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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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のっぺら小鬼の部屋

 突然、飛び込む光の洪水に頭を殴られたような衝撃を受ける。 後に解るが、それは特段強い光という訳でもない。 ごくありふれた屋内照明の光だった。 長時間、完全な闇に居たことで、明順応が遅れたのだ。 


 続いて頭上から巨大な岩石が振ってくる。 僕は魔剣士の姉妹を懐に抱え、四つ這いに踏ん張った。 程なく襲うであろう背中の衝撃に備える。 ゴン ガゴン ガゴゴン あれ? 重たい音はすれど、痛みは感じない。 最初の一撃で即死したのかな?


「いやぁ!!! 死にたくない」

「生還は・・絶望的」

 違うようだ。 胸にしがみ付く姉妹の温もりと、耳に届く悲痛な声。 僕らはまだ生きてる。 ガラン ゴロロ カラン そして、暫しの静寂。


『ふしゅぅ』

 頭上で漏れる重たい吐息。


『ぶぉ~ふぉっふぉっふぉっ』

「どわぁ」

 続いて『岩の人』の高笑いが超至近距離から耳を襲った。 こ・・鼓膜が破れる。


 見上げれば、暴かれた空間から漏れた光に『岩の人』が照らし出されている。 彼(?)は僕らを護るように覆いか被さっていたのだ。


「助かったみたいだね」

「・・うん」

「耳が痛い」

 明るさに慣れて周囲の状況が見えてくる。 辺りに積み上がる岩塊。 伏せた体勢で、笑い続ける『岩の人』 そして、崩れた先には白壁の人工的な空間。


「迷宮の隠し部屋にしては小奇麗だな」

「誰か住んでるのかしら?」

「あーあーあー まだ少し変」

 誰かの住いにしては無機質に過ぎる。 例えるなら実験室か。


 ギー ギ― ギ―


 正体不明の部屋から魔物の鳴き声が響いた。 やはり人の住処ではない。


「迷宮マスターの部屋じゃないかしら?」

「だが、ここは4層だ。 そういう物は最下層に造るものでは?」

「特にルールは無い筈」

 何れにせよ素通りは出来ない。


「中を調べるぞ」

「「うん」」


 +++++


 やっと地響きが収まった。 彼方此方に生える『岩の人』が遂に動き出したのだろうか?


「大丈夫かい? エイドリアン」

「ええ、心配なさそうね」

 私が聖法魔力を注ぎ続けた効果だろうか? ドラゴは何時の間にか元気になった。


「俺はね。 気付いたんだ」

「どうかしたの?」

「俺が本当に愛していたのはエイドリアン・・君だということに」

「ちょっとドラゴったら」

 ギルド受付のクレアに何度もフラれ、近頃は魔剣士の姉妹を物欲しげに見てたじゃない・・それに。


「私にはアポロが」

「奴は君を置いて逃げた」

「違う」

 そんな筈はない。


「でも、君はここに残った。 俺の隣に」

「そんな、言いかた」

 ずるい。


「エイドリア~ン」

「きゃぁぁぁ!!!!!!」


 +++++


 何を作っていたかは、だいたい想像がつく。


「のっぺら小鬼ゴブリンの雌ばかり」

「耳の形を整えて、あ・・犬歯も抜かれてる?」

 ピーカラン山脈の更に北にある大陸国家群では、メクラ小鬼ゴブリンに客を取らせる娼館があるらしい。 しかも、人間の娼婦だと偽って。


「うわっ 突然顔が変わった・・ライラ?」

「檻の中にアイカが居る」

 仲のいい姉妹だな。


「気を付けろ。 そいつら闇魔法を使って相手の『理想の女』に擬態するんだ」

「ええっ? わわっ・・のっぺら小鬼ゴブリンに戻った」

「キモ」

 僕もライラに同意だ。 薄い本に登場する小鬼ゴブリンと違って、奴らの欲求に繁殖はない。 あるのは人間への悪意のみ。 人間を騙し弄ぶために奴らは擬態する。


 この部屋の主は娼館の関係者だろうか? そもそも、どうやって出入りしていたのだろう?


「ねぇねぇ これって転移魔法陣じゃない?」

「しかも、生贄とか使うヤバいやつ」

 答え合わせは早かった。 闇の魔剣使いだけあって、ライラはその辺の知識に詳しいな。


「その生贄って魔物でもいいのか?」

「無理。 この転移陣の場合、生贄に処女が13人必要」 

 うわー駄目なやつだ。


「もう、見るべき物はない。 徹底的に破壊しよう」

「それがいい。 陣を壊せば、術者はもう戻ってこれない」


 +++++


 愛するヴェロニカには悪いけど、ミサピヨは控えめに言って最高だ。 ヴェロニカが俺のために召喚した遊び女が、まさかのミサピヨ。 これは運命に違いない。


「ミサ、今夜も可愛がってやるぞ」

「ワーイ アキラサマ ステキヨ」

 俺と違って、女神の加護を受けてない彼女は記憶を失っている。 


「週刊誌にスクープされなければ、俺達は今も恋人だった」

「ワーイ アキラサマ ウレシイ」

 それは、寧ろ好都合だ。 ミサは俺と嘗て恋人関係だったと信じている。


「悪いな。 今の俺にはヴェロニカという婚約者が居るんだ」

「ワーイ アキラサマ カンジル」

 それにしても、水着の下がこんなにもグロテスクだったとは、ネットのエロ画像とはずいぶん違う。 ふっ リア充だからこその悩みだ。


「アキラ様、明日は朝が早うございます。 今宵はそこまでに」

「ヴェロニカ。 嫉妬か?」

「私の気持ちをご存知なくせに。 アキラ様は意地悪です」

 可愛い女だ。


「確かに明日は帝国復興の機運を高める大事な式典だ。 ミサ、今夜はもう下がりなさい」

「ワーイ アキラサマ イクイク」

「ご理解いただき感謝いたします」

「なあに、俺は義兄上と違って、他所の女に目移りする愚か者じゃない。 俺はヴェロニカ・・おまえ一筋だ」

「まあ、嬉しい。 でも、お兄様にも困ったものです。 これでは、何時()()()()()()があってもおかしくありません」

「で、あるな」

 レグルス、今はこの世の春を謳歌するがいい。 帝位は俺がもらってやる。 


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