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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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パンドラ湖

 流石はファンタジーな世界。 僕らが野営地に選んだ小山は某人形劇っぽい動く島だった。 夜が明けて辺りの様子も見えてくる。


「ここはパンドラレイクの中心だ」

「ある意味、予定通り浮島の近くまで到達した訳だな」

 ガイアの説明によると、重無ヴェルヌから落ちる滝が注ぐこの湖を、彼らは『パンドラ湖』と呼ぶそうだ。 透き通るエメラルドグリーンの湖面は美しく。 『奈落』の底とは思えない。 しかし、困った。


「湖底が見えない。 足は付かなそうだ」

「私、泳げないです」

 岸が遠いのだ。 筏を作るにも材料がない。


「辺土の河童と呼ばれた私の遊泳技術、とくとご覧に入れましょう」

「それは、頼もしい」

 何より問題は。


「閣下・・縄で括って何をされているので? 持ち上げないで下さい。 え? 振りかぶって?」

「よし、行ってこーい」 

「うわっ あひゃ―――‥。」


 ドボンッ 


 ここは『奈落』の底にある湖だ。 未知の魔獣が潜んでいるに違いない。 慎重に縄を巻き上げて()を手繰り寄せる。 リールがないから大変だ。


 クイクイ


 むむ、あたりがきた。 焦って引くとバラしてしまうぞ・・よし今だ!


 ザッパ―――‥ン!


 釣り上げたのは3mクラスの魔黒鱸ブラックバス、久しぶりのバス釣りは規格外の大物だった。


「で、水の中はどんな様子だ?」

「きょ・・巨大な魚が・・競うように群がって。 ひぃぃ」

 やはり、泳いで渡るのは困難か。


「参ったな」

「閣下は、先ず私に言うべきことがありません?」

「ん?・・ああ、ご苦労」

 労いは大事だ。


「漂流島の気まぐれに任せるしかないか」


 *****


 明らかに漂流島は移動を続けている。 この数時間で目に見えて重無ヴェルヌが近付いてきた。


「進行方向が間違ってないのは助かるな」

「考えようによっては快適だ」

 このまま、目指す対岸まで行ければ御の字なのだが。


「魔獣化した魚は喰えないから捨ててくれ」

「はいはい、人使いの荒いこって」

 魔石を抜いた魔黒鱸ブラックバスの遺骸は臭う。


「湖に落ちるなよ」

「ええ、二度と落ちませんとも。 よっこら」


 バシャン


「へ?」


 ザッパ―――‥ン!


「ひぇぇぇ!!!」

「何だ?」

 デイビッドが湖中に魔黒鱸ブラックバスを投じた途端、巨大な何かが餌に喰らい付いた。 同時に漂流島全体が大きく揺れる。 楕円形のフォルムに六角模様の岩肌。 そして、巨大な頭。


 どう考えても。


「島じゃなくて亀だよな・・これ」


 *****


『漂流島』改め『亀島』はパンドラ湖を悠々と進む。 幸い彼(?)は人間に敵意がないようだ。


 そして、新たな危機が迫ってきた。


「この亀、このまま、滝の下を潜るつもりだ」

「何とか耐えるしかあるまい」

 轟轟と流れ落ちる滝つぼに近付いてきたのだ。 滝の向こう側、重無ヴェルヌの下にも湖は広がっている。 亀島は浮島の下へ潜るつもりなのだろう。


「腹ばいになって甲羅に掴まれ! 流されるなよ」

 滝の轟音に会話もままならなくなってきた。 水しぶきで目を開けるのも困難だ。 僕の右にはシンシア、左にはデイビッドが甲羅に掴まっている。 水の圧力が、いよいよ高まってきた。


「わっ わわっ 流される」

「しっかりしろ!」

「助かりました。 閣下ぁ」

 腕を滑らせたデイビッドを左手で掴んでやる。 世話の焼ける男だ。


「ダイアナ様、ご武運を」

「くそっ」

「シンシア!」

 次に流されたのは魔導七剣士のシンシアだ。


「ま・・マスタング卿?」

「簡単に死なせはせんよ」

 僕は右腕で彼女の身体をキャッチした。 咄嗟に離した左手で甲羅の角に掴まり、如何にか体勢を保持する。


「酷くないです? 閣下ぁぁぁ―――‥。」

 尊い犠牲に哀悼の誠を捧げよう。 南無


 *****


 重無ヴェルヌの下は不思議な世界だった。 島の上と同じく重力は少なく、その分全体の水位が一段上がっている。 上空に見える浮島の底面まで1000mほどはあろうか。 その中心部が大量の水を吸い上げている。 精霊樹の洞で見た逆流滝のようだ。 重無ヴェルヌの中心部が吸い上げた水が、滝となって再びパンドラ湖に注ぐ・・そんな風に水が循環しているのだろうか?


「なあ、ブルース、あの水が噴き上がる場所に近付いてないか?」

「ああ、僕もそう思う」

 亀島は明らかに中心部を目指して進んでいる。


 そして程なく懸念は的中して。


「うわっ 身体が軽く・・足が付かない」

「抗いようが無いな」

 憶えのある無重力感・・ふわりと身体が浮くと、辺りの水と一緒に上空へ吸い上げられた。


「皆、落ち着け。 油断すると空中で魚にパクリといかれるぞ」

「ふんっ 魚如き魔剣で切り刻んでくれる」

 水一緒に吸い上げられた魔黒鱸ブラックバスが大口を開けて襲ってくる。 何とも旺盛な闘争本能だ。


「ダイアナとシンシアは流石だな」

「呑気に構えてないで、打開策を考えろ」

 足場の悪い状況で魔剣士は有利だ。 僕やガイアは腰の入った攻撃が繰り出せない。


「そうは言ってもゴールが見えてきた。 ガイア、あの先が何か知ってるか?」

「精霊樹の泉だろうか? 俺にもよく解らん」

 僕らは逆流滝に翻弄されながら、重無ヴェルヌの底に吸い込まれてしまった。  


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