とある忍者の無限勧誘地獄
なろうラジオ大賞2参加作品(1000文字以下)です。
現代日本の田舎地方に戦国時代をモチーフとしたテーマパークがあった。
そこで忍者として雇われている男は、支給された忍び装束で施設内を闊歩したり、オリジナルショーのモブとして出演したり、予約制の忍者体験教室で監督役をしたりと、多岐に渡る仕事を請け負っている。
が、実のところ、その職は彼にとって都合の良い隠れ蓑でしかなかった。
「お客様、本物の忍術に興味はありませんか?」
そう。
男は役柄などではない、真の忍者であったのだ。
彼は、時代の流れにより衰退の一途をたどる忍びの者という存在の絶滅を防ぐため、才能のありそうな客を見繕って声を掛け、一人前に育て上げるまでの任務を負った上級忍者なのである。
「今の時代は厳しい掟などもありませんから、純粋に技術だけ学んでいただけますよ。
いやぁ、どこで何を言おうが見せつけようが、誰も本気で信じやしませんからねぇ」
「もちろん、指導料などはいただきません。
術の継承そのものが目的ですから。
あと、忍者になったからと、強制的に仕事を任されるといった煩わしいこともございません。
いや、中級以上の忍者を目指したい、と思われるのであれば多少事情は変わって来ますが」
「初級は免状の取得条件がかなり緩くなっておりまして、今ですと、この初心者用忍者キットの使用方法を覚えることと、いずれかの忍術をひとつ身に付けていただければ、すぐにでも本部より書状が発行される手筈となっております」
「昨今は、昔ながらの忍び装束を纏う者も随分と減っておりますが、形から入りたいとおっしゃる皆様のために、各種道具含め有料でオリジナル装備を発注いただくことも可能です」
「ああっ、申し訳ございません。
その術は中級以上の資格と大型乗用生物免許が必要となりまして、ええ、はい。
あ、いえ、そちらもまた別の、特殊飛行物免許の取得が……大変申し訳ございません」
「基本的にはお好きな場所と日時を選んでいただいて、私がそこへ出張し指導するといった形になります。
日々の個人訓練については、ご自宅でも十分に可能です」
とかく必死であった。
指導資格を有する上忍は非常に数が少なく、彼の勧誘には正に忍者の未来を左右する多大な重責がのし掛かっているのだ。
「いかがでしょう。忍術、学んでみませんか」
とある忍びの苦労は続く……。