表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残り物には福がある  作者: 橘 葵
95/106

犬猿の仲

 統括軍の本陣を出発して森の外縁を北上する。 はぐれ牛魔人ミノタウロスに遭遇したり、魔銀狐フォックスを狩ったりしながら、大きなトラブルなく1日目は終了した。


『奈落』の全周は約100km。 やや、東西に幅広い楕円形で南北の直径はおよそ30kmある。 一方、『奈落』の北部に浮かぶ浮島、重無ヴェルヌは直径10km。 つまり、浮島の基部まで20km程という事になる。 魔獣との戦闘を考慮すれば、2日の距離だ。


「結界の持続時間は如何ほどですか?」

「恥ずかしながら、4時間が限界です」

「解りました。 では、3時間おきに声を掛けましょう」

「よろしいので?」

「トルクさんに消耗されては、パーティー全体が危機に陥ります。 気にせず休んでください」

「では、お言葉に甘えて」

 彼はここまでの移動すら辛そうだった。 無理はさせられない。


「閣下、私も先に寝ま・・いてっ」

「デイビッドは見張りだ」

「ええっ! 結界があるじゃないですか?」

 まったく、この男は。


「何事にも絶対はない。 最初の3時間だけでもやれ」

「はぁ わかりました。 3時間経ったら閣下も起こしますからね」

「頼んだぞ」

 どの立場でものを言ってるのやら。


 *****


「起きて下さい。 ほら、早く」

「う~ん・・もう3時間も経ったのか?」

 全然、寝た気がしない。


「いえ、未だ1時間半です」

 てめぇ コノヤロー!


「次、やったら魔獣の餌にする」

「だから、起きて下さいってば。 魔獣に囲まれてますよ」

 それを早く言え。


 完全に包囲されてる。 数は20・40・・100頭ほどか。 犬の頭を持つ2足歩行の魔獣・・犬魔人コボルトの群だ。 結界が解けるのを待っているのだろう。 気配を殺して、此方の様子を覗っている。


「よく気付いたな」

「私も伊達に修羅場を潜ってませんので」

 何故だろう? モヤモヤする。


「ダイアナすまない。 起きてくれ」

「ううん・・魔獣か?」

「ああ、群に囲まれた」

 聖法結界があれば襲われはしないが、こう囲まれては逃げる事も出来ない。 しかも、群は徐々に集まりつつある。 見ている間にも10頭くらい増えた。


「これは、不味い状況だな」

「ああ、じっくり待つ構えのようだ。 この場所での根競べに後はない」

「早めに討って出る方が得策か」

 さて、如何したものか。


「聖法結界を解除して押し通るか?」

「いや、奴らは足も速いし鼻も利く。 ただ逃げるだけでは、すぐに追いつかれるぞ」

「囮を使いましょう」

 シンシアが出した提案。


「このような事態にあって全員無事は難しいか」

「残念だが仕方あるまい」

「で・・誰が囮になるんで?」

 最後に発言した彼に視線が集まる。


「ええっ!? 護ってくれると言ったじゃないですか?」

「仕方のないことだ」

 護るとは言ってない。


「お待ち下さい! 私には妻とまだ幼い娘が」

「独身だと聞いてる」

「年内にも作る予定なんです!」

 子供は半年じゃ作れないぞ。


「私が死んだら、誰が病気の母の面倒を見るので?」

「マスタング家の保障制度は充実している。 安心してくれ」

 遺族年金に殉職手当も付く。 介護福祉も手厚いぞ。


「トルク殿、合図したら結界を解除してくれ」

「承知しました」

「僕が囮を投げたら、皆は丘に向かって走るんだ」

「了解」

「閣下ぁぁぁ!!!」

 犬魔人コボルトの群が俄かに騒がしくなってきた。 此方の変化に気付いたか?


 アオ―――‥ン!


「なぬ?」

「いやぁぁぁ!!! 死にたくない!」

 デイビッドを振りかぶったその時、遠吠えと同時に犬魔人コボルトの群が向きを変えた。


 ヴォ―――‥フ!


 続いて犬魔人コボルト達が見る方向から雄叫びが上がる。


「あれは・・魔大猿エイプスか?」

「ボス猿の招集鬨だ」

 一斉に走り出す犬魔人コボルトの大群、その数およそ120頭。 迎え撃つ魔大猿エイプスは50頭あまり。 体長2mの犬魔人コボルトに対して、魔大猿エイプスは優に5mを超える。 身体の厚みも腕の太さも段違いだ。 数の優位を個々の強さが補い、戦力は拮抗しているように見える。


 腕で掴みかかり、噛みつき牙を立てる犬魔人コボルト、拳をハンマーのように振るい、組付いて締め上げる魔大猿エイプス、魔獣同士が争う姿は何とも奇妙に思える。


「今の隙にここを離れよう」

「ああ、丘向こうまで走るぞ」

 幸い今宵は月夜。


「おい、デイビッド何してる? 早く立て」

「閣下とは、もう口を利たくないです」

 魔獣が人間に向ける敵意は彼ら特有の本能で、普通の獣が獲物に抱くそれとは大きく異なる。 しかしながら、犬と猿が互いに抱く悪感情は、魔獣の本能すら超える因縁めいた物なのかもしれない。

 

面白かったら 評価・ブックマーク・感想などお願いします。 

誤字の報告も助かります。

とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ