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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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束の間の和解

 ゲーム画面が表示されなくなって、イベントりにあったラッキーアイテムは全て消えてしまった。 幸い、好感度がチャラになった訳ではなく、これまでの努力が無駄になる事態は避けられた。


「シュナイダー様って、強くてカッコイイですよね」

「はぁ それはどうも」

「あ・・あの、今夜お食事でも如何かしら?」

「いえ、仕事が溜まってますので、遠慮させて頂く」

 これまで、攻略対象者との会話は、画面に表示される選択肢を選ぶだけでよかった。 今更、何を話したらいいかなんて見当もつかない。 元々気の利いた会話が得意なタイプではないのだ。


 レグルスも唐突に寝室を訪れては、性欲だけ吐き捨てて立ち去る。 ほとんど会話はない。 もしかしなくても、これは完全に都合のいい女扱いだ。


 誰からも愛される可愛い私が、何故、こうも蔑ろにされるの?


「このままじゃ、好感度は知らぬ間にだだ下がり、バッドエンドまっしぐらよ」

「マリーダは男心を知らなすぎね」

「可愛い女が、適当に褒めてやれば尻尾を振るんじゃないの?」

「これは、重症だわ」

 近頃、話し相手といったらマダム・ボンボヤージュだけ。


「一度、バドッグ王国に帰ってみたら?」

「それは、駄目よ。 王都には魔人が潜伏してるんだから、戻った途端、眷属にされてしまうわ」

「ふ~ん。 そんな報告は聞かないけど」

「だから、人に化けて紛れてるんだって。 あと3カ月も経てば、王都は大パニックよ」

 結局、『支配者の石』の奪取も有耶無耶にされ、八方ふさがりだ。


 +++++


 ステータス画面が消えたあの日から、ヴェロニカは姿を消した。


「アキラサマ、カッコイイ」

「ステキ、ダイテ」

「カンジチャウ、イクイク」

 ミサピヨ達も様子がおかしい。 定型文を脈絡なく喋るばかり。 まるで、オウムのようだ。


「用が済んだらさっさと出て行けよ!」

「はっ・・はい」

 身の回りの世話をする者が居なくなって、仕方なく女官を出入りさせている。 俺の姿を恐れてビクビクしやがる。 何もかもがムカつく。


「おい、貴様」

「はい」

「服を脱げ」

「は?」

「さっさと脱げ。 勇者の手付きは名誉なことだろう?」

 俺様の超絶テクで虜にして、隷属させてやる。 暇つぶしだ。


「どうか・・無体はご勘弁ください」

「黙ってソファに腰掛けろ」

 そんな態度をとっていられるのも、今のうちだ。 直ぐに俺無しでは生きられない身体にしてやる。


「ほれ、足を開け!・・何だこれは!?」

「何・・と申されても」

 これは、何処をどう弄ればいいのだ? 俺の知ってる女の身体と全然違う。


「さては、魔物だな?」

「いい加減にして下さい!」


 パシーン


「ぶったな? 俺は勇者なのに」

「勇者を名乗るなら、卑怯な行いはお控え下さい」

 女官はそう言い残して出て行った。


「カンジチャウ、イクイク」


 *****


 数週間後、久しぶりに、あの女が俺の部屋を訪ねてきた。


『ねぇアキラ様、差し入れ持ってきましたよ』

「さっさと入れ」

『えっ? 嘘? 失礼しまーす』

 気まぐれに、俺はマリーダという女と会ってみることにした。


「うわっ 何この部屋! 誰も片付けてくれないの?」

「女官が仕事をサボってな」

 近頃は誰も寄り付かなくなった。


「それって嫌がらせじゃん」

「勇者は色々な相手から嫉妬される。 仕方のないことだ」

「レグルスにチクるのもなんか違うし・・そうだ! 私が掃除してあげよっか?」

「おまえに、掃除なんか出来るのか?」

「ふっふ~ん、こう見えて家事は得意なのよ」

 画して、これまで疎遠だったマリーダが、定期的に俺の部屋を訪れるようになった。


 +++++


 息子と同じ名前を持つ勇者。 首の件は知ってたし、如何にか平静は装って掃除を請け負う約束を取り付けた。 今は出来ることからコツコツとだ。


 交流を持つようになって解かった、彼は良くも悪くも息子にそっくりなのだ。 前世で受けた仕打ちを想い出すと、暗い感情が湧かなくもない。 しかし、息子と違って勇者は私に甘えてくる。 その事実が自分でも驚くほど嬉しくて、つい甲斐甲斐しく尽してしまう。


「味付けだが」

「甘めの濃いめ、ジャガイモは煮崩れるくらいでどうですか?」

「ああ、それで頼む」

 彼のことは不思議と何でも解ってしまう。 惚れたの、愛してるだの、と言ってこない所も心地いい。 身体を求められることもない。


 しかし、異世界に転生して、ともすれば最も充実していた日々は、突然、終わりを迎える。


「バドッグ王国へ帰国してもらうことにした」

「ええっ! 何故ですか?」

「君はウィリアム王の婚約者だろう? あるべき場所に戻すだけだ」

 下がっているだろうと予想していた好感度は、その予想を遥かに下回っていて、【乙マジ】第2部はバッドエンドを迎えたのだった。


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