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第十話 オトネの見る景色

 私はシュトラール学園高等部二年の星宙オトネです。


 突然ですが私、恋をしています。

 お相手は同じく二年の空ノ城レイさんといいます。

 私が周りになじめず孤立していたときに唯一優しくしてくれた人です。


 レイさんは名家のお嬢様で、田舎からやってきた私とは身分が違います。

 だから立場というものがあるはずなのに、私なんかにも優しくしてくれたんです。

 魔法が使えない私のために修行がうまくいくようアドバイスや、私に魔法を教えてくれる生徒会の方々とうまくやるために仲良くなる手引きをしてくださいました。

 全部レイさんのおかげなのに「私のおかげじゃないわ、オトネさんが頑張ったからよ」なんて言ってくださる謙虚な方なんです。


 最初はレイさんのことを友達だと思っていました。

 あ、私なんかが友達なんて思うのもおこがましいですね。

 言い直します。

 友達になりたい、と、思っていました。


 ある日レイさんは私が転校してきたばかりでわからないだろうからと町を案内するとおっしゃってくださったのです。

 学校でばかりか休日にも時間を割いていただけるなんて…。

 レイさんはなんて優しい人なんでしょうか。

 まるで物語に出てくる聖女のようだと思いました。


 その時からレイさんのことを考えるとドキドキするようになったのですが、それはレイさんがあまりにも素晴らしい方だから緊張してドキドキするのだと思っていました。


 シュトラール学園に転校してから最初の休日前日の夜のことでした。

 私はああでもないこうでもないと鏡とにらめっこし、自分の持っている服の中で一番いいものを選びました。

 変な格好をしてレイさんに恥をかかせないため、と自分に言い聞かせていましたが、心の中ではデートみたいだな、なんて思ってしまいました。

 そんなことを考えた自分に驚いて自分の頬を両手でペチンと叩き、「オトネ!レイさんの優しさを勘違いしちゃダメ!」と自分を叱咤しました。


 レイさんとの約束の日。

 レイさんは私服姿もとても麗しいものでした。

 レイさんと比べると私の恰好はみすぼらしくて、レイさんとの格差を実感してしまいました。


「レイさん、イナノさん、今日はよろしくお願いします」


 頭を下げてそう告げましたが、イナノさんには無視されてしまいました。

 無理もないと思います。

 レイさんは私の住む田舎にも知れ渡る名家の娘で、かたや私は魔法も使えない落ちこぼれです。

 レイさんの名前を汚さないためにも関わってほしくないと思うのは当然でしょう。


 やっぱり私なんかがレイさんの傍にいちゃいけないんだ…。

 レイさんの優しさに甘えちゃいけないんだ…。


 そう思うと心がしょんぼりしました。

 でもそんな私にレイさんは気を使ってくださり、「…挨拶くらいしなさい。空ノ城家の教育がなってないと思われるわ」とイナノさんを叱りました。

 イナノさんはレイさんの将来のためを思って私を避けているのに、とても申し訳なくなりました。

 だけど、イナノさんには申し訳ないのですが、それ以上に、私をかばってくれて嬉しいという気持ちが強かったです。


 レイさんのことを考えるとどんどん心がドキドキするようになりました。


 私はレイさんのことが好きなのかもしれない。

 レイさんの友達ではなく、恋人になりたいという気持ちで。


 そしてその気持ちは確信に変わりました。


「ほら、こんなに似合うわ」


 レイさんが私のために指輪を買ってくださり、その上私の指にはめてくれたのです。

 突然のことに私は頭が爆発しそうになってしまい、それからのことはよく覚えていませんでした。

 レイさんが「とてもよく似合うわ」とか「私の指輪は外しちゃダメよ」とか言っていたような気がします。


 この時に自覚してしまいました。

 私はレイさんのことを友情とは違う意味で好きなのだと。


 そして、もしかしたら、レイさんも同じ気持ちなんじゃないかと…。


 もちろんレイさんみたいな綺麗で魔法の才能もあって優しくて素敵で完璧な人が、何の取柄もない私なんかを好きになるはずがありません。

 しかも私もレイさんも女です。

 そんなことはわかっているんです。


 でも、なんとも思っていない相手にあんな高級な指輪をプレゼントするでしょうか?

 優しさだけでそんなことをするのでしょうか?

 もしかしたら、もしかしたらレイさんも私のことを…。


 いや、それは私のうちが貧乏だからわからないだけで、お金持ちは友達に高級な指輪をプレゼントしたりするのかもしれません。

 こんな勝手な勘違いをしたらレイさんが迷惑に思ってしまう。

 それどころか恋心がバレたら嫌われてしまう。


 頭の中に私が二人いるみたいで、淡い期待を抱く私と現実的な私がずっと言い合っていました。

 結局、現実的な私が勝ちました。


 やっぱり、レイさんが私なんかを好きになってくれるはずがないんです。

 勝手に期待して私の気持ちを伝えたりしたら、レイさんはもう私の傍にいてくれなくなるかもしれない。

 それだけは絶対にイヤです。


 諦めなきゃいけない。

 そう思っているのにレイさんは「ありのままのオトネさんが素敵だと思うわ」なんて言ったり、私が一人でヒサメ先生のお説教を受けないようにわざと赤点をとったりと私の心を乱します。

 そのたびにもしかしたら、なんて淡い期待を抱く私が顔を出します。


 レイさんが好き、という気持ちと、諦めなきゃ、という気持ちで揺れ動く日々を送りました。

 最近は私も少しずつ魔法を使えるようになったので休日にも魔法の修行をしようと思ってくださるのか、生徒会の皆さんが声をかけてくださるようになりました。

 でも、週末はレイさんと出かけるという約束があります。

 申し訳ないのですがお断りしました。

 すると優しいレイさんは私が立派な魔法使いになるためにと、自分よりも生徒会の皆さんを優先するように言ってくださりました。

 休日にレイさんと出掛けるよりも、休日も生徒会の皆さんと修行した方がいい、

 わかっています、それが私のためになることは。


 でも、でも、私はレイさんと出掛けたいんです!


 私は立派な魔法使いになるよりも少しでも長くレイさんの傍にいたいんです…!

 私は、もうレイさんが傍にいないとダメなんです…!

 私はレイさんのことが、好きで好きで仕方ないんです…!


 なおも私のためを思って生徒会の皆さんと出掛けるように言うレイさん。

 わがままだとわかっていますが、それならばレイさんもいてほしい。

 レイさんも一緒に来てくださることを条件にレッカさんに休日も修行をつけていただくことにしました。


 休日前日、レイさんが休日の修行のための服装を見立ててくださいました。

 私は制服のままで行くつもりだったのですが、レイさんが私の服を選んでくださったことが嬉しくてその格好で待ち合わせ場所に向かいました。


 何故かレッカさんも私服でした。

 火の魔法の修行に向かうと思ったのですが、何故かレッカさんは雑貨屋フォーゲルネストに入っていったので私もついていきました。

 フォーゲルネストの商品を見て、修行に使う道具を買うのだと気づきました。

 だから杖や魔法の粉などを見ていたのですが、ふとある人形が目に入りました。

 アメジストのようにキラキラと輝く紫色の目をした人形でした。


 その美しい目も、長く柔らかそうな髪も、高貴な顔立ちも、レイさんに似てる…。


 人形に目を奪われていると、それに気付いたレッカさんが「いつも修行頑張ってるから」と、私にプレゼントしてくださいました。

 修行のアイテムを買いに来たのに、悪いことをしてしまいました。

 でもその人形をレイさんに早く見せたくて、私はレイさんの元へ走っていきました。

 結果、レッカさんにお礼もろくに言わずに駆け出してしまったことでお叱りを受けてしまったのですが。


 その後も何故か修行はせずにソフトクリームを食べたり、公園を散歩したりしました。

 …いや、レッカさんも何か考えがあるに違いないです。

 これも何かの修行なのでしょう。

 レイさんならレッカさんの考えがわかるはずだと何度も後ろを振り返って確認しました。

 ちゃんとレイさんもついてきてくださっていたのでやっぱりあれも修行の一環なのだと思いました。


 これも修行ならと気を張り巡らせてしっかりレッカさんについていきました。

 だからか修行が終わるころにはとても気疲れしてしまいました。

 しかし私が疲れるということは、一緒に修行を受けてくださったレイさんも疲れるというもの。

 私はレイさんを怒らせてしまいました。


「そうやっていつでもどこでも私についてこさせる気?一人で何もできないの?そういうのが許されるのは初等部までだわ。貴方、いつまで私に助けてもらうつもり?」


 レイさんといたい。

 そんな私のわがままのせいでレイさんに迷惑をかけてしまいました。

 修行も一人でできない自分が情けなくなりました。


「私たち、しばらく距離を置きましょう」


 一番聞きたくなかった言葉が私の耳に入り、私はわがままを言った自分を呪いました。


 レイさんを呆れさせてしまった。

 レイさんの優しさに甘えすぎてしまった。

 レイさんに、嫌われてしまった。


 頭の中が真っ白になりました。


 しかし、次に聞こえてきた言葉に私は意識を取り戻しました。


「貴方が私以外の人とちゃんと休日を過ごせるようになったら付き合ってあげるわ」


 付き合ってあげる…?

 それは…つまり、レイさんも…私のことを…?


「…私が一人で生徒会の方々と出掛けることができれば、付き合っていただけるんですね?」


 確認のために言葉を繰り返すと、レイさんは「淑女に二言はないわ」と頷き、「楽しみにしてるわ、オトネさん」と優しく微笑んでくださった。


 レイさんは、私が立派な魔法使いになるのを待ってくださっているんだ。

 私が一人前の魔法使いになれば、付き合ってくださるんだ…!


 だから私は甘えを捨てました。

 魔法の修行もこれまで以上に頑張ったし、週末も修行をするために生徒会の皆さんと出掛けるようにしました(やっぱりあれがなんの修行なのかわからなかったけど)

 体力をつけるために走ったりもしたし、これも修行に役立つかもしれないと思って空き時間を利用して作法や料理、絵画など今までやらなかったことにも挑戦しました。

 勉強も頑張ろうとしたんだけど、何故かそれだけはうまくできませんでした。


 おかげで夏休みは補習になってしまいました。

 夏休み中に立派な魔法使いになってレイさんとたくさんデートしようと思っていたのに…。


「ふえーん、夏休みにデートしたかったー!」


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