラキラ輝いて見えます…!
レイさんに恐れをなしたのか、男の人も走って逃げていきました。
「レイさん…!ありがとうございます!」
感動の涙を浮かべながらレイさんに感謝の言葉を継げます。
「大丈夫だった?だいぶ待ってたみたいだけど時間間違えてしまったの?」
「あ、いえ…、た、楽しみすぎて早く来すぎてしまいました…」
レイさんに早くクッキーを渡したくて一時間も早く来ていたなんで、レイさんが知ったら呆れてしまうでしょうか?
そうだ!クッキー!早くレイさんに召し上がっていただきたい…!
「あ、あの!これ!レイさんに!れ、レイさんには完璧なのを食べてもらいたくて、い、いっぱい練習しました!」
鞄からクッキーの入った袋を出して、レイさんに差し出しました。
うう、自分の顔が赤いのがわかります。
レイさんクッキー好きじゃなかったらどうしよう…!
「ありがとう、後で一緒に食べましょう」
「は、はい!」
レイさんはとても喜んでいただけました。
よかった…!頑張ったかいがありました…!!
もうクッキーなんか食べたくないってくらい一生分のクッキーを食べたはずなのですが、レイさんと一緒にいただけるなら何百枚でも食べられそうです!
「…いつもお世話になっていますって試作品をくれたんですか…その程度の感謝の気持ちだったんですね…」
しかし、人生はそううまくいかないものです。
私の浅はかな行動のせいでイナノさんを怒らせてしまいました。
「ああー!ごめんなさい!違います!うまくできたのだけを包んだんです!失敗したのは自分で食べました!」
「もういいです。ちょっとだけ貴方を見直したのが間違いでした。やっぱり貴方はレイ様にはふさわしくありませんね」
ああああ、どうしましょう!どうしましょう!
まるで出会った頃のようなイナノさんです…!
何度も頭を下げましたが、イナノさんは冷たい目で私を見るばかりでした。
ううう、やらかしてしまいました…。
「お、オトネさん。それより今日は水族館に行きたいわ」
「は、はい!どこでもお供します!」
レイさんが話しかけてくださったので、なんとかその場から逃げることができました。
水族館でイナノさんの機嫌が直ってくださればいいのですが…。
***
マーレ水族館にやってきました。
この日のために貯めたお小遣いで中に入ると、そこには幻想的な風景が広がっていました。
「わあ…綺麗ですね…」
大きな水槽の中はキラキラしていて、まるでおとぎ話の中に入り込んでしまったみたいです。
水槽の中で泳ぐ色とりどりの魚たちに目を奪われていると、レイさんがペンギンを見たいとおっしゃられました。
入り口で貰った地図を開き、ペンギンの展示スペースを探します。
ペンギン…ペンギン…あった!
「ペンギンは…あっちですね!」
よーし、今日はレイさんを見事にエスコートしてみせますよ!
***
「着きました!レイさん、ペンギンですよ!可愛いですね!」
地図を見ながら先導し、ペンギンの展示場で足を止めて振り返りました。
しかしそこにレイさんもイナノさんもいませんでした。
やらかしました…!
地図に夢中になって後ろを振り返るのを忘れていました!
「あれ?ペンギンちゃんだ。ペンギンちゃんがペンギンを見てるなんておかしいね!」
レイさんたちとはぐれてしまったのです…!
私はなんてことをしてしまったんでしょうか!
デートでレイさんを置き去りにするなんて!
「レイさん?」
「あはは!キミ、やっぱり面白いね。ボクはレイサンじゃないよ」
辺りを見渡しますがレイさんの姿もイナノさんの姿も見当たりません。
長い銀髪の男の人と目が合ったのでその人に尋ねることにしました。
「あの、レイさん見ませんでしたか?紫色のふんわりした長い髪の美しい方で…!」
「ナスビみたいな子だね。あ、ピザ食べたくなってきた」
は!?
レイさんのどこがナスビですか!?
レイさんは世界で一番綺麗でかっこよくて聡明で優しくて、完璧な女性なんですよ!?
頭にきて言い返しますが、男の人は「うんうん、ペンギン早く空飛ばないかなぁ」などと意味不明なことを言っています。
…あ!どこかで見たことあると思ったら、この人学園祭にいた不審者です!
「ボク、ペンギン好きなんだ」
不審者が私を見てニヤリと笑いました。
うう、笑顔も怖いです…。
「はぁ…そうですか…」
一刻も早くこの場を離れたくて適当に返事をしました。
私にはこんな人に構っている時間はないのです。
レイさんとイナノさんを探しに行かないと…!
「あれラゲツじゃない!?」
「キャー!」
「あ、まずいかも…。じゃあね、ペンギンちゃん!また会えたらいいね!」
不審者と目を合わせないように視線を泳がせていると、にわかに辺りがざわつきはじめました。
それと同時に不審者は私に手を振って走っていきました。
ほっ。
向こうからどこかに行ってくれて助かりました。
また会えたらいいね、なんて怖いことを言っていた気もしますが…。
「キミ、きっと太陽が似合うよ!ペンギンだし!」
不審者が大きく両手を振って何か言っています。
…???
不審者の言うことはよくわかりません…。
「なんの騒ぎ?」
「あ!レイさん!いや、よくわからないんですけど変な人がいて…」
不審者がいなくなると同時にレイさんとイナノさんがこられました。
よかった、あの不審者とレイさんが鉢合わせなくて…。
「あら、それは危ないわね。じゃあ今日は早めに切り上げましょうか」
「ええ!?い、いや!もうどこかに行っちゃったので大丈夫です!」
ああ!余計なことを言ってしまい、デートを切り上げると言われてしまいました…!
それだけは嫌です…!
「じゃあさっと回ったら帰りましょう」
うう、こうなったらなるべく時間をかけて水族館を回るしかないです…!
1分1秒でもレイさんと一緒にいるために…!




