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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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アップル姫を救え

 セレスティアの運命が決まる御前審問の予定が10日後に決まった。 セレスティアに会って話したかったが謹慎中とのことで適わず。 やれることが無い。 ジルベルトは各方面と会合を重ねて成果を出してる。 こういう時、伝手も交渉カードもない僕は無力だ。


「焦っても仕方ない。 少し観光でもしてきたらいい」

「観光・・ねぇ」

 ジャネットの買い物には半日付き合ってギブアップした。 


「今夜あたり2人で飲みに行こうか? 私も街の雰囲気を味わいたい」

「いいですね。 じゃあ今夜」

「ああ、では会合に行ってくるよ」

 結局ジルベルトに気を遣わせてしまった。 若いのにあいつは偉いな。


 *****


 カラン

 ラフな平服に着替えて待ち合わせのパブに入った。 照明を落とした店内。 奥のステージで女性ボーカルがジャジーな曲を歌ってる。 いい感じの店だ。


「ピーカランをオンザロックで」

「・・・どうぞ」

 注文してカウンターに銀貨3枚を放る。 この世界のウィスキー発祥地はシンセス聖教国のピーカラン地方だ。 西の国境ピーカラン山脈の雪解け水を使用したピーカランウィスキーは元祖にして最高傑作であると好事家に言わしめる。


 約束の時間を1時間ほど過ぎた頃。


「あんたブルースさん?」

「ん? ああ、そうだが」

 ジルベルトからの伝言だ。


 まあ、向こうは仕事だし。 深夜のパトロールにでも繰り出しますか。


「お昇りさんかい? いい店を紹介するよ」

「ねぇお兄さん熟女に興味な~い?」

「その顔はドМだね? クラブ・キラークイーンはこの先左だ」 

 いつの間にか迷い込んだ歓楽街。 呼び込みの文句から察するにバドック王都より断然マニアックな店が多い。


 教会の教義とはなんぞや。


「さあ、エントリーを開始します! 本日イチ押しの聖女はアップル・シルク嬢だ!」

「みんなぁー! アップルの処女は誰のものかなぁー?」

 雑踏の奥から聞き覚えのある内容のアナウンス。


『パパドーラ・ファイトクラブ聖都本店』


 なんと元祖は聖都であったか! これはスルー不可避だ。 前回の教訓から姑息な値踏みは止めてエントリーを済ませる。 そう、これは聖戦だ。 セレスティアを蔑ろにしたシンセス国民に裁きの鉄槌を下すのだ。


 *****  


「はははははっ どうした! もう誰もかかってこないのか?」

「ひぇぇぇ!!!!!!」

 大人げなく無双してしまった。


「ムキムキ紳士の勝利です!」

 パチパチパチ

 純粋に観戦を楽しむ客が多いのもこの店の特徴だ。 拍手されると普通に嬉しい。 そして勝利者インタビューなんかもある。 


「その肉体と黒髪は北部の出身で?」

「あーパイキィ出身です」

 素性は隠した方がよかろう。 統括軍で知り合った黒髪の聖騎士がたしかパイキィ出身だった。


「どうりでお強いと思った。 聖都は初めてで?」

「はい。 3日ほど前から」

グイグイくるな。


「では、アップル嬢から祝福のキスを・・「ちゅっ」それでは最後に盛大な拍手をお願い致します!」 

「どーもどーも」

 ヒューヒュー パチパチパチ

 頬にキスしたアップルちゃんは意外に緊張してた。 


 *****


 王都のパパドーラの裏には提携のホテルがあった・・ここでも同じシステムか。


「じゃあ行こうか」

「うっ・・うん」

 ラブホに入る時の気まずい空気がけっこう好きだったりする。 


「「はぁー」」

 そして寝具に腰掛け一息つくのが作法だ。


「先にシャワー浴びてきて」

「駄目だ」

「なんでよ? 行為の前のシャワー拒否は免責扱いよ」

「そうじゃない。 相手がシャワーを浴びてる隙に財布を盗まれたらどうする?」

「私は盗みなんかしないわ」

「信じる根拠がない。 お互いにな。 解決策は一つだ」

「一緒に入ると言いたいの?」

 処女だと主張するだけあって、この嬢はけっこう世間知らずだ。


 *****


「もう痛みはないか?」

「おかげ様でね。 房中術は上手く効いたし割と気持ち良かったわ」

「ならいい」

 一回戦目が終了してのピロートーク。 アップルちゃんは本当に処女で房中術の心得もあった。 おそらく貴族の娘で間違いない。


「ねぇ 私が何故こんなことをしたか聞かないの?」

「興味ない」

 だいたい想像がつく。


「こう見えて私は名家のお嬢様でね」

「ほうほう」

 まあ勝手に話すわけだが。


「頑張ってきたことが実を結んで、もうすぐ結婚するの」

「その相手に申し訳ないね」

 攫ってくれとか言うんじゃないだろうな。


「いいのいいの。 童貞男は演技に気付かないって母上が言ってたわ」

「なら問題ないか」

 不憫なお父さんだ。


「それで、その相手が粘着質でキモい男でね。 いざ結婚が決まったら気分が滅入って・・じゃあ処女を捨てちゃえー!って投げ売りしちゃったの」

「大冒険をしたんだね」

「えへへ。 そうかな?」

 悪いが驚きはない。 蓋を開けてみれば典型的な令嬢の火遊びだ。 


「男を知ったらますます嫌になってきたわ。 はぁーでも義姉様から婚約者を奪っといて、いまさら嫌とも言えないわ」

「はっ?」

 さらっと爆弾発言が出た!


「睡眠薬でも仕込んで『昨晩は素敵でした』とかで誤魔化せないかしら?」

「無理だと思うよー」

 あーこれ関わったら不味いやつだ。


「お願い! 協力して!」

「断る」

 夜遊びは一期一会が鉄則なのだ。


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