第3話 ソレとの出会い、そして初戦闘
宿屋への帰り道、依頼は未達成なので宿にそのまま帰っているのだ。
しかし近道をしようとしたら墓地に来てしまった。
「うう、寒気がする……」
さっきのマンドラゴラの症状がぶり返したのだろうか。
こんな事なら近道なんてしようとしなかったのに……。
一刻も早く宿に帰るため足早に墓地を抜けようとする。
『オオオオオ、オオウ、オォゥ!!』
風が吹いている感じもないのに唸り声のような音がこだまする。
なんなんだよ全く……。
今日はひょっとしたら人生で一番運の悪い日なのかもしれない。
でもよくよく考えたらよく分からない職業にさせられた時からこんなものなのかな……。
職業によっては一部の能力が落ちるようなこともあるらしい、僕の場合は運だったのかな。
そんなことを思いながら墓地の中でも奥の方、気づかなければ躓いてしまいそうな墓石のところに来た、
というか躓いた。
『おいこらテメエ!な~に人様の墓を蹴ってんだよ!!』
「ひいっ!ごめんなさいごめんなさい!!」
『つってもどうせ見えてねえんだろうけど、……な?』
青白い、幽霊とは本当にそんな色なのかと思ってしまう。
え?幽霊?
『「えええええ!?!?!?!?!?」』
『おい、お~い?聞こえてるんだろ?』
「うるさい!ってかなんでついてきてるんだよ!?」
宿に帰って来て、自分の部屋でソイツと面と向かっている。
『なんだよ聞こえてんじゃねえかよ』
しまった思わず答えてしまった、このまま無視する気だったのに。
こうなったら仕方ない、コイツと話してみるか。
「なあ、なんでついてきてんだよ」
『そりゃ俺の存在が認知されるなんて初めての事だからな』
「そもそもお前本当に……」
『おいおい待て待て、交互に質問していこうぜ?あと名前を教え合おう、俺にだってちゃんとあるんだからな』
「……クロム・ダ―ン」
『俺はギル……、えーとなんだっけなぁ、確かシンバだったか。ギル・シンバのはずだ』
「覚えてないのかよ……」
『仕方ないだろ、まともに会話するのも久しぶりなんだからよ。それでクロム、なんで俺が見えている?』
「そんなのこっちが聞きたいくらいだよ、次僕の番ね、ギルは本当に幽霊なの?」
『そりゃ見ればわかるだろ』
そうは言われても青白い光に包まれているだけで特に変わった様子はない、銀色の短髪に赤い瞳、顔もちゃんとある。
幽霊と言えばの特徴として挙げられそうな足だってあるのだ。
「出来れば信じたくないけど……」
『はん、こうして会話してるのがお前の幻覚じゃなきゃ本当だろうな』
さっきから頬を何回かつねったがちゃんと痛かった。
夢や幻覚ではない、というかそっちの方がデンジャラスな気がする。
『クロムはいつから俺のような存在が見えているんだ?』
「分からない、てか多分今回が初めてだよ」
『どうもそのようだな』
「ギルはいつから幽霊になったの?」
『さあな、気づいた時にはこの状態だった』
「悪霊だったりしないよね」
『ばか言え、あんな瘴気にあてられた魔物同然の存在と一緒にすんな。まあこの世に何か未練があるからこうなってるんだろうが。それよりもお前、本当に俺が見えている理由に心当たりがないのか?』
「……ないよ」
嘘だ、ひとつだけある、あまり考えたくない可能性だが……。
「それで、ギルは生前の記憶とかないの?」
『ぼんやりとしか覚えていないな、ここらへんで冒険者をやってたはずだが』
「ギルも冒険者なんだ、僕もだよ」
『へえ、そんなに弱っちそうなのにか?』
「余計なお世話だよ、今日なったばかりなんだから」
『新米か、なるほどね。しかし冒険者なんて向いてなさそうだがな、職業信託の儀式は受けたのか?』
「ああ、ええっと……」
素直に答えてしまい、しまったと思う。
『ん?その様子じゃハズレ職業か?』
こうなるから気を付けていたはずなんだが……。
『言ってみろよ、俺は誰にも口外できないからな』
なにそれ幽霊ジョーク?
とにもかくにも答えるしかなさそうだ。
「【死霊使い】だけど……」
『ああ?聞いたこともない職業だな。いや……、てか名前の感じから俺が見えている原因じゃねえのかよそれ、気づかなかったのか?』
「認めたくないよ、よく分からない職業になって、これからどうするべきか全然分からないんだから」
『職業について説明を受けなかったのか?まあ少なくとも俺みたいな存在と関われるというのが分かったんじゃねえか』
「それが分かってもなぁ……」
『はー、お前その職業になってから戦った事ないのか?』
いつの間にか交代制の質問でなくなっているが気にしない事にする。
「今は他の人達も魔物を狩ってるからね、明日戦えそうだったら戦ってみたいけど」
『そうか、じゃあ俺が戦い方を教えてやるよ』
「はぁ……?」
果たして大丈夫なんだろうか。
翌日、薬草採集を再開するために僕は森に向かう。
ちなみにギルも本当について来ている。
森の入り口には相変わらずパーティーが魔物を狩っている。
セカンド区域の薬草も初心者達によって刈り尽くされたのか見つかるのは特に何も無いところから生えた質の悪い薬草だけである。
「さすがにミドル区域まで行くのはデンジャラスそうだしな……」
『デン……、なんだ?まあ最初に戦うんなら確実に倒せる奴が良いだろうな』
僕はギルの言葉を無視する、誰かに虚空と会話しているやつがいたら間違いなくデンジャラスなやつだと認識されてしまう。
そもそもセカンド区域の魔物も初心者はパーティーを組んでいるから勝てるのであって、現状ソロの僕はここの魔物に会えば逃げる選択肢以外無いだろう。
(これで全部か……)
なんとか依頼で指定された量の薬草を採集出来た。質の良さで報酬は増やされるので今回は上乗せは期待できない。
まだ時間があるので魔物と戦ってみたいがまだ力を試してもいないのにセカンド区域の魔物に挑むのは無謀だ。
ファスト区域に戻って魔物を探すがいるのは狩りの最中のパーティーや既に倒された死体のみ。
「なかなか見つからないなぁ……」
ふと少し開けた場所に猪の死体を食べる狼がいた。
ちょうどいいと思って短剣を取り出す。
『おいおい待てよ』
「なんだよ?」
ギルが止めようとしてくるので流石に答える。
『あれは待ち伏せだ、ああいうのは一匹だけで行動するなんてまずありえねえ。あの一匹は完全な囮だな』
「なるほど……。意外にしっかりしているんだな」
『失礼なやつだな、とにかくあれはやめておいた方がいい』
「でもああいうの以外に都合のいい獲物はいなさそうだしなぁ……」
再び森の中を歩き回る。
(ん?)
虫の羽音のようなものが聞こえて僕は音がする方に向かう。羽音の主は水色の大きなトンボ、トミシヤンマだ。
『お、あれならいけそうだな。あれは群れで行動するタイプの魔物じゃねえ』
辺りに別の魔物がいるわけでもない。
不安と言えば攻撃が届くかどうかだがやってみるしかないだろう。
(よし!)
短剣を構えてトンボを見据える。
『よく狙えよ~?』
戦いを教えるとか言ってたけどこういう事なの?
「いやっ!」
とにかく地面を強く蹴って跳躍、トンボを剣で叩き落とす。
着地して落ちたトンボを見ると羽を羽ばたかせこちらに突撃してきた。
「うわわっ」
バックラーで突撃を防ぐ、トンボはぶつかった衝撃で目を回している。
「うう、ごめんね!」
そこにとどめをさすように短剣を振るう、トンボは胴体が真っ二つになって落ちた。
「はぁ……」
『まずまずだな』
ある程度戦えるようだが、今のところ職業の力を使ってどうこうしている感じはない。
「ギル、なんか分かる?」
『俺に聞くなよ、お前の戦い方がへたっぴってことしか分からねえよ』
余計なお世話だがこれではどうしようもない。
そう思いながらもトンボの死体を調べていると、
「ん?」
水色の雫型の宝石のようなモノを見つける、指でつまめる程度のサイズなので壊れないか心配なくらいだ。
『それ……』
ギルが宝石を食い入るように見つめる。
『おいクロム、ちょっと戻るぞ。試してみたいことがある』
「え?でも……」
『いいから早く』
有無を言わさない感じにため息をつきながらも僕はついていくことにした。