開拓開始
さあ、開拓だ! 『奈落』深部探索から半年、瘴気の空間濃度は著しく下がり、人体に影響ないレベルまで落ちた。 開拓初日となる今日は、南部草原地帯に開拓村の用地を確保する。
開拓村の建設の手順は、先ず第一に、付近の魔獣を掃討して安全を確保する。
「戦士一人につき重騎士10人でチームを組んで頂きます」
「心得た! 皆、抜かるなよ」
「おぅ」
この仕事は、パパ・エルフを筆頭に筋肉エルフ30人(暑苦しい)が魔獣掃討の先頭に立つ。
続いて第二に、エルフの精霊魔法で土地に浄化を施す。
「えっと、[01:01]から[09:10]まで浄化を開始して下さい」
「オッケー♪ 手分けして始めるわよ」
「はーい」
この仕事は、ママ・エルフを筆頭に美女エルフ30人(年齢不詳)が土地の浄化を担当する。
そして、浄化された土地を残ったメンバーで整地する。 ファンタジー小説で登場する、土魔法的な不思議魔法や、ビックリ魔道具があれば便利なのだが、残念ながら21世紀の科学技術を超える魔法技術は、僕の知る限り存在しない。
「よーし、木の根と岩を取り除くぞ」
「へーい」
地道な人海戦術あるのみだ。
*****
ところで、エルフ族の一団には、ダイアナの弟サピルス君も同行してきた。 セレスティアに振られて、一念発起した彼は、以前の軟弱さは影を潜めている。
「ブルース兄様、ご無沙汰マッスル」
「うん・・まっする」
ポージングしながら挨拶するサピルス君、身体の厚みが2倍・・いや4倍に成長(?)している。 僕と比べても、彼の方が胸板が厚い。 そして、真っ白だった肌は、こんがり焼けて黒光りしている。
「愛しのセレスティア、美しく進化した僕のマッスルボディを見ておくれ」
「無理、キモい、近寄らないで」
「バルク! 辛辣な君も素敵だ」
意味がよく解らない。 ダイアナはショックのあまり倒れてしまった。
「その有り余る筋肉で、土木工事を手伝ってもらおうか」
「ちっちっちっ 兄様はプロテインが足りてないようだ」
「そ・・そうかな?」
「バルク! 大切なのは適切な負荷と正しい姿勢、土木作業は美マッスルを崩してしまいます」
「へーそうなんだ」
役立たずな筋肉もあったもんだ。
「ならば、魔獣を狩りに行くぞ。 ティアにいい所を見せたいのだろう?」
「バルク! 運動は苦手です」
復活したダイアナの誘いも、ガッカリな理由で断られる。 確かに、筋肉が重すぎて動きにくそうだ。
「では、サピルス様は何をしにここへ?」
「それはマッスル! 君に求婚する為に決まってる」
「お断りします」
「バルク! 素直になれない乙女心・・う~んマッスル」
最早、コミュニケーションに障害が発生している。 あ・・また、ダイアナが倒れた。
*****
勇者アキラを見限った俺は、『揺り籠』の畔にある街、その領主の夫人の下を訪れた。 その領主がリリスを屠ったという噂もある。 俄かに挙がった要注意人物だ。
「アモン様と仰いましたか、主が不在の折に夫人を訪ねる行為、褒められた物ではありませんわ」
「不躾な真似をお許しください。 内密なお話があって伺った次第」
「それで、ご用向きは?」
「はい。 我が主が奥様の力になりたいと申しておりまして」
「不要です。 他に話がなければお引き取り下さい」
噂通りのお高い女だ。 こういう女ほど、プライドを揺さぶると簡単に転げ落ちる。
「お待ちください。 我が主は、マスタング卿のなさりようは目に余ると嘆いておられます」
「何の話ですか?」
「正室であるベアトリス様を蔑ろにして、他国の元王女と親しくされていると」
「それが何だというのです」
「正室の座を、没落した元王女に奪われても宜しいのですか?」
さあ、喰い付け。 プライドの高いおまえには耐えられない屈辱だろう?
「話になりませんね」
「は? 元王女に誑かされたマスタング卿が、帝位簒奪に加担するやもしれませんよ」
「だから、それが何だと、問うているのです」
「貴女や、貴女の息子が、その渦中に巻き込まれるやもしれません」
「構いませんわ」
俺様の毒がちっとも効かない。
「仮に帝位簒奪が成功したとして、邪魔になった貴女は消されてしまいますよ」
「シャーロット、お客様のお帰りです」
「お客人、お引き取り願おう」
「待て貴様! 後悔することになるぞ」
俺様を袖にするとは、この女はいったい。
+++++
ふぅ 如何にか追い返すことが出来ましたわ。 あれが、言霊という物なのでしょう。 未だに、頭がくらくらしますわ。
「シャーロット、あの男・・どう思いましたか?」
「はぁ 剣の心得は無さそうですね。 ただ、気味の悪い感じはしました」
「そうですわね」
彼女には、角が見えなかったようだ。
「領都の外へ出るまで、監視を付けて頂戴。 くれぐれも、刺激しないように」
「承知しました」
恐ろしかった。 手の震えが止まらない。
あれが古い伝承にある魔人という存在か。
面白かったら 評価・ブックマーク・感想などお願いします。
誤字の報告も助かります。
とても励みになります。




