第十一話 モブを落とせ!
オトネが真面目に補習授業を受けているようなので、しばらくRTAはお休みである。
いわゆるトイレタイムというものだ。
そこで私はこの自由時間の間にモブイケメンとの親密度を上げることにした。
オトネの逆ハーエンドRTAを完走したら、私もモブイケメンと逆ハーエンドを迎えるのだ。
まず狙うのはよく通ってる雑貨屋フォーゲルネストを一人で切り盛りしている鳥須アキナ(とりす あきな)さん。風属性A。
長い黒髪を一つに結っており、その表情は憂いのあるものでどこが影のある身長174cmの細身のイケメンだ。
公式設定では未亡人ということらしいから、今でも亡くなった妻のことを思い続けてるんだろうな。
幸薄そうなところが好き!守ってあげたい!とシュトまほプレイヤーからもわりと人気があるが、残念ながら攻略対象ではない。
攻略対象でないということはオトネの逆ハーエンドに混ざらないとうこと。
だから私のハーレムに入れてやるのだ!
「ごきげんよう。今日はこちらをいただけるかしら?」
「いつもありがとうございます、空ノ城の娘さん」
アキナさんのハスキーで低い声が心地よい。
フォーゲルネストでアイテムを買う→アイテムを買うことでアキナさんの私への好感度が上がる→アイテムは後でオトネにあげて攻略に役立てる、と、アキナさんの攻略には無駄がない。
まさに一石二鳥だ。
といってもモブキャラの好感度は見れないから本当に好感度が上がっているかはわからないんだけど、まあ商人キャラなら買い物で好感度が上がるだろう。
「アキナさん、明日は定休日でしたわよね?よかったら私デートしませんか?」
夏休みに入ってから毎日買い物してるし、そろそろ頃合いだろうとデートに誘ってみる。
好感度が上がっているならいけるだろう。
「デート…ですか?ハハ、面白いことをおっしゃるのですね」
く、まだ好感度が足りなかったか…!?
しかし私は諦めない!
「あら、私ではご不満かしら?」
ずいと顔を近づけて微笑む。
行け!落ちろ!
至近距離の美人だぞ!
「ですが…私は女ですよ?」
「は?」
思わず空ノ城レイらしからぬ情けない声が出てしまった。
…女?
こんなにイケメンなのに?
身長も高いし、声も低いのに?
「よく勘違いされるんですが…そんなに男っぽいですかね」
アキナさんは困ったように眉を下げながら苦笑している。
もしかして軽くかわされた…?
いや…そういえば…
公式の紹介文に書かれていたあの言葉…。
【未亡人】
意味:夫と死別した女性のこと。
はぁー!?何それ!?
いやたしかに公式の紹介文には男やもめ、じゃなくて未亡人と書かれてあった!
でもアキナさんの影のある感じは未亡人って言葉がぴったりだし、違和感がなかった!
じゃあファンが「アキナさん攻略したいー!」とか言ってるの見てシュトまほスタッフはほくそえんでたわけ!?
シュトまほスタッフどこまで底意地悪いんだよ!
というかこんなイケメンでイケボな女がいるかー!
あーもう!やめやめ!
他にも攻略できないイケメンモブいるし!
そっち狙うわ!
一人減ったくらいで私のハーレムは失われない!
私はぷりぷりと怒りながらフォーゲルネストを後にした。
イナノが「すみませんでした。レイ様なりの冗談だと思うので気にしないでください」とか謝ってた。
***
シュトまほには他にもイケメンモブがいる。
次に狙うのはうち、空ノ城家に使える執事、狛津カイ(こまづ かい)、火属性Dだ。
長身でオレンジのくせっけが特徴的なショートヘアのイケメンだ。
シュトまほは空ノ城レイのイベントを進めることで闇属性魔法を覚えるんだけど、そのイベント中にイナノが一時的に里帰りすることがあって代わりに出てくるのがカイだ。
いつも失敗ばかりしてレイに怒られてるんだけど、底抜けに明るくて人懐っこいから憎めない(ゲーム中レイは本気でカイにキレてたけど)
いわゆる大型犬タイプだ。
ファンアートでも犬耳を生やしたイラストが多い。
カイはモブキャラな上に出番も少ないのにシュトまほ人気投票で10位以内に入るほど人気のあるキャラだ。
そのカイを私のハーレムに入れる!
さすがにまた実は女でしたってことはないだろ!
…一応公式の紹介文を思い出しておこう。
ええと、たしか「空ノ城家に仕える執事。ミスが多いが、人懐っこくて犬のような性格」
…まさか正体は犬だとかないよね!?
シュトまほスタッフならありえるぞ…!?
ちょっとカイに確認してみるか…。
シュトまほのゲーム中はカイの出番はほとんどなかったけど、それはあくまでヒロイン目線。
空ノ城家には普通にいつもカイがいる。
「カイ、ちょっといいかしら?」
「あ!レイ様!どうしたの!?」
私が声をかけるとカイが嬉しそうに眼を輝かせて私に駆け寄ってくる。
しっぽをブンブンと振っている幻覚が見える。
…見た目は違うけどオトネに似てるな。
しかし相変わらず敬語の使えない奴だ。
「…変なこと聞くけど、貴方は人間よね?」
「は?」
ぶしつけにそう聞くとカイは質問の意図がわからないといったように私を見下ろす。
そしてすぐに大笑いし始めた。
「何言ってんの!?俺が人間じゃなかったらなんなの!?レイ様変なのー!」
だ、だよね。人間だよね。
いやでも本人は人間だと思い込んでるけど魔法で人間に変えられた犬ってことも…。
「カイは人間ですよ。私の従弟ですから」
私がなおも確信が持てずに眉間に皺を寄せていると、イナノが静かな口調でそう告げた。
あ、そうなんだ。
へー、そういうつながりがあったんだ。
「そ、そうよね。人間に決まってるわよね」
「あったりまえじゃーん!」
まだカイはケラケラと笑っている。
しかし本当に敬語が使えないなこいつは…。
厳格な空ノ城家に仕えているのによくクビにならないものだ。
「カイ、言葉遣いがなってませんよ」
「ご、ごめんなさい。イナノお姉ちゃん」
イナノがカイを軽くたしなめるとカイは叱られた大型犬のようにしゅんとなった。
へー、イナノの方が年上なんだ。
カイは身長180cmとかなりの長身だ。
一方のイナノは158cmだから大男が自分より小さい女の子に怒られているというとてもシュールな絵面になっている。
うん、年下彼氏。大好物。
「カイ、明日一緒に出掛けない?そうね、シュテルン・パルクでもどう?」
「え!?いいの!?あ、じゃなくて、いいんですか!?仕事あるのに!」
カイが興奮した様子で身を乗り出す。
シュテルン・パルクとはシュトまほのデート先のひとつで、魔法で動くアトラクションが集まった遊園地だ。
転生前の世界にあった遊園地とラインナップは同じようなものだが、魔法で動くのでレールのないジェットコースターやガチの空飛ぶ絨毯などがあるらしい。
「行きたい!行きたいですレイ様!」
飛びついてくる勢いなものだからカイの顔が至近距離にある。
人気10位以内なだけあってカイは攻略キャラに負けず劣らずのイケメンだ。
出番さえ多かったら攻略キャラになってただろう。
しかし、これは…ものすごい好感度高い状態なんじゃ…!?
え?まだ特に何もしてないけど、もしかしてシュトまほの世界ではカイはレイが好きって隠し設定があるとか…?
よっし!ハーレム要因一人ゲットだー!
「…レイ様、ちょっとこちらへ」
イケメンたちに囲まれる未来を想像してニヤけているとイナノが小声で私の名前を呼び、小さく手招きする。
何よ、今素敵な妄想をしてたところだったのに。
カイに「待て」をしてしぶしぶイナノに近づくと、イナノは小さな声でこう言う。
「あの…間違っていたら大変申し訳ないのですが、カイを…その、伴侶にしたいと…思ってらっしゃいますか?」
イナノは言葉を選んでいるようだった。
…え?もしかしてイナノとカイは付き合ってるとか…?
そっか、従弟って結婚できるのか…!
ああー!そういうことかよシュトまほスタッフー!
「え、えーと、イナノはカイと付き合ってるのかしら?」
「まさか!だってカイはまだ9歳ですよ!」
冷や汗を流しながらそう聞くと、普段のおとなしいイナノから想像もつかないような大声で食いつき気味に答えた。
よかった、付き合ってない…って、は?
「9…歳…?」
え?9歳って、何歳?
「あの、ですので、伴侶にするにはまだ早いかと…」
「いやいやいやいや!私捕まっちゃうじゃん!犯罪じゃん!」
あー!とことんやってくれるなシュトまほスタッフー!
無理無理無理!いくらなんでも手を出せない!捕まる!無理!
こうして、私の逆ハー計画は頓挫したのであった。
…まだ、まだイケメンモブは他にもいるから…!




