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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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聖法結界

「上から何か降ってきます!」

「性懲りもなくまた壁蜥蜴ゲッコーの襲撃か?」

 大百足センチの身体に寄生した魔蛭リーチを潰し終わったところに再び魔獣接近の急報が。


 岩壁を見上げると4つ足を拡げてダイブする姿が・・ん? あのシルエットは壁蜥蜴ゲッコーじゃない。


「魔導士隊は下がれ! 重騎士は盾構え・・密集形態だ」

 指示を飛ばして対大型魔獣戦用の布陣を執る。 コイツはガラこそ小さいが、その強さは大百足センチの比じゃない。 『奈落』の瘴気を嫌う奴らが何故ここへ?


 ブワッ


 音もなく駅舎の屋上に着地したのは竜だった。


「おい聞け。 我々が奴を森へ誘い込む。 その隙に、おまえ達はダイアナを上へ逃がせ」

「それでは閣下が・・・っ 承知」

 魔剣士に耳打ちして尻を蹴り上げる。 


 必要な選択は終わった。 


「おまえらの命をくれ!」

「最後までお供します!」

 あとは自分と仲間の死を意味あるものにするだけだ。


 と、思いきや地竜の背からピョコっと顔を出した見覚えある少女。


「ブルース様、ダイアナ様、お待たせしました」

「「・・ティア?」」

 漢達の挽歌は序盤のイントロで演奏中止となった。


「周辺に魔獣は?」

「ちょうど片付けた所だ。 やってくれ」

 肩を落とす前にやるべきことを済ませておこう。


「聖法結界・・展開します」

 ドーム型の半透明の膜が膨張しながら辺りに拡がっていく。 空気が清浄になって息が楽になった。 セレスティアが展開する聖法結界の内側は如何なる魔獣も不可侵の聖域となる。 


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 死の覚悟から急転直下に救済された男達が雄叫びを上げる。


「あらやだ、本当に野蛮な騎士がいるわ」

 もう一人誰かいる。


 ともあれ。


「悪いティア、色々聞きたいが話は後だ。 少し寝る」

「はい。 後はお任せ下さい」

 徹夜続きでもう無理。 瘴気酔いも限界だ。 心地良いセレスティアの声を枕に眠りに落ちた。


 *****


 目が覚めると、そこは陣幕の中で士官用の簡易寝具の上だった。


「お早いお目覚めですわね」

「おはようティア」

 寝具の横には水桶、ティアの手には濡れ手拭が握られている。


「君が面倒を見てくれたのか?」

「はい。 瘴気を浄化しても暫くは予断を許しませんから」

『奈落』の底に長時間滞在すると、瘴気に中たり発熱や吐気といった症状をきたす。 体質によっては亡くなることもある。


「ダイアナは?」

「精霊魔法の使い手であるダイアナ様は瘴気に耐性があります。 ただ、お疲れのようで寝てますわ」

「・・そうだったな」

 意識しないと、不在だったセレスティアを咎めてしまいそうになる。 彼女に責任はない。 いや寧ろ。


「ティアは一人で、その・・大丈夫なのか?」

 最後に受けた報告でも勇者一行は未だ国境を越えてなかった。 明らかに彼女の独断専行だ。


「やっぱりブルース様はお優しい。 普通の方なら何故だと咎める筈です」

「・・君自身に落ち度はない」

 やめてくれ。


「本当に申し訳あり・・・。」

「謝らなくていいと言ってる」 

 ダイアナとも話した。 責任の所在を明らかにすればいい。


「・・でも。 ラダックさんも! イーライさんも! サイラスさんも! あとデレクさんも! みんな私が居なかった所為で亡くなったんですよ」

「ティアは名前を憶えていて偉いな」

「うっうっ・・うぇ―――ん!!!」

 そもそも、こんな小さな少女に頼る我々大人が悪い。


 *****


 緊張の糸が切れたティアは泣き疲れて寝てしまった。 聞けば国境の街から地竜に乗って2日間 駆けどうしだったらしい。 地竜の体力も半端ない。


 僕が寝ていた5時間ほどの間に物資と人員が降ろされ本陣の設営は完了した。 ドーム球場ほどある聖法結界の内側には整然と天幕や防護柵が並ぶ。 降下した部隊は約1000名。 普段はここにシンセス聖教国の神官50名と聖騎士100名が加わる。 治療と回復を担う神官の不在は痛手であるが、戦力としては誤差の範囲だ。 レビゾンとバドックも衛生兵と回復術師を従軍させている。 とどのつまり聖女セレスティアが居ればシンセスの参加などあまり意味がない。 


 参謀本部の天幕を潜った僕は席にドカッと座る。 偉い僕は偉そうに参謀部付き佐官に問質した。 至急確認すべき件がある。


「聖女に同行してきたエルフは何処だ?」

 可愛いらしいじゃないか!


「それが、もう帰ってしまいまして」

「何だと!」

 怒りのあまりドンッと机を叩く。 えー会ってみたかった。 ブーブーブー 健全な日本人はエルフが大好きなんだ。


「お休み中の閣下とダイアナ殿下を見舞ったあと『満足したわ』と残してそのまま」

「なんだそりゃ? だいたい、おまえさー指揮官の寝室に身元不明な人を通すってどうなの? 危機感薄弱? 職務怠慢? 不敬罪? 軍法会議?」

 はっはっはっ 悔しいので当たり散らしてやろう。


「私に言われましても・・・。」

「誠意ある謝罪が欲しい」キリッ

「何をふざけている? 狭量な指揮官に兵は付いてこんぞ」

 ダイアナも副官のデッケンを連れて天幕に入ってきた。


「貴殿が寝ている間にも魔獣は集まりつつある。 作戦会議を開くぞ」

 あーコノヤロ! 自分は起きてましたと言わんばかりだ。 祝勝会の席で尻ぺんぺんしてやる。


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