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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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黄金の魔獣

『奈落』掃討戦が始まって5日が経った。 ここまで割と順調に遂行できている。


「いやー 今度こそ死ぬかと思いましたよ」

「いい加減、気を付けないと次は助けないぞ」

 初日に魔大蛇マナ・コンダにパクリとやられたデイビッド。 腹から無事に帰還した彼は、翌日に軟体線虫プルム・ワームに頭から呑まれ、つい先程まで大口蛙ビッグ・マウスの口に納まっていた。


「爬虫類、両生類、無脊椎動物、それぞれ体内の居心地は違いますね」

「それって、必要な情報か?」

「やはり哺乳類も経験せんことには、語るに落ちますな」

「モグモグされたら終わると思うぞ」

 哺乳類系で最大の魔獣となると魔牙獣ジ・サーベルだろうか? 呑まれる前に咬まれて死ぬと思う。


「閣下ぁ!」

「なんだ?」

「斥候部隊が魔牙獣ジ・サーベルに遭遇。 被害甚大」

「第3・第5中隊を回せ。 私も出る」

「はっ」

 振りではないからな。 『楽しみだ!』みたいな顔して調子に乗ると本当に死ぬぞ。


 *****


 大岩の上から我々を見下ろす孤高の存在。 ネコ科の大型魔獣『魔牙獣ジ・サーベル』だ。 体長10メートル、体高5メートルはある巨体。 全身を黄金色の長毛に覆われた優美な姿。 その獰猛な顎には50㎝はあろう2本の牙が奢られている。 竜種のいない『奈落』において、最強の一画と言えよう。


「バルボア姉妹は周囲の警戒を頼む。 決して奴の正面には立つな」

「解ってる」

「さて、奴は賢い魔獣だ。 機嫌を損ねた覚えはないが」


 フワッ


 静かに大岩から降りてきた魔牙獣ジ・サーベル。 やる気のようだ。


「不用意に正面に立つな」

「えっ? わっ・・あれ?」 

 注意する間も無く、重騎士の一人が上下に両断された。 予備動作も無く、一瞬で距離を詰めた奴の牙が鎧ごと切り裂いたのだ。


「波状防御!」

「「はっ」」

 奴の動きを目で追える者は少ない。


 ザザザザン


 前衛に重騎士50騎が弓状陣形で大盾を並べる。 前衛の後背を更に3列 150騎が固め、総勢200騎の分厚い防御陣を組み上げる。


「反撃は考えるな。 奴から目を離さず防御に徹するんだ」

 特徴的な左目の傷。 奴と会うのは、この5年間で3回目。 最初の遭遇では本陣を破壊されて撤退。 2度目は興味を失った奴に見逃してもらった。 つまり、あの魔牙獣ジ・サーベルを相手に、一度も勝利したことが無い。


 ルルル


「ぐわぁ!!!」

「後列は前へ! 陣形に穴を開けるな」

 奴が静かに喉を鳴らしたかと思うと。 前衛の一画が吹き飛ぶ。 一撃で5人はやられた。


「マスタング卿! 援護に参ったぞ」

「サンサーンス殿? 駄目だ」

 シンセスの総大将サンサーンスが、聖騎士隊を引き連れて騎馬突撃を掛けた。 5列縦隊での2面攻撃。 通常の魔獣が相手ならば十分な戦力だ。 しかし。


 ルル


 魔牙獣ジ・サーベルが短く喉を鳴らすと、聖騎士隊は刃の竜巻に飛び込んだように、馬もろとも粉微塵に吹き飛んだ。 一瞬の出来事で断末魔すら上がらない。


「なっ? 何が起こった?」

「部隊を下げるんだ。 奴には攻撃を当てることも避けることも不可能。 護るか逃げるしかない」

「なんと・・しかし、マスタング卿は如何されるおつもりか?」

「奴が飽きるまで、ここで相手をする。 本陣に侵入されたら終わりだ」

 今ので餌は十分だろ? 機嫌を直して帰ってくれ。


 *****


 少なくない犠牲を出しながらも、何とか魔牙獣ジ・サーベルの攻撃をしのぎ続けている。 奴は猫じゃらしを弄るくらいの気分で、ちょっかいを掛けてるつもりだろうが、こちらは命懸けだ。


「全軍、撤退完了しました」

「よし」

 さて、ここからが問題だ。 我々が戻っても魔牙獣ジ・サーベルを本陣に招き寄せては本末転倒。 かと言って、このままではジリ貧だ。


「第5中隊を下げろ。 怪我人もなるべく連れて行ってやれ」

「閣下はどうされるので?」

「もう暫く奴の相手をしてやる。 第3の爺様にも付き合ってもらうぞ」

「がははっ この老いぼれ、地獄までお供しますぞ」

 爺様と2人はちょっと勘弁だな。 おっと。


「バルボア姉妹も助かった。 君らは下がれ」

「でも、ブルース?」

「命令だ」

 2人を付き合わせる訳にはいかん。


「勝利するまで、撤退は許さないわ!」

「は?・・おまっ テラ? 何故ここに居る?」

 と、そこに突然現れたテラとガイア。 本陣に待機していた筈だ。 肝心のテラがここに居ては、本陣に聖法結界を張れない。


「精霊結界は既に展開した。 あとは、その猫に勝利すればいい」

「ガイア、おまえ勝手な」

「不甲斐ない貴様の加勢にきてやったのだ」

 加勢?・・確かにテラが居れば。


「面倒だけど、私も手伝うわよ」

「彼女なら2人同時にサポートするくらい訳ない。 俺と貴様で斃すぞ」  

 防御は任せて攻勢に出られる。


 グルルルル


 魔牙獣ジ・サーベルの警戒が一段上がった。


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