プラチナ・チェリー
時刻は午後21時。
寝具に腰掛けるソレを前に僕は息を呑んだ。 キラキラと光を乱反射するプラチナ・ブロンド、新雪に朱を注した白い肌、深く吸い込まれる紺碧の瞳。
「童貞でもあるまいし、なに固まってるのよ」
「はっ!」
いかん、呼吸するのを忘れてた。
マァリの言う通り、僕はそこそこ経験してきた自負がある。 今世の嫁マァリはもちろん、前世でも中二の夏から39歳で亡くなるまで、プロアマ問わずそれなりに対戦してきた。
しかし、気付いたのだ。
僕は黒船童貞であると!
思えば、ヌゥイ族は瞳の色こそ個性的だが、面立ちは日本人のそれに近い、ぽっちゃり体形が多い彼らだが、スレンダーで軽薄なマァリに限れば、カラコンを付けた女子高生に見えなくもない。
だからか、マァリには躊躇なく手が出せた。
「貴方、凄く失礼なこと考えてたでしょう?」
「とんでもございません」
「ちょっと、新妻を差し置いてじゃれないで下さる?」
いかん、現実逃避している場合ではない。
「私は旦那様の好みではないかもしれませんが」
「そんなことありません!」
寧ろ、好みを超越した何かに委縮しているだけです。
「これは政略の為にも必要な手順ですわ」
「・・なるほど」
ふぉっ 体勢を変えたベアトリスのベアトリスがポヨンと揺れた。
「関係を前進させてしまえば、貴族院も介入する事が出来なくなる」
「・・そうだね」
何だか良い匂いがする。
「ふふっ 私を切捨てた者達を後悔させてあげますわ」
「・・楽しみだよ」
その妖艶な仕草は誘っているのか? 誘ってますよね!
「緊張してるの? 私は妃教育で房中術も学んでますのよ」
「うっ」
「う?」
もう辛抱たまらん。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」
*****
朝・・かな?
「もう昼よ」
「おはよう、マァリ」
え~と・・裸だな。 昨夜はマァリとしたんだっけ? 記憶が曖昧だ。
「顔を洗ったらベアトリスに謝るのよ」
「ベアトリス?」
あ!・・ああ!! 思い出したぁ!!!
記憶を辿ると、めくるめく情事がフラッシュバックする。 恐る恐るシーツを捲れば寝具の中央に彼女が散らした大輪の花が咲いていた。
「私の時も注意したでしょ? 初めては凄く痛いのよ」
「面目ない」
聞くところによると、止めようと羽交い絞めにするマァリを振り払って、朝までハッスルしていたらしい。
魔獣か?
思えば妊娠中のマァリとは、ずいぶんご無沙汰で、戦場帰りの衝動も我慢してきた。 反動が出てしまったのかもしれない。
「ところでベアトリスは何処に?」
「執務室よ。 ガーガー寝ている貴方に代わって、事務処理をしてくれてるわ」
はぁ、何てこった。
とにかく謝りに行こう。
*****
「まだ、中に何か入ってる気がするわ」
「本日はご無理をなさいませんように」
旦那様が手配してくれた専属侍女エリナ、彼女はマスタング辺土伯家に仕える騎士家の娘らしい。 彼女が淹れてくれたハーブティーが筋肉痛の身体によく染みる。
「ふふっ 最初は面食らったけど、案外、可愛い方よね」
「不敬かもしれませんが、同意致しますわ」
乱暴なようで、扱いは意外に丁寧だった。 房中術の一つ、局所回復魔法を用いれば痛みに煩わされる事もない。 お陰で案外楽しめた。
「公爵家で飼ってた大型犬のラッシーにそっくりだわ」
「まあ、言い得て妙ですわね」
政略とはいえ、夫婦仲は良いに越したことは無い。 私を顧みなかったウィリアム殿下より、よっぽどいい。 顔以外は。
さて、次はこの件を旦那様に了承頂かなければ。
マスタング辺土伯家の臣下は、文武問わず忠誠心に厚い者が多い。 主のブルースも賢明な領主だ。 一見、良好に見える両者の関係は、次第に『何でも出来る主』と『指示を待つ臣下』という歪な関係に変化してしまった。 なまじ大きな不満が無いだけに、当事者はこの変化に気付きにくいのだ。
いま必要なのは人材の確保と組織の大改革。
彼女達が擦り潰される前に『最果ての修道院』から救い出さねば。
バタンッ
「申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!!」
私の可愛いラッシーが、ダイビング土下座で飛び込んできた。 彼ならきっと、私のお友達も丁重に扱ってくれるわね。