表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第1話 職業信託の儀式

 僕は今、自身の人生の中で最もデンジャラスで重要な場面を迎えている。

 後ろにいるのは僕なんかよりもずっと重たい使命を背負った女の子、目の前には4本腕の巨大なゴーレムがいる。


 ゴーレムの下の左手にはそれで本当に物を斬れるのかわからない石の短剣、右手は頑丈そうな盾、

 上の手にはそれぞれ棍棒が握られている。


「じいちゃんは一体どこに居るんだよ!?」


 ゴーレムの後ろには無数の棺桶が入っている棚がある。恐らくその中のどこかに彼女の祖父がいるはずだ。


「こいつ倒さなきゃゆっくり探している暇もないかも……」


「じゃあクロムがこいつの気を引いてる間にあたしがじいちゃん見つける。それでいいか?」


「それ僕の負担すごいですけど!?まあでも死んででもやりますか!」


 しかし改めて凄い事になったもんだ。おそらく僕が【死霊使い】なんていう未だに自分でもよく分からない奇妙な職業になってないとここにはいないだろう。




 3ヶ月前……


 その時期はみんなにとっていつもとは違う特別な期間だ。もちろんそれは僕にとってもなのだが正直あまり乗り気ではなかったのは確かだ。


 1年に一度、ルソー王国では王都で職業神託の儀式が行われる。多くの冒険者を目指す者達がそこで儀式を受けて神様から職業とその職業の成長を()()()()()()、そしてたまにアイテムを授かる。


 儀式は1ヶ月の間に渡って行われる、儀式を受けれる年齢が14ということもあり、成人の儀として、王都の住民は冒険者にならずとも受ける風習となっている。


 僕は冒険者になる気はあまりなかったが冒険者になれば恩返しにもなるとは思っていた。まだ物心つかない頃に両親が死んで孤児院で育った僕は一人立ちするためにこの儀式を受けるのだ。


 儀式が行われる大聖堂には長蛇の列が出来ている。


 いくら儀式が1ヶ月間行われるとは言え早く受けれることに越した事はないのだ。最後尾にいた兵士から番号が書かれた紙を受けとる。紙には番号と受け取った時間から後どのくらいでこの番になるのか、大体の時間が書かれている。紙を見る限り僕の番になるのは最速でも明日の朝になるようだ。


 とりあえず僕は宿屋で休むことにした。お金は孤児院にいた時に働いて稼いだものでちょうど1ヶ月過ごせる程である。


 そして翌朝僕は再び大聖堂に向かう、まだ早朝というにも関わらず長蛇の列はさして減っていない、みんな路上で寝ていたのだろうか?


 とにかく僕は最後尾の兵士に紙の番号はどこまで進んでいるのかを聞いて列に入る。紙に書かれていた通り番号の場所は大聖堂の入り口にかなり近かった。


 そしていよいよ僕の番が回ってきた。大聖堂内はカーテンで仕切られておりカーテン内で儀式は行われる。


「次の者、中へ」


 カーテンの中に入る。目の前にはテーブルの上にのっている小さなグラスとナイフ。テーブル越しに神官と目が合う。神官の後ろには恐らく儀式で職業と器を与えてくれる神様をかたどった像がいた。


「儀式のやり方は知っているか?」


「いえ……」


「ならばそのナイフで指切り傷をつくれ。そして血をそのグラスの中に」


 喋り方がなんだか怖いが、言われた通りに親指に切り傷をつけ、血をグラスの中に垂らす。


「これでいいですか?」


 神官は小さく頷き、グラスの隣にあったボトルを手に取る。


「神よ答えたまえ、今この器の中にある血の者に【職業】を与えたまえ」


 グラスが光を放つ。

 するとどこからともなく、ん……?

 ひょっとしてあの像かな、そこから声が聞こえてくる。


『汝、クロム・ダーンは【死霊使い】。その魂を見失わない限り汝は闇の力司りし勇者となるだろう』


 死霊使い?すごくデンジャラスそうなんですけど?


『汝の未来に栄光あれ!!』


「え?」


 そのまま神官は僕に漆黒の器を差し出してきた。

 器を受けとると自然と手が動いて胸に器をくっ付ける、器は体の中に吸い込まれた。


「これで儀式は終わりだ。ここを浄化する故、指を見せろ」


 親指を差し出すと神官が手をかざして傷が塞がる。


「あの本当に終わりですか……?」


「左様、尚授かりし職業の詳細については自身で調べる決まりだ」


「え、でも戦士とかならともかく聞いたこともない職業なんですけど……」


「私に聞かれてもどうしようもない、神の声は汝にしか聞こえないのだ」


 だから自分で調べないといけないのか……、でも本当に大丈夫なんだろうか?


 教会を出た僕はまだ時間もあることだし冒険者協会に行く事にした。

 これから生活していかなきゃならないんだからとりあえずは動くしかない。




 その頃教会では、


「さてどうしたものか……」


 神官は椅子に座り思案していた。今は休憩を取り儀式を受けに来る者はいない。


 彼はクロムに嘘をついていた、神の声は神官にも聞こえるのだ。


「死霊使い、私も初めて聞く職業だったが……」


 更に神官は【職業】を与えられた者に助言をしてどうすれば良いか導く役割もある。


 それをしなかった、正確には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からである。


「そうだ、あの時私は失敗したのだ。もうあんな事には……」


 助言の一つでもそれで人生というものは決まってしまう、もう何十年も前だが儀式で【勇者】を与えられた者がいた。


 その年は多くの者が伝説職と呼ばれる、その名の通り伝説として残るほどに凄い職業を与えられていた為まだ若かった彼はとても興奮していた。


 すぐに王宮に報告して伝説職を与えられた者達を集めてパーティーを組ませた。彼らは国の保護のもと任務をこなし順調に成長していった。


 しかし彼らはある日突然行方不明になった。一切の荷物を持ってどこかに消えてしまったのだ。国はこれが明るみになる前に最大限捜索したが結局彼らが見つかることはなかった。


 一体どうして彼らが何も言わずに消えたのか、彼らはどこに行ったのか。

 誰にも分からないまま国は「【勇者】一行は魔王討伐の為にこの国を去った」と発表した。


 実際魔王が本当にいるのかも分からなかったがそういう事にでもしなければ国民は混乱するだろう。


 それ以来神官は伝説職を与えられた者がいても決して軽はずみに国に報告せずにその者と話し合う事を決めた。

 幸いかどうかは分からなかったがそれ以来伝説職を与えられた者はいなかった。


 ではどうしてクロムと話し合おうとしなかったのか、彼は恐れたのだ、そしてそもそも何も言わなければいいのではないかという思いが出てきたのだ。


 彼は神の声を聞いた時頭が真っ白になった。

 自分の為すべき事はどちらか、あの青年に声をかけて手を差しのべるのが正しい筈なのに彼は動けなかった。


(私はどうすればよかったのか……)


 その自問と自戒は意味なく、ただ彼の出した答えによって作られた道は既に出ているのだがそんなことを知るよしもなくそれは進んでいく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ