第二十一話 オトネの見る景色② part3/3
※この話は16話~18話のオトネ視点になります
星宙オトネです。
次はレッカさんのクラスです。
でもレッカさんからは来なくていいと言われていたのに行っても大丈夫なのでしょうか?
生徒会の仕事もあると言っていましたし、お邪魔になるのでは…?
と思いましたが、レイさんにも何かお考えがあるに違いないと思いましたのでレッカさんのクラスに向かいました。
「いらっしゃいませー!」
レッカさんのクラスはメイド喫茶でした。
何故か女性の姿はなく、メイドは全員男性でした。
しかしレッカさんの姿はありません。
生徒会の仕事をされているのでしょうか?
「あ、いたいた。おい、調理場の担当は女子だろ!」
「待て!今は無理!待てってば!」
と、思いましたがどうやらレッカさんは調理場にいるようです。
男のメイドさんに引きずり出されるようにしてレッカさんが出てきました。
「ああああ!見るな!見るなオトネ!なんで!?来るなって言ったのに!」
わあ、すごく可愛い服です!
私も着てみたいなぁ…。
そして私もイナノさんみたいにレイさんにお仕え…なんて。
いけない妄想を誤魔化すようにレッカさんの服を褒めたたえると、レッカさんも気分をよくされたのか私たちのことを“ご主人様”と呼んで楽しそうにメイドをされていました。
私もレイさんのことご主人様って呼んでみた…いえ、なんでもないです。
それからオムライスを食べたり、みんなで写真を撮ったりして楽しい時間を過ごしました。
私とレイさんが一緒に写ってる写真…、私の部屋に飾ろう
「本当に可愛かったですね、レッカさんの服!」
そんな話をしながらライコウさんのクラスがやっている講堂に向かいます。
ライコウさんのクラスはイマーシブシアターというものをやっているようです。
私にはよくわからないのですが、参加者もお芝居に参加する演劇らしいです。
「こんなところに隠してやがったな!…見つけたぜ、ヴィクトリアの涙」
「ひゃっ!?」
「なんてことだ!怪盗オスカーにヴィクトリアの涙が盗まれてしまった!」
「何故エリーゼがヴィクトリアの涙だとわかったんだ!」
怪盗の恰好をしたライコウさんにつかまり、風魔法で空中に浮き上げられてしまいました。
よくわからないのですが、どうやら私は怪盗が狙っているお宝役のようです。
つまり私は物の役ということでしょうか?
何をしゃべっていいかわからなかったので、しゃべらなくてもいい役はありがたいです。
多分私は剥製か何かだと思うので動かないようにしないと。
でも風で浮いている状態はちょっと怖いです。
「怪盗オスカー!エリーゼを返しなさい!」
レイさんがライコウさんと私を見上げて声を上げます。
なんだか、悪者にさらわれたお姫様の気分です。
じゃあレイさんはお姫様を助けに来た王子様?
なんて妄想をしてしたのですが、気が付くとライコウさんとレイさんが魔法を打ち合っていました。
え?あれ?なんでこんなことに?
イマーシブシアターってここまでやるものなんですか?
「レイ様!おやめください!」
イナノさんがレイさんの名前を呼んでいる…ということは、これは劇じゃないです!
だったら私ももう剥製役はおしまいです!
「もうやめてください!レイさん!ライコウさん!」
ありったけの声で叫ぶと二人が我に返ってくださったようで、動きが止まりました。
が、ライコウさんの手が緩んでしまい、私は空中に投げ出されてしまいました。
「キャアアアアア!」
「「オトネ!」」
落ちる!
墜落の衝撃を想像してぎゅっと目を閉じました。
しかし衝撃も痛みも感じることはなく、代わりに何か柔らかくて暖かいものを背中に感じました。
「オトネさん!大丈夫!?」
「れ、レイさん…」
恐る恐る目を開けると、そこにはレイさんの美しい顔がありました。
レイさんが、私を助けてくれたんだ…。
無事だったという安堵とレイさんが助けてくれたという嬉しさで私の感情はぐちゃぐちゃになり、立場なんてものも忘れてレイさんに抱き着いて声を上げて泣いてしまいました。
「怖かった…です…!」
「もう大丈夫よ」
レイさんが優しく私の頭を撫でてくれる。
やっぱりレイさんは聖女様で、王子様だ。
レイさん以上に素晴らしい人なんていません。
ああ、幸せ…!
と、幸せを噛み締めていたのですがそれは長く続きませんでした。
講堂を壊してしまったので二人ともヒサメ先生に連れていかれてしまいました…。
一度クラスに戻ってから事情を話してこれ以上学園祭のお手伝いができないことを謝罪し、レイさんたちがお説教を受けている教室に向かいました。
教室の前ではイナノさんもレイさんたちが解放されるのを待っていました。
「レイさん大丈夫でしょうか」「大丈夫だとは思いますが…」の短い会話の後、すぐに話すことがなくなってしまって無言の時間が流れました。
どれくらい時間が経ったでしょうか。
教室から疲れた顔をなさったレイさんとライコウさんが出てこられました。
「ところでラゲツのライブってどうなったのかしら?」
レイさんのお体が心配でしたが、何故かレイさんは今日来るという有名人のライブを気にされていました。
もしかしてファンなのでしょうか?
講堂がワイルドで気に入ったらしいそうで今ちょうどライブをやっていると告げると、レイさんは嬉しそうな表情をされ、一緒に見に行きましょうと誘ってくださいました。
レイさんがファンだというラゲツって人が私も気になってきました。
きっとものすごく紳士的で真面目で優しくて頭がよくてとても歌が上手い人なんだと思います。
***
講堂はすでに人でいっぱいでした。
歓声に混じって聞こえる歌声は透き通っていて、美しくて、聴いているだけで心地よくなるような素晴らしいものでした。
これはレイさんがファンになるのも納得です。
是非ともお姿を拝見したいものですが、とてもじゃありませんが中には入れなさそうでした。
「オトネさん、このあと時間あるかしら?もう少し付き合ってもらえる?」
「え?は、はい!」
中に入れないしどうしようか困っているとレイさんから声をかけられました。
このあと…も、もしかして、皆が言っていたあの“噂”のことでしょうか?
あの“噂”…、キャンプファイヤーで踊った相手と結ばれると言う噂…。
いや、もう私はレイさんと、む、結ばれているんですけど、もっと私と絆を結びたいと思っていてくださるということでしょうか…?
どうしよう、舞い上がってしまいそうです。
「じゃあ17時に講堂裏で待ち合わせましょう」
「は、はい!」
17時…!やっぱりダンスのお誘いです!
皆の前でレイさんと踊るなんて不釣り合いだと思われてしまいそうです…。
また陰口を言われたりいじめられたりされるかもしれない…。
でも、それ以上にとってもとっても嬉しいです!
レイさんとの待ち合わせまで時間があるのでせめて片付けだけでも手伝おうと自分のクラスに向かおうとしましたが、レッカさんに呼び止められました。
キャンプファイヤーで一緒に踊らないかと誘われましたが、先約があることを伝えると肩を落として帰っていかれました。
その後もイブキさん、シズクさん、ライコウさん、シンドさんと次々に来られましたが先約があることをお伝えして帰っていただきました。
生徒会の皆さんはどこまでお優しいのでしょうか…。
きっと私がまだクラスになじめず孤立していると思われているのでしょう。
だから私が一人にならないように声をかけてくださって…。
でも私はもうクラスの皆さんとうまくやれていますし、レイさんという、こ、恋人もいますから、大丈夫です!
***
チョコバナナの屋台の片づけを終わらせ、レイさんとの待ち合わせ場所へ向かいました。
ちょっと早く来すぎてしまったようで、まだレイさんの姿はありませんでした。
…ドキドキしてきました。
そういえば私、ダンスなんて踊ったことないんですけど、失敗してレイさんの顔に泥を塗ることになったら…!
ああ、どうして今までダンスの練習してこなかったんだろう…!
あたふたしていると、講堂のドアが開きました。
レイさんかと思って顔を上げると、とても美しい顔立ちの男性が出てきました。
この世で二番目、レイさんの次に綺麗な方だと思いました。
それくらいお美しい方でした。
もしかしてこの方がラゲツという人でしょうか?
「あれ?何?ボクの出待ち?」
「え?あ、いや、ここで待ち合わせをしていて…」
「そっか、そっか。サインいる?」
この人、全然人の話を聞いてません…!
おまけに私のスカートをつかんで何かしようとしてきます。
ふ…不審者だ!
こんな人がレイさんの好きなラゲツのわけない!
ただの不審者です!!
「一体なんなんですか!?」
「キミ、ペンギンに似てるね!空も飛びそうだ!」
ダメです、全然話が通じません。
もうすぐレイさんも来てしまう。
レイさんはとても美しい方だから、不審者がレイさんにとんでもないことをしでかすかもしれません。
警察を呼ばないと…!
「ラゲツ!な、何をしてるんだ!…君、今見たことは誰にも言わないように」
スマホに手を伸ばした瞬間、講堂からもう一人出てきて不審者の腕を引っ張り中に押し込みました。
…あれが、ラゲツ?
いや、そんなわけないです。
レイさんがあんな不審者のファンなわけないです!
きっと同じ名前の違う人でしょう。
「オトネさん、待たせたわね」
「レイさん!今不審者がいたんです!」
不審者がいなくなると同時にレイさんがこられました。
あんな不審者と出くわさなくてよかったです。
必死に今起きたことを説明していると、お優しいレイさんは「それは怖いわね。じゃあ今日はもう帰りましょう」とおっしゃられました。
…え?
ま、待ってください、ダンスは…?
大丈夫です!と訴えかけても「オトネさんが心配よ」と言われるばかりで、結局レイさんと踊ることは叶いませんでした。
でもこれもすべてレイさんの優しさ…。
私を心から心配してくださっているのです。
そんな優しいレイさんが私は好きです。
でも、でも…!
レイさんと踊りたかったです…!




