変態と公爵令嬢
「遠路遥々よくお越しくださいました」
ふっふっふっ・・僕はここ数年来、最高に浮き足立っている。
「どーぞどーぞ! お掛けになって・・オッホン! あーマァリ君、お茶を出してくれたまえ」
「貴方さっきからどうしたの? 気持ち悪いわよ」
貴族院の使者から遅れること1週間、僕の花嫁が我が家にやってきたのだ。
「改めまして、ヘロウ公爵家が息女ベアトリスと申します」
「これはご丁寧にブルース・マスタングです。 いやーそれにしてもお美しい」
「ありがとうございます」
胸でかっ! 顔ちっさ! 腰ほそっ!
こんな綺麗な娘、本当に学園に居たっけ? あのハリウッド女優を、更にブラッシュアップした風の超絶美人さんだ。 こんな娘にムフフなことをしても、本当にいいのだろうか? いいですよね! だって夫婦だもの。
ワクワクが止まらない。
「何故、僕と結婚する運びになったのか、ご存知ですか?」
「実は・・。」
*****
ベアトリスが語った顛末は、何とも胸糞悪い話だった。 欠席した卒業パーティーで、そんな騒ぎが起こっていたとは。 すっかり興が削がれてしまった。
ところで。
「どうして、僕との結婚が罪人の罰になるのだろうか?」
大事なことだ。
「へ? あ・・え~と辺土は遠いから?」
「ほほう」
「魔獣が多くて危ないとも聞きますし」
「それで?」
「いや・・あ、あの」
「いい加減にしなさい。 彼女、困ってるでしょ」
痛ったぁ~マァリがグーで殴った。
「若い娘からしたら、変態貴族と結婚なんて罰でしかないでしょ」
「えーマァリがそれを言う? 酷くない?」
そもそも、マァリにも原因の一端はあるのだ。
「見ての通り、悪い男じゃないから安心して」
「はぁ あの・・ところで貴女は?」
「ごめん、自己紹介が遅れたわね。 私はブルースの83番目の嫁マァリよ」
「はっ・・はちじゅう?」
おかしいな。
「マァリは84番じゃなかったか?」
「ああ、ブルースが遠征に行ってる間に、1番のキィヌ婆さんが亡くなったのよ」
「ばっ・・婆さん?」
キィヌ大婆様も天に召したか。 大往生だな。
「そう言えば、ベアトリスは100番目になるのよ」
「へぇーキリがいいね。 じゃあ、先月生まれたミィカは98番になったのか」
「先月生まれた? 幼児・・いや、乳児も?」
ミィカは僕とマァリの娘で、前世から通しても初めての子供だ。
さて、話がそれた。
「で、今後のことだけど」
「ひぃぃぃ!!! 近寄らないで変態!」
あれ?
*****
あれから1ヵ月、ベアトリスとは一度も顔を合わせていない。
迂闊だった。 確かに、ヌゥイ族の家族制度を知らずにあの会話を聞いたら、僕は赤子から年寄りまで手籠めにする変態だと、誤解されてもおかしくない。 そもそも『好色卿』の元ネタは、僕がヌゥイ族の長になった経緯を曲解して、面白おかしく広められた結果なのだ。
「私が説明しておいたから、もう大丈夫よ」
「うん、何となく気まずくてね」
学院での3年間、令嬢に話しかける度に、先日のベアトリスのような反応をされてきた。
「突き放したら可哀そうじゃない」
「そうかな? 彼女は冤罪でウチに流されてきたんだ。 下手に関わらない方が、彼女も王都へ戻り易いんじゃないかな」
未だ指一本触れて無いのだから。
「普段はスケベで大胆なくせに、令嬢相手だと妙に卑屈になるわね」
「余計なお世話だ」
3年間フラれ続ければ卑屈にもなる。 まして、あんな美人が相手では尚更。
「旦那様!」
バンッ と扉が開いて、突然ベアトリスが執務室に入ってきた。 久しぶりに見る彼女は相変わらず美しい。
「何でしょうか?」
美人に睨まれると、思わず敬語になってしまう。
「今後について、お話があります」
「はい、どうぞお座り下さい」
とうとう、三下り半を突きつけられる時がきたか。
「私なりに、マスタング領について調べさせていただきました。 交易、産業については差配が不味いですね。 発展の可能性を活かせてない」
「はい。 面目次第もございません」
言訳だけど、辺土統括軍と王立貴族学院の両立って大変なのだ。
「他方、『奈落』の脅威というものを、私は全く理解しておりませんでした」
「王都では、話題にも上りませんから。 無理もありません」
近頃は危機意識が薄れて、辺土統括軍の予算縮小を声高に叫ぶ貴族もいる。 寧ろ足りないくらいなのに。
「旦那様が、この国に多大な貢献されてきた事に深く感謝して、これまでの不見識を、お詫びしたいと思います」
「いえそんな恐縮です」
「加えて、ヌゥイ族に関しては、穏当に融和政策を成功させた。 これは奇跡の所業です」
「よく解ってるじゃない」
凄い褒められてる。 ちょっと感動しちゃった。
「交易と産業については、私に腹案があります。 皆で盛り立てて、マスタング辺土伯家を、王国で最も偉大な貴族に押し上げましょう!」
「おー!」 パチパチパチ
何か知らんが、盛り上がってきた。
「つきましては、早く私との初夜を済ませてくださいまし」
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