老人の教え
Fランクの依頼を探しているとあるものを見つけた。
「なりたてひよっこ冒険者大歓迎!知識・実践経験が身に付き、気づけばあなたはDランクの実力!興味のある方は今すぐこの依頼を受けましょう!」
(なんだこれ……)
思わず口に出しそうになるのをこらえながら紙を受付まで持っていく。
「あのこれは一体……?」
「えっ、この依頼を受ける気ですか?」
「いやただ目に止まったから持ってきたんですが……、ていうか本物の依頼だったんですね……」
「まあ、この依頼を出した人は昔協会の初心者を対象に講義を行っていたんですよ」
その講義の成果とやらはかなりのものだったらしく、今のAランク冒険者もその講義を受けた人がそこそこいるそうだ。
「ただ歳のせいか次第に大人数の面倒を見切れなくなったそうです」
今は協会の支援者として余生を楽しんでいるそうだが一人くらいなら面倒を見れると言うことでこの依頼があるらしい。
「それでこの依頼を受けた人は?」
「3年前から出したんですが1人だけ……」
昔は有名だったらしいが一線を退いてからはこうなったようだ。
「面白そうだしこの依頼受けます」
「ほ、本当ですか!?」
まあ効果がある事を期待したいが
翌日からその老人、ロベルト・クダンの講義は始まった。協会で軽い自己紹介が行われる。
「君がクロム・ダーン君か!ワシの講義を受けてくれること、感謝する!!」
印象としては元気はおじいちゃんという感じだ。杖こそついているが、その杖本当に使ってるのかと思うくらい元気に歩く。頭がは、……まあ見た目に関しては気にしないでおこう。
僕達はトミシ樹海の反対側に広がるローム平原に辿り着く。この平原は国が浄化しているためにかなり稀にしか魔物が現れない。
「それでは早速始めていきたいと思うが、その前にクロム君の情報を協会に見せてもらったがこれに間違いはないかね?」
さてここからがちょっと問題だ、まあ教えてもらう立場としてちゃんと話した方が良いと思い覚悟は決めているがそれでも緊張する。
「あの実は職業の事なんですが……戦士は戦士でも【闇の戦士】という職業なんです」
「【闇の戦士】?闇というのは属性の闇の事か?」
「はい……」
そこからロベルトさんに闇属性の性質及びそれが本に書いてあるような全く使えないほどではないが使いにくいものであることを話した。
「ふむ、まあ特に問題は無いだろう。ベース自体は戦士なのだから戦士の部分を伸ばせば良いだろう。当然ワシも闇の部分の使い方を一緒に考えるがな」
講義は走り込みから始まった。平原をただひたすら走らされた後は剣の素振り、木剣を使ってロベルトさんと打ち合いをして1日を過ごす。
ロベルトさんの教えは実戦方式でしかも分かりやすい。どこがダメなのか教えてくれその直し方も理論と直感両方で分かる。
森で魔物とも戦い、あっという間に1週間が経った。
「やはり闇の力の使い道はあまり思い浮かばんの、暴走させるにもこれから次第に魔物が強くなれば力も多く使う必要はありそうじゃし」
「闇の力を純粋な力としてぶつけられないのでしょうか?」
「むしろ純粋な力としてぶつけているから闇の力で魔物が凶暴化しとる可能性がある。つまり闇の力と別の属性の力を合わせれば良いと思うんじゃが……」
残念ながらそれが出来るのは魔術師だろう。
「戦士ですからね……」
「いや、諦めるのはまだ早いぞ。戦士でもある程度魔法を使える【魔法戦士】を目指せば良い、まあ闇の力を使う必要がなくなるわけじゃが……」
まあ闇の力を使わなければいけない状況が訪れないことを祈るばかりだ。
「さて、そろそろお前さんもEランクに昇格するじゃろ」
「そういえばそうでしたね。でも具体的に何したら良いんですか?」
「簡単じゃよEランクの依頼を成功させる。それだけじゃ」
Dランクでは試験が行われるらしいがEランクは比較的上がりやすい為Dランクの様に一人ずつ試験していくのが煩わしいのだろう。
「まあお前さんなら楽勝じゃろう」
翌日、協会で見つけたEランクの依頼はトミシバチの駆除である。トミシバチは集団で手頃な木に巣を作る蜂である。極めて攻撃性が高く、時にはその針でトミシボアすら囲って殺すほどだ。蜜も作らないため冒険者からしてみると駆除してもあまり旨くはないがその分報酬は少し高めにされているという具合だ。
さすがにこの依頼の様子を見にロベルトさんがついてくるわけにもいかないので今日は僕一人だ。
トミシバチの巣は直ぐに見つかった。辺りを10何匹もの蜂が見張りとして警戒している。トミシバチの駆除において一番手っ取り早いのが魔術師が炎魔法を使うことで一気に焼き払う事だろう。巣の破片を出すだけでも一応の依頼達成となるのでそれが一番なのだ。
(まあ僕にはそういうのないけどね)
手頃な石を手に取り巣に向かって投げる。しかし意思は巣に当たらず、近くで警戒していた1匹が石を弾き飛ばした。
「げっ!?」
正直甘く見ていた。いくら警戒しているとは言えこれなら落とせるかと思っていた。
蜂が何か発したのか巣から次々に蜂が出てくる。向かってくる先は当然僕だ。
「【斬撃】!!」
真っ先に飛び込んできた1匹を切り捨てる。しかしやはり数が多い、ただ【斬撃】を使い続けるだけでは対応しきれないし体力も持たない。一度蜂たちから逃げながら考える。
(なんか良い方法ないかな?)
闇の力が蜂にどう作用するのか分かったものではないので安易に使えない。
「なら!!」
剣を構えて蜂の突撃を待つ。しかし蜂もただ突っ込んでくるわけではないタイミングを変えてこちらの隙をついてくる突撃。
(いや待てよ?)
僕の中にある楽観とも取れる考えが浮かぶ。闇の力を剣に纏わせて蜂の突撃を待った。蜂は闇の力に気がついたか気づかなかったか分からないが剣に当たった蜂はそのまま剣に飲み込まれた。後続の蜂もさすがにこれを予想していなかった為剣に吸い込まれた。
「すごいな……」
トミシバチは元々攻撃性が高いため闇の力による更なる凶暴化はあまり起きないと考えた。さらに蜂は今まで実験してきた魔物よりも小さい。単純な考えならその小ささなら闇の力を受けきれない限度が低いとなる。
「でもこれどうなってんだろ?」
剣には闇の力がまだ纏っているがこれを解除した時が怖いものだ。
巣から離れて追っ手を全部剣で飲み込んだ後、再び巣に近づく。
理想としては飲み込んだ蜂を飛ばせれば良いのだが、果たして剣を振れば飲み込んだ蜂達が飛び出し巣を直撃した。その後巣から出てきた蜂を全て駆除した僕は協会に報告して無事Eランクに昇格した。