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第三話 オリチャー発動!チートアイテム導入

「レイさん!イナノさん!レイさんの言われた通りにやったらうまくいきました!」


 嬉しそうに笑いながらオトネが駆け寄ってくる。

 昨日、オトネにレッカとの修行について色々アドバイスしたんだけどどうやらうまくいったらしい。

 ステータスを見ると火属性Fのままだけどサブパラメータが上昇している。

 いわゆるレベルアップだ。


 お、高乱数引いてる!

 これはかなりの豪運じゃない!


「私のおかげじゃないわ、オトネさんが頑張ったからよ」


 いや、全部私のおかげなんですけどね。

 まあ豪運に関してはオトネの運がよかったからか。


 相変わらずオトネは孤立しているようで、まともに相手をしてくれるのは私だけだからか休み時間になるたびにわざわざ私のクラスにまでやってくる。

 イナノはずっと私の傍にいるがオトネと会話する気はないらしく、オトネに話しかけられても反応がない。


「そうね、じゃあ今日はイブキのところに行ったらどうかしら?レッカとの修行はまた明日にするといいわ」


 ここで火と相性が悪い水のシズクのところに行こうものなら昨日の修行が無駄になってしまう。

 逆に火は風に強い。

 火の修行を連続して行うのではなく、あえて合間に風の修行を挟むことで火属性のパラメータ上昇率にブーストがかかって連続して修行を行う以上の効果があるのだ。

 ブーストは2段階まで上げることができるから、火→風→ブースト→風→火(ブースト+)→火(ブースト+)→火(ブースト+)という風に予定を組むと効率がいい。

 難点としては合間に他の修行を挟んでしまうとブーストが切れてしまうことと、この例の場合だと風のパラメータが少し下がること。

 でも今は元から風のパラメータは0だから問題ない。


 …まあ、今考えている“アレ”がうまくいくなら今週の修行の効果なんてほぼ無いに等しいんだけど。


 オトネは「わかりました!」といい返事で頷く。

 しかし私の言うことを一切疑っていないのがちょっと心配になる。

 私が言うのもなんだけど、いつか悪い人に騙されるんじゃ…。


「ああ、それと…。週末空いてるかしら?」

「え?」


 シュトまほは平日はパラメータ上げの育成パート、週末はイベントや買い物、バイトといった自由パートになっている。

 中でも重要なのが買い物。


 そう、私の言っていた“アレ”とはこのことである。


 休日に攻略対象がいる場所に行かせてイベントを起こすこともできるけど、好感度の上昇率はパラメータに依存する。

 今のパラメータじゃ誰かに会っても好感度の上昇値は微々たるものだ。

 そこでパラメータを上げなきゃいけないんだけど、普通なら地道に攻略対象の元に通ってド塩対応を堪能…もとい、ド塩対応に耐えながら好感度を上げるのがセオリー。

 しかしそんな地道な努力ではなかなか好感度が上がらない。


 そこで重要になってくるのが休日に買えるアイテムだ。

 攻略相手にプレゼントする用のアイテムや、サブパラメータを上げるアイテムなど多数のアイテムがある。

 その中で私の狙いは3つ。

 販売アイテムの中でも特に高値を誇る


 “フォルタイルの指輪”

 “ヘーヴェンライトの指輪”

 “エーヴィヒダイヤの指輪”


 さっきも言ったようにシュトまほの属性間には相性があって火の修行をした後に水の修行をすると火のパラメータが下降したり、火の修行をした後に風の修行をすると火属性にブーストがかかったりする。


 フォルタイルの指輪は“不利な相性”を“有利な相性”に変えるというアイテム。

 属性を反転させるわけではないので“有利な相性”が“不利な相性”に変わることはない。


 一方ヘーヴェンライトの指輪は“有利な相性”のブースト値を2倍にするというアイテムだ。

 通常のブーストが1.5倍、ブースト+が3倍だから最大6倍になる。


 そしてエーヴィヒダイヤの指輪はゲーム中屈指の高額アイテム。

 一度かけたブーストを永続的にするというアイテムだ。

 普通ならブースト状態で他の修行をしてしまうとブーストが切れるが、このアイテムがあればそれがなくなるのだ。


 そしてこの3つの指輪は同時に装備することが可能。


 つまりチートアイテムということだ!


 しかし通常これらのアイテムを3つ同時に装備することはできない。

 休日すべてバイトに費やしても3つ全てを買えるお金を貯めることができないからだ。


 ここでオリチャー発動!

 本当ならバイトでお金を貯めてオトネが自分で買わなきゃいけないんだけど、今のオトネには私という親友がいる。

 そう、空ノ城家の財力というチートでオトネにアイテムを買い与えるのだ!

 シュトまほでも攻略対象がヒロインにアイテムをプレゼントする展開あるんだし(貰えるのは好感度が上がったゲーム後半になるけど)、私がプレゼントしたってかまわないよね。


「越してきたばかりなんでしょう?よかったら町を案内するわ」

「い…いいんですか…!?ありがとうございます…!」


 もっともらしい理由をつけて言葉を並べると、オトネは二つ返事でそう答えた。

 よし、これで週末の約束を取り付けた。


「じゃあ決まりね。10時にトラオム広場の噴水の前で待ち合せましょう。トラオム広場の場所は―――」


 オトネは「はい!」と声を上げる。

 しっぽをぶんぶん振っている幻覚が見える…。


 オトネが自分のクラスに戻った後、ずっと黙って話を聞いていたイナノが耳打ちする。


「レイ様、あまり彼女に干渉しすぎるのはよくないかと」


 他のキャラクター同様、イナノもオトネにいい感情は持っていないらしい。

 どうしてこの世界は魔力がすべてなんだろうか。

 ただ魔法が使えないだけで悪い子じゃないんだから、そんなにオトネを邪見にすることもないのに。


 ―――でも、今思えばここでイナノの言葉を聞いておくべきだった。


「あら、何もわからない転校生に道を示すのも空ノ城家の一人娘である私の役目だわ。それともイナノは私のやることに何か不満があるのかしら?」

「いえ…すみません、出過ぎた真似をしました」


 一歩引いてイナノは頭を下げる。

 これも最速逆ハーエンドのため。

 誰にも邪魔はさせない。

 もちろんイナノにもね。


 そして、一週間が過ぎ、約束の週末がきた。

 当たり前のようについてくるイナノを背にトラオム広場に向かうと、先にオトネが来ていた。


 オトネは花柄のワンピースにピンク色のカーディガンといったまるでデートにでも向かうかのような気合の入った格好をしている。

 そういえばシュトまほは休日のヒロインのコーデも売りにしていた。

 その組み合わせはそれだけで一つのゲームができそうなくらい相当数のパターンがある。

 もちろんコーデによって相手の好感度が上がったり下がったりするのだ。

 効率を求めるRTAでは数パターンの組み合わせをルーティンすることになるのだが。


 しかしさすがはヒロイン…。

 悪役令嬢と遊びに行くのにすらバッチリ決めてくるとは…。

 私ももっといい格好できたらよかっただろうか…。


「あ…!レイさん!」


 私に気づくとオトネはパアっと表情を輝かせて走り寄ってくる。


「レイさん、イナノさん、今日はよろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるオトネに「そんなに気負わないで」と声をかける。

 イナノは相変わらず無視していた。

 別にオトネとイナノの仲は逆ハーエンドの条件に関係ないからどうでもいいんだけど、さすがにこうも露骨に無視されるのは日常生活を送るにいたって普通に気まずい。


「…挨拶くらいしなさい。空ノ城家の教育がなってないと思われるわ」

「…申し訳ありません。よろしくお願いします星宙さん」


 軽くたしなめるとようやくイナノが口を開いた。

 しかし納得している様子はなく、オトネと会話することが不服だということがありありと表情に現れていた。

 その姿にまた萎縮してしまったのか、オトネはうつむき加減に「すみません」と謝罪の言葉を口にする。


 …ダメだ。

 とりあえずオトネとイナノのことは後に回そう。

 今日の目的はチートアイテムの購入なんだから。


 ゲーム中に何度もお世話になった雑貨屋フォーゲルネスト。

 素朴な外観からは想像できないほど、これでもかと大小様々な雑貨が所せましと並んでいる。

 値段もピンからキリまでで中でも私の目的の3つの指輪は超高価なレアアイテムだ。


「“フォルタイルの指輪”、“ヘーヴェンライトの指輪”、それから“エーヴィヒダイヤの指輪”をいただけるかしら。請求は空ノ城家に回しておいて」

「え!?れ、レイさん、これものすごく高いですよ!?」

「あら、そうかしら?」

「お、お金持ちってすごいんですね…」


 まあ、正直私もちょっとドキドキしている。

 前世の金額に換算するなら高級車が2台くらい余裕で買えるような値段だ。

 いくら空ノ城家がオトネの住んでいた田舎でも知られるくらいの名家であっても私はただの高校生だ。

 “請求は空ノ城家に回しておいて”、なんてかっこよく言ってはみたけど断られたらどうしよう。

 赤っ恥をかいてしまう。


 しかし私の心配をよそに、店員は「かしこまりました」と頭を下げてケースに入った指輪を私に差し出した。


 …あー…、お金持ち最高ー…。


「じゃあこれ、オトネさんにあげるわ」

「え!?」


 そう、これは私が持っていても仕方ない。

 オトネが装備しないと意味がないのだ。


「あら、受け取ってくれないの?」

「だ、だって、でも、こんな高いもの…!」


 まあそりゃそうだ。

 私だってこんな目が飛び出るような値段の指輪をいきなりくれると言われてもさすがに断る。

 そういうウマい話には裏があるもんだ。


 でも、装備してくれないと私が困るんだよ!


 私はケースから指輪を取り出すとオトネの指にスッとはめた。


「ほら、こんなに似合うわ」

「~!」


 オトネの顔が真っ赤になっている。

 …無理やりだったから怒らせたかな?

 それともあまりの高級品に脳の処理が追い付いてないんだろうか。

 ヒロインの家庭は裕福じゃないという設定だし、多分後者だろう。


 オトネがフリーズしているのをいいことに3つとも指にはめさせる。


「とても似合ってるわ。今日からずっとこの指輪をはめていてくれるかしら?絶対にはずしちゃダメよ」


 我ながら怪しさしかない。

 しかしオトネは真っ赤になったまま無言で何度も首を縦に振っている。


 …本当にこの子は…絶対いつか悪い人に騙されるわ…。

 いや、今騙されてるのか…。


 でもまあ、オトネが扱いやすい子でよかった。

 これで攻略対象との好感度も速攻でカンスト!

 あとは隠しキャラの対処をするだけ!

 私天才!さすが元世界一位!


「よーし、これからが本番よ!」

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