『ざまぁ』された公爵令嬢
ここは王立貴族学院の卒業パーティー会場。
「ベアトリス・ヘロウ公爵令嬢、貴様の罪を告発する」
壇上に上がった婚約者ウィリアム・バドック王太子は、あの女・・マリーダ・ソノス男爵令嬢を伴って私の断罪を宣言した。
そして始まる、告発とは名ばかりの吊るし上げ。
私の発言は『嘘を付くな』と遮られ、証拠は『マリーダが言ってる』の一点張り。 私を擁護する友人ジャネットとマリアンヌも、あの女を信奉する者達によって会場から追い出されてしまった。
「マリーダに謝れ!」
入学以降、距離を取っていたエンリケが異母姉の私を罵る。 色恋に狂った異母弟の変わりようが悲しい。
「さっさと跪け!」
次期近衛騎士団長の呼び声高いベレン・マードック侯爵令息が強引に私を抑えつける。 男性の腕力を前に、成す統べ無く膝を付かされた。
恐い。 この空間は私への憎悪に満ちている。
「心底がっかりだよ。 罪を認めて素直に謝罪するなら、恩情を与えても良いと優しいマリーダは言ってくれていたのに」
「意地を張らないでベアトリス様! 私は貴女とも仲良くしたかったのに・・うぅ」
「マリーダは優しいな」
「嫉妬に狂ったこの女に何を言っても無駄なようだ」
良い子ちゃん×被害者ムーブ+涙。 そして、三文芝居に踊らされる男達。
「貴様との婚約は破棄する! この女を牢へ放り込んでおけ」
駄目押しに婚約破棄を言い渡された私は、待機していた近衛騎士にパーティー会場から引き摺り出された。
画して『下級貴族の庶子に意地悪をした罪』で、私は王城北の貴賓牢に幽閉されたのだった。
*****
翌日、私が幽閉された貴賓牢に、意外な人物が訪れた。
「ごきげんようベアトリス様ぁ。 臭い飯の味はいかが?」
私を陥れた毒婦マリーダだ。
「仰ってる意味が解りませんわ」
「あ~こっちじゃそういう言い回しは無いのかぁ、まあいいや」
この女は時々よく解らない事を口走る。
「昨日、ウィリアム様にプロポーズされたわ、他の攻略対象者からもよ! これで逆ハーエンド達成ね」
「そう」
益々、意味が解らない。 もう相手にするだけ無駄だわ。
「でね、逆ハー達成の特典で、悪役令嬢の『ざまぁ』メニューが選べるのよ。 『斬首刑』とかスプラッターなやつは勘弁だし、『最果ての修道院送り』とか『国外追放』もつまらないじゃない?」
「・・・。」
「という訳で『好色卿の嫁』に決定しましたぁ! イエーイ!」
マリーダの言う『好色卿』とは、あのマスタング辺土伯の事だろう。 大勢の土人を性奴隷にして、淫蕩に耽る変態だと聞く。
「好色卿ってぇ 生意気な女を兵士に輪姦させて調教するらしいよ。 気の強いベアトリス様は大丈夫かしらぁ? ぷーくすくす・・ねぇ 今どんな気持ち?」
「貴女はそんな事をして何が楽しいの?」
何故これ程までにマリーダは私を責めるのだろう?
「悪役令嬢がぁ『ざまぁ』されてこその乙女ゲームよぉ。 アンタが不幸にならないとぉ、私のハッピーエンドが際立たないじゃない」
「つまり私は引き立て役だと言いたいの?」
「そう! さっすが悪役令嬢、わかってるじゃない」
ああ・・この女にとって私は遊戯の駒でしかなかったのだ。 いや、もしかするとウィリアム殿下や他の令息、更にはその婚約者に至るまで、王立貴族学院という遊戯の盤面を踊る駒だったのかもしれない。
「そうそう、取り巻き女は『最果ての修道院送り』にしてやったわ。 良かったわね、誰も死ななくて」
ジャネットとマリアンヌも被害に遭ったのね。
ウィリアム殿下の理性に期待せず、もっと上手く立ち回っていれば、このような事態は避けられたかもしれない。
「じゃっ そういう事で、お疲れ~」
マリーダは項垂れる私の顔を覗き込んだ後、満足したのか踵を返して出て行った。
*****
3日後。
私を乗せた王家の馬車は、人目を忍ぶように早朝の王都を出立した。 目指すは辺土魔境の畔、マスタング辺土伯領だ。
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