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第二話 逆ハーエンドRTAスタート

「レイ様、お足元にお気を付けください」


 前の人生では乗ったことのない高そうな車を降りて歩く私の後ろからイナノが甲斐甲斐しく声をかける。


 今日からシュトまほのストーリーが始まるはずだ。

 曲がりなりにも一度はRTAで世界一位になったこともある。

 チャートはちゃーんと頭に入ってる。


 各キャラのエンドを迎えるために一番重要になるパラメータは属性パラメータ。

 ヒロインの初期パラメータはS~Fの7段階中のF、多分赤ん坊以下。

 他にも学力とか体力とかいろんなサブパラメータがあるけどまあその説明は追い追い。

 シュトまほではメイン属性となる火、水、風、雷、土の5つを各攻略対象たちから教えてもらって属性パラメータを上げつつ同時に好感度も上げていくんだけど、私はそのパラメータの効率のいい上げ方をもちろん知っている。

 各属性には相性があってたとえば火のパラメータをあげれば水のパラメータが下がる。

 さらにさっき言ったサブパラメータが属性パラメータの上がり方下がり方にも関係してくる。

 さらにさらに全属性Sのためにはメイン攻略対象の5人以外にも隠し攻略キャラや私、空ノ城レイも追わないといけない。

 だからこそ全属性をSにしなきゃいけない逆ハーエンドはゲーム中屈指の難易度なんだけど、そのエンドをヒロインが迎えないと私が死んでしまう。爆発して。


 そこで私はエロゲーの親友キャラのごとく、ヒロインを誘導する!

 そしてヒロインが逆ハーエンドを迎えたらさっさと私もモブイケメンと結ばれる!!

 なんならモブイケメン全員集めて私も逆ハーを迎えてみせる!


 転生ものお約束のチートなのか、私にはキャラクターのステータスを見る力があることがわかった。

 例えば私、空ノ城レイは闇属性のS。イナノは水属性のB。

 他にもサブパラメータやプロフィール、各キャラへの好感度なども見れるみたい。

 イナノは攻略キャラじゃないから好感度は見れないようだけど。


 このステータス開示能力を使えばパラメータ管理もしやすいし、ヒロインへの好感度もわかるから次に誰を狙えばいいかもすぐにわかる。

 ゲームと違ってセーブやロード、リセットは使えないだろうからこれは一発勝負。

 当然走り直しはできない。

 でも逆ハーエンドRTA世界一位になったことがある私なら余裕でできる!


「さあ、逆ハーエンドRTAスタートよ!」


 髪をファサっとかきあげ、気合を入れるためにビシっとポーズを決める。

 イナノは不思議そうな顔をしてそれを見ていたが、特に何も言わなかった。


「ほら、あの子よ」

「ああ、例の”無”属性の…?」


 周りがざわつきはじめる。

 どうやらこの超優秀で才能あふれる私のことを噂しているわけではないようだ。


 生徒たちの好奇の視線の先にいるのは茶色いサラサラしたボブヘアーの少し気の弱そうな、でも私の転生前の世界でならアイドルにでもなれそうなくらい可愛い顔立ちの少女だった。

 そう、あれがシュトまほのヒロイン、デフォルトネーム”星宙オトネ(ほしぞら おとね)”だ。

 私が美人キャラならヒロインは可愛い系のキャラね。


「あら、無能さん。なんで魔法も使えないくせにシュトラール学園に?」

「ここは優秀な生徒のための魔法学園ですわよ。場違いだと思わないのかしら?図々しいわね」


 眼鏡をかけたひょろ長い女生徒とそばかすのぽっちゃりした女生徒が現れてぶしつけにそう言った。

 えーと、こいつらは空ノ城レイの取り巻きで…

 えーい、名前が思い出せん。ステータス開示だ。


 ひょろ長いのが”鳥牧エイ(とりまき えい)”、風属性のD

 ぽっちゃりが”下津羽ビイ(かつばね びい)”、土属性のD


 シュトまほのスタッフ、相当適当に名前つけたんだろうなあと思った。

 というかどっちもDランクなんて、一般平均値のC以下じゃん。

 サブパラメータも軒並み平均以下。

 どの辺が”優秀な生徒”なのかね?


 冷ややかな目で見ているとそれを同意見と誤解したのか、取り巻きたちは私にすり寄ってきた。


「ねえ、レイ様もそう思いますよねぇ」

「あんな無能、さっさと田舎へ帰るべきですよねぇ」


 ゲームならここで嫌味な言葉のひとつふたつみっつ言うところだが、あいにく私はヒロインのライバルになりたいわけではない。

 最速逆ハーエンドのためにヒロインを誘導するには親友ポジションになるのが一番早い。


「あら、いいじゃない。能力がないということは可能性があるってことよ。私は生まれたときから闇属性だったけどあなたは今からなんにでもなれるのよ。うらやましいわ」


 精一杯空ノ城レイっぽい口調を真似、ヒロインの目を見て優しく微笑む。

 見る見るうちに沈み切っていたヒロインの表情がパァと明るくなっていく。


「あ…ありがとうございます!えっと…」

「私は高等部2年の空ノ城レイよ、あなたは?」

「わ、私は高等部2年の星宙オトネ…と言います。今日からシュトラール学園に通うことになりました。って、え、空ノ城…ってあの名家の…!?」


 やっぱりデフォルトネームのままか。

 ヒロイン…オトネは驚いたように口元を手で押さえ、戸惑ったように視線を泳がせた。

 どうやら空ノ城家はオトネが住んでいた田舎にも名が知れるほどの名家らしい。

 フフン、ちょっと誇らしい。


「そんなに気負わなくてもいいわ。知らない人ばかりで不安でしょう?なんでも聞いてちょうだい」

「は…はい…!」


 嬉しそうに目を細め、オトネは大きく頷いた。

 よし、第一印象はばっちりでしょ。

 なまじ周りから嫌われてるから取り入るの楽勝だわー。


 そろそろ教室に向かおうかと校舎に目を向けると同時に周囲がざわついた。

 気づくとまばゆいほどのイケメン5人がこちらに向かって歩いてくる。

 恐れをなしたのか取り巻きたちはどこかに逃げて行ってしまったし、イナノも軽く足がふるえている。


 ああ、これは…顔見せイベントだ。

 メイン攻略対象5人、シュトラール学園生徒会の。


「そいつが無能転校生か?」


 炎のように真っ赤な髪をしたイケメン、高等部2年”不知火レッカ(しらぬい れっか)”、火属性のS。生徒会庶務。

 いわゆる熱血タイプで良くも悪くも素直で思ったことを隠さない。

 好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、とわかりやすい性格だから正しい選択肢を選ぶのも簡単で初心者向けのキャラだ。

 シュトまほのRTAのレギュレーションにも色々あって、RTA初心者にもとっつきやすいレッカ好感度カンストRTAは見るたびに順位が入れ替わるくらい白熱してる。


「はぁ…、どうして我々が時間を割いてまで彼女のお守りをしなければいけないのですか」


 水のようにサラサラした青色のロングヘアのイケメン、高等部2年”水簾シズク(すいれん しずく)”、水属性のS。生徒会書記。

 物静かでクール。いつも不機嫌そうでかなりの毒舌。

 好感度が上がっても皮肉屋なままなんだけど二人きりのときに見せるデレの破壊力がハンパなくて人気の高いキャラだ。


「ほんっとーにメイワクだよね。そっちからジタイとかしてくれたらいいのに」


 風のようにふわふわしたくせっ毛の緑髪のイケメン、高等部1年”玉風イブキ(たまかぜ いぶき)”、風属性のS。生徒会会計。

 ヒロインよりも身長が低くて中等部1年と誤解されがちだがれっきとした高等部1年。

 自分が可愛いとしっかり理解しているらしく、あざとさを武器にシュトまほプレイヤーのお姉さんたちをたぶらかしている。

 実はヤンデレな一面もあってそういうのが好きな人への需要も高い。


「で、コイツはどっかいいとこのお嬢様とかなのかよ?じゃねぇと面倒見る理由もねぇだろ」


 雷のように毛を逆立てた金髪のツンツンヘアのイケメン、高等部3年”鳴神ライコウ(なるかみ らいこう)”、雷属性のS。生徒会会長。

 筋肉質で長身、制服を着崩してて露出が多いのが特徴。

 ケンカっぱやくてすぐに問題を起こす不良。いつも怒鳴ってる。

 でもそれは好感度が低いときだけで、好感度が高くなるとヒロインを何よりも大切にしてくれる。


「が、学園長が言うには奇跡の少女…らしいですけど、奇跡的な無能ってことなんですかね…?」


 土のような褐色肌の黒髪のイケメン、高等部3年”荒土シンド(あらつち しんど)”、土属性のS。生徒会副会長。

 いつもオドオドしていて「自分なんかどうせ」なタイプだけど、ヒロインのことだけは下に見ているから言うことは言う。

 なんならわりと毒もある。

 自分より下だと思っていたヒロインが覚醒しちゃったときの絶望顔のスチルはよかったなぁ。絵師さんいい仕事した。

 空ノ城レイよりもよっぽど闇属性っぽいのはよく界隈でネタにされてる。


「あ、あの、ご、ごめんなさい」

「ゴメンって思ってるなら今すぐジタイしてくんな~い?ボクたちもヒマじゃないんだよね~?」


 オトネはすっかり萎縮してしまったようで涙目で震えている。

 まあ、無理もないか。顔面偏差値カンストの5人にいきなり責め立てられたら。


「あら、たしか学園長じきじきにオトネさんの能力を引き出すよう言われたのでしたわよね。シュトラール学園の生徒会はこんなこともできないのでしょうか?一体どちらが無能なのかしらね」


 スっと一歩前に出て胸を張り、空ノ城レイらしい口調で5人のイケメンにそう言い放つ。

 自分たちの味方だと思っていた私の思わぬ言葉に5人は面食らったようだった。


「は…はぁ!?できるし!よし、俺がそいつを火属性Sにしてやるよ!今日の放課後俺のところに来い!」


 案の定レッカが一番に反応してきた。

 直情型のレッカには煽りがよく効く。

 これでレッカのルートは確保されただろう。


「ま、まあ、ガクエンチョーのメーレーだし。気が向いたらボクのとこにもきなよ」

「はぁ…。まあ、これも仕事ですからね。やる気があるなら来てください」

「チッ、音ェ上げたらブン殴るからな」

「ヒッ…、ま、まあ、精々頑張ってください…」


 遅れて他の4人も口々に捨て台詞のような言葉を放ち、明らかに不機嫌な様子で校舎へ歩いていく。


 5人が去った後、シンと静まり返っていた辺りもざわつきを取り戻した。


「そ、空ノ城さん、ありがとうございます…!私をかばってくれて…!」

「レイでいいわよ、オトネさん。これも何かの縁だし、私にも能力を開花させるお手伝いさせてくれないかしら?」


 まあ拒否されても逆ハーエンドに誘導させてもらうけど。


 優しく微笑むとオトネは目を潤ませながら大きく「はい!」と答えた。

 まるでしっぽをぶんぶん振って懐いてくる犬のようだと思った。


 よし、オトネの親友ポジションに収まることに成功したわ。

 レッカとも修行の約束を取り付けたし、順風満帆じゃない。


 しかし私は気づいていなかった。

 そもそもこの行動がすべての誤りだったことに。

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