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その日が良い日だったら

 昔の事だ。もう何年経ったかわかんねえ、それくらい昔の事だった。

 「なあリーダー、俺達そろそろなんかデカイ任務任されないかな?」

 あの時は退屈というより未知に対する期待が大きかった。それ故に国が俺達を大事にしなければいけないしがらみが煩わしく感じた。

 「……」

 あれ?あいつどんな声してたっけ?とにかくリーダーの反応は俺の予想とは違った。まだ俺達がパーティーを組んでから1ヶ月しか経っていないから実力はそんなにないとかなんとか。

 「でもよリーダー、俺達このままだとこの国で腐っちまうだけだぜ?」

 焦りなんかじゃない、この国は()()()()()のだ。しかもちょうど竜巻の後にパーティーが出来たからこの国を襲う魔の手なんてたかが知れている。

 「……」

 リーダーは焦ることはないと言った。違うそうじゃないんだ。これ程までの奇跡を巡り合わせたのだから。


 「そういうことじゃねえだろ」

 ゆっくりと目を開ける。近くにいた男が()()が目覚めたことに気づいたらしい。

 「準備は既に整っています。後はあなた様の合図があればいつでも」

 「分かった……」

 何故今になってこんな夢を見る?まさか罪悪感でも抱いていたのか?いや、それはあの時から持ち続けていたモノだ。ただそれを感じないように今まで生きただけだ。それを今忘れていた。それだけだ。

 「今日全てが変わると思ったら大間違いだ。何も変わらない、ただ俺様が望むことの変化が誰かには受け入れられないだけだ。なあリーダー、俺様は良いやつになったろ?あの時より地位もあれば金もある。あんたが否定しても俺様を止めれなかったのはあんただ」

 その日はいつにもまして何かを考える気になれなかった。


 この国で冒険者になってからそろそろ1ヶ月が経つ。その日は誰にとっても特別な期間が終わった翌日だった。職業信託儀式は終わり、まだお祭り状態は続くだろうが国はいつも通りの生活に戻る()()()()()

 早朝、日が上るくらいの早い時間に僕は目覚めた。特に何もないはずなのにこんな時間に目覚めた自分にも驚いている。かといって寝直す気にもなれないので僕は協会に行く事にする。

 「クロム、今日は早いな。何か依頼を受けたのかい?」

 宿屋を経営している旦那さんが僕に気づいた。

 「あーいや、目覚めちゃったんで体動かそうと思って……」

 「なら朝飯くらい食って行け。直ぐに作ってやるから」

 お言葉に甘えて朝食(食事はまた別に金を取られるのだが今回はサービスだと言われた)を食べて協会に向かう。

 さすがにこの時間帯では店も今から開く準備をしている程だ。扉を開けて中に入る。協会も夜遅くまで飲んでいて酔い潰れた冒険者とその後片付けをしている協会の人くらいしかいない。


 (さてさて?)

 協会の人もまだ起きていない人が多いのか僕に気づいた人はいない。掲示板を見つつ適当な依頼を探す。

 (これは良さそうだな)

 手に取ったのはトミシナナミと呼ばれる森にしか実らない果実の採集、この採集依頼の要点はとにかくスピードにある。トミシナナミは実ってから1週間程で腐る為餞別をして規定量集めた後は直ぐ様協会に提出するのが望ましいとされている。しかしその果実の香りに引き寄せられるのが魔物達だ。妨害を捌きつつ速やかに果実を運ばなければ行けないため量によってはCランクの依頼として扱われることもある。

 紙を持って受付に行くと先客、もとい師匠のロベルトさんがいた。話している相手も受付にしては見ない顔の人だ。

 「……それなら呼ぶのに3日はかかる……。……おい坊主悪いが……あーロベルト、別の部屋で話そう」

 「それもそうじゃったな。すまんの……クロム?」

 振り向いた時点でロベルトさんはようやく僕に気づいた。

 「あ、どうも……」

 「お前さんどうして?」

 「ちょっと早く起きたんで軽い運動でもしようかと」

 「もしや今の話を聞いっとたか?聞いとらんでもちょうど良い」

 「おいおい待てロベルト!その坊主は誰なんだ?」

 受付にいた男の人がロベルトさんを止める。

 「今のワシの教え子じゃな」

 「正気か!?まだ育成途中の奴をこの件に関わらせるのか?」

 「今はそんな事を言っとる暇ではないじゃろ」

 「そうだが……分かった」

 物分かりが良い人なのか了承したらしい。ところでこれなんの話なんだ?

 「お前さん今大丈夫なんじゃろ?その依頼は一旦置いてワシに着いてきなさい」

 ロベルトさんはそう言って歩き出す。うん僕に拒否権はないという事だ。


 王都を出てトミシ平原を進んで行くと小さな小屋が見えた。どうやらあそこが目的地らしい。ロベルトさんはドアを3回、2回、6回の順にノックした。すると扉が開き赤髪の女の人が出てきた。

 「お父様!!」

 え、お父様?ロベルトさんだいぶ老けてるけど赤髪の人は孫娘だと言われても違和感ないくらい若い。

 「無事じゃったかエレナ」

 「なんとか……、後ろにいるのは?」

 「取り敢えず連れてきたがクロム君じゃ。信頼自体はできる奴じゃ。入るぞ?」

 小屋の中は簡素どころか長年使われていなかったのか埃だらけだ。真ん中にテーブルと椅子がありそこにはエレナさんと同じ赤髪の姉弟と思わしき二人が座っていた。

 「クロム君、勝手に連れてきてなんじゃがこれから君に話す事は内密にしておいてくれ」

 「はあ?あの彼女達は一体……」

 「そうじゃったな、彼女はエレナ・ルソー。ワシの娘じゃな」

 「む、娘……」

 さっきお父様と呼んでいたのは聞き間違いではなかったらしい。

 「そこにおるのがエレナの子ども、ワシの孫じゃな。兄のエリック、妹のナタリア」

 雰囲気的に姉弟かと思ったが兄妹だった。

 「エレナは今……と言えるかは微妙じゃがとにかく、この国の王妃じゃ」

 思考が飛んだ。

 「お、王妃!?」

 いやてことはあの兄妹は王子と姫!?しかもそうなると

 「ろ、ロベルトさんて……」

 「大分前じゃがこの国の国王をやっとたの」

 「すすすすす、すみませんでした!?」

 全力でひれ伏す。

 「なんじゃ今更……、いいから話を聞くんじゃ」

 杖でデコをつつかれて顔を上げる。

 「そもそもなんで今の話を鵜呑みにできるんじゃか」

 確かにこの国の王妃やその子どもがこんなボロ小屋にいるのはにわかには信じがたい。

 「つまり何かの試験?」

 「そんな事でわざわざこんな小屋にいさせんよ。よく聞くんじゃクロム君、昨日の深夜にある男が謀反を起こしての、この国を乗っ取ったんじゃ」

 とんでもなくデンジャラスな言葉に僕の思考はまたもや飛んだ。

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