求める担い手
マリーダが王都を発って3か月。 彼女が如何に大切な存在か思い知らされる日々を送っている。
「やあ、ベレン。 すっかり回復したようで何より」
「ああ、マリーダが処方した魔薬のおかげだ」
ここは貴族街に程近い高級スパ。 いわゆる、都会型リゾートだ。 高位貴族の間では社交の場として用いられ、過去には国を二分する政争を手打ちに導いたという逸話もある。
「ところで、おまえ。 そんな、大きな南京錠をぶら下げて痛くないのか?」
「これは、マリーダが俺のために作らせた神銀製の特注品だ。 彼女の魔力で開錠されるようになってる。 愛ゆえの戒めだ」
ベレンは愛おしそうに自分の股間を見下ろす。
「愛だな」
「そうとも。 逆に聞くがステファン。 痛みはもう無さそうだが・・その大丈夫なのか? それ」
俺の切り株を見やると、ベレンはおそるおそる聞いてきた。 彼が言い淀むのも無理はない。 一時は無様に取り乱し、狂騎士シャーロットを討ち果たさんと多額の懸賞金まで詰んだ。
「大丈夫だ。 俺もマリーダの愛に救われた」
「おまえも? そうだったのか」
俺だけの秘密だったが、似た境遇のベレンになら話してもいい。
「俺の股間を見た彼女は笑顔でこう言った。 『マジウケルンデスケド』とな」
「それはどういった意味なんだ?」
「ああ、俺も気になって色々と文献を調べて知った。 異世界語で『貴方への興味は尽きない』という意味らしい」
「興味は・・尽きない?」
「そうだ。 何が起きようとも俺への関心は失わない・・つまり、愛する。 そう告げてくれたのだ」
「愛だな」
「ああ、マリーダは天使だ」
さて、仕事向きの話もせねば。
「ハーベスト伯爵が『好色卿』に鉱山を不当に奪われたと訴えてきている」
「ああ、聞いてる。 神銀をドロップする魔物のが湧く迷宮だろう?」
「そうだ。 奴は議会工作を仕掛けているようだが、ヘロウ公爵家やマッケィン侯爵家が妨害に動いているらしい。 一応、奴は我々の派閥だが、どう思う?」
「政治の話はよく解らん。 しかし、あの男を仲間と思ったことはない」
何ともベレンらしい答えだ。 おかげで俺の腹も決まった。
「ハーベスト伯爵の訴えは道理に合わない点が多々見受けられる。 奴はマリーダ宮建設に多額の寄付をしているが、かと言って不条理を容認すれば、何れ批判はマリーダに及ぶかもしれない」
「ならば、奴を擁護する理由は無いな」
「では、決まりだ。 俺達が不支持に回れば他も追随する。 奴を支持する連中も、暫く大人しくなるだろう」
「そう願いたいものだ」
元々ウィリアム殿下の側近であった我々と、金でマリーダの関心を買おうとする奴らは、根本的に相容れない存在だ。 殿下不在の今こそ襟を正すべきであろう。
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僕は今回、エンリケを伴いヘロウ公爵領を訪れている。 諸々相談したかったからだ。
「ブルース君、遠路遥々よくきてくれた。 どうだね? 南部は」
「はい。 本当に豊かな土地で関心するばかりです」
ヘロウ公爵領は辺土から見て王都の裏側、バドッグ王国南部に位置する。 王都から2日の距離にありながら、牧歌的な風景が広がる豊かな土地だ。 その大穀倉地帯は王国の食料自給を支える重要な役割を担っている。
「はははっ そう思えるのも、君が領地経営に日々腐心している証拠だ」
「いえ、本当に勉強になります」
これは、きっと後ろに立つエンリケに聞かせているのだろう。 道中、彼は『へー』とか『ほー』とかもらす僕を不思議そうな目で見ていた。
「迷宮の件はご迷惑をお掛けしました」
「なんの、ハーベスト伯爵の件は事前に経緯を知っていたからね。 鉱山が迷宮化したと聞いた時点で手を打っておいた」
「流石です」
ハーベスト伯爵の動きを予想して外堀を埋めたそうだ。 探索に夢中だった僕とは視点が違う。
「それで、神銀が採れるとなったら、彼方此方から問い合わせが殺到しまして」
「だろうね。 レビゾン連邦のアウクブル神銀窟も採掘量が減ってきていると聞く。 彼の国も関心を持つだろうね」
魔導先進国のレビゾンはその材料となる神銀の需要が多い。 今度、ダイアナとも相談しよう。
「はい。 今後は、多くの人がシルベスタを訪れることになると思います。 そこで、彼らを受け入れる街を建設するにあたって、ヘロウ公爵家のお力を借りたく伺った次第です」
「資金や人材は頼まなくても集まるのでは?」
確かに、出資やら協賛やらの申し出が山のように来ている。
「私には人材を見極める才覚はありません。 かと言って神銀に感けて役目を疎かにする訳にもいかない」
「飽くまで、自分は武人であると言うのだな」
人に任せるのはいい。 中抜きも多少は目を瞑ろう。 しかし、厄介な人物に領内を荒らされたり、領民を不当に扱われては堪らない。
「それもありますが、我が領には他人種の民も多く居ります。 いたずらに、外部の人間を招き入れたくないのです」
「土人・・いや、失礼。 ヌゥイの民だったかな」
「はい。 彼らと我々は文化や生活様式がまるで違います。 それを理解しない者は、たとえ悪意が無くとも軋轢を呼ぶでしょう」
土人に奴隷労働をさせよう・・なんて輩も現れかねない。
「君の懸念は理解した。 しかし、申し訳ないが当家の人材でも文化的な理解に関しては・・保証しかねるな」
「そこで、彼です」
「いや、気持ちはありがたいが、重要な事業でそういった差配は感心しない」
カストルの誠実さに改めて感心する。 無理に息子を推さない姿勢も。
「是非、エンリケ殿に迷宮都市シルベストりの代官を任せたいと考えております」




