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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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兄と呼ばれて

 不在中の我が家は、波乱含みだったようだ。 話がとっ散らかるので、面識あるジャネットにテラを任せて、ベアトリスとマァリに話を聞くことにした。


「八面六臂のご活躍。 誠にお疲れ様でございます」

「おかえり、ブルース」

「うん。 まあ、お互い様ってことで」

 辺土伯夫人として口上を垂れるベアトリス、いつも通りに軽薄なマァリ、床に土下座する知らない人。


「なんで、彼は土下座してるのかな?」

「ははっ」

「ほほっ これには事情がありまして」

 ベアトリスと同じキラキラした金髪の青年。 顔は見えてないけど、彼がベアトリスの異母弟エンリケで間違いないだろう。


「取り敢えず頭を上げてくれる」

「はっ」

 いい返事をしたた青年は、いわゆる『美麗な令息』だった。 細身で中性的、ガイアよかよっぽどエルフの青年っぽい。 ん?・・瞳の色が、気のせいか。


「諸々話はあるけど、先ずは彼の話を聞こうか。 ベアトリス、彼は君の」

「はい。 異母弟のエンリケでございます」

 ふむ、ここまではいい。


「そうか・・私はマスタング辺土伯家が当主ブルースだ。 君の異母姉ベアトリスを愛する夫でもある」

「はっ 過分なご挨拶傷み入ります。 私の名はエンリケ。 己の不徳故にヘロウ公爵家から廃嫡された、一介の自由民でございます」

 聞いてた印象とずいぶん違うと思いきや。 何ですか? この神妙かつ誠実な好青年は。 ベアトリスに助けを求めても『私も何がどうしたのやら』と苦笑いを浮かべるばかりだ。


「それで、君はなぜ僕に頭を垂れる」

「はっ では、畏れながら」

 廃嫡されても相手は元ヘロウ公爵家の人間だ。 話は慎重に進めよう。


「兄上と呼ばせて頂きたい!」

「は?」

「はぁ」

 廃嫡されてもベアトリスの異母弟である事実は変わらない。 つまり、僕の義弟で問題ないのでは? ベアトリスも溜息吐いてないで何とか言って。


「えっと・・どうぞ。 で、問題ないよね?」

 自分の結論に自信が持てなくて、思わず聞き返してしまう。


「しょうがないわね、私が説明するわ」

「おお、マァリ頼む」

 お手上げだ。


「弟君は、ヌゥイ族でいう所の兄弟になりたいって頼んでるのよ」

「えっ? じゃあ、その瞳も勘違いじゃなくて」

「ああ、気付いた? そう、『魂与』を受けてるのよ。 弟君」

 初めて目を合せた瞬間、エンリケの青い瞳にヌゥイ族の忌色が混じっているように見えた。


「ことの経緯を聞かせてもらおう」

「ひゅ」

 ことと次第によっては、赦せる話ではない。 思わず漏れた怒気にヘロウ姉弟ともが硬直した。 


「怒るような話じゃないわよ」 ゴンッ

 マァリの拳骨で頭を冷やし、彼が辺土に来た経緯から順を追って説明を受けた。


 *****


 エンリケは恥じ入り口籠りながら、とうとうと経緯を語った。 当初の利己的で傲慢な振舞い、自業自得な末路、そして差伸べられた救い、己を顧みた後悔と懺悔は聞いてて辛かった。


「改めて聞くと、最後の行がなければ、ぶん殴ってるわ」

「ごめんなさいね」

「おいおい、マァリも茶化すな」

 割と同意するけど。 ベアトリスが怒ってないのに、僕らが怒るのは違う気がする。


「取り敢えず。 リィアにはお説教だな」

「そうね。 いくら人助けとはいえ、自己犠牲が過ぎるわ」

 認識は改めさせる必要がある。 十代にとっての40歳って結構先に感じるだろうが、過ぎればあっという間だ。 哀しいけど。 


「それで、エンリケ。 君は過去と現在の考え方・・というか価値観の基のような物が、そっくり入れ替わってるように感じる。 気付いてる?」

「はい。 それが、私にもよく解らなくて」

 僕の目には、彼が本当に戸惑っているように見える。


「1ヵ月前と現在を比較すれば仰る通りです。 ですが、学院に入学する前のエンリケは、元々こういう子でしたわ」

「つまり、1ヵ月前までの彼の方が寧ろ違和感があったと?」

「いまになれば、そう感じます」

 ベアトリスの話からすると、突然、洗脳が解けた状態とも考えられる。 とはいえ、結論は出ない。


「取り敢えず、今の彼が観た通りの青年だという前提で話そうか。 エンリケ君はリィアから寿命をもらった責任を取って、彼女と添い遂げたい。 それで合ってる?」

「はい。 ですが、理由は責任感だけではないです!」

 彼は大丈夫そうな気がする。


「なら良かった。 では、ヌゥイ族長ブルースとして決定を伝える」

「はい」

「リィア本人の了解が得られたら『嫁与』を認める」

「ありがとうございます!」

 となれば、あとは若い2人が決めることだ。


「あと、ベアトリス。 彼にウチで働いてもらいたい。 2人で適性や希望について相談してくれ」

「承知しました」

「あ・・義兄上」

 ベアトリスも嬉しそうだし、これでいいだろう。 あとは、ヘロウ公爵にも断って・・あ。


「普通にプロポーズしても多分フラられるぞ」

「リィアは面食いだからね」

「実は既に一度、断られておりまして」

 ヌゥイ族的には、エンリケってかなり不細工だもんな。


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