1話 手紙
不定期デェス…
——親愛なる……(途中の文字が掠れて読めない)まぼろ君
君がこの手紙を読んでいるということは、
君は同梱した贈り物を見てくれたのだね。
ああ、きっと混乱しているだろうね。
わかっているとも。
ああ、わかっている。
君のことはなんでも知っているからね。
私は誰か?
送った物の正体は?
深海公社との関係は?
なぜ君の名前を知っていたか?
君の住所を知っていたか?
不可解だろう。
わかっているとも。
私は君が昨夜、何本の酒を空けたのか……
もちろんラベルだって答えられるよ。
君が酔うことになった原因も。
君が裸になった理由も。
私はなんだって知っている。
——ああ! 待って! 待ってくれ!!
どうか怖がらないでくれ。
どうか最後まで読んでくれないか。
私は君に害を為すものではないのだ。
——ああ! だから、便箋をびりびりに破いて捨てようとしないでくれ!
……コホン。
まあ、破こうとしても無理だろう。
君は気付いていたか?
この便箋はいったい何行書かれているのかと疑問を持ったかい?
解は何もない。
この便箋に上下の限界はないのだ。
……。
——ああ! 横に引っ張らないでくれ! たわんじゃう!!
……。
落ち着いてくれたかい?
こういう時は時間置くといい。
怒りに任せた行動というものは、だいたいが意志とは無関係なものだ。
記憶というものは意志に刻まれるもの。
つまり、君は忘れっぽい性格というこto
……というと、君は怒ってしまうだろうね。
私とて同じ轍は踏まないよ。
……。
ところで、君は本当に忘れっぽいようだね。
——ああ、別に悪く言った訳ではないよ。
ただ……少しばかり、感傷に浸りたいと思っただけだ。
君は忘れているようだけど……
私は君のことを知っているのさ。
これが全てなんだ。
それ以上でもないし当然それ以下でもない。
……もしも、君が全てを知りたいと思うなら、
私は全力で君の応援をするつもりだ。
私は全ての判断を君に委ねる。
決めるのは君だ。
とはいえ、どうやってと、君は思うだろう。
あるいは何の話をしているのか分からない、
そもそもお前は誰なんだと、現在進行形で混迷の淵にあるのかもしれない。
——ああ!大丈夫だね。分からなくたっていいんだ。
なぁに、そう焦ることもない、いずれ……わかることだ。
まぼろ君、私は期待しているよ……。
非常に残念なことに、君に直接教えることはついぞ叶わなかった。
しかし、可愛らしい君の好奇心をくすぐることはできたと私は自負しているよ。
どうだね?まぼろ君。
見知らぬ私の鼻を明かしてみせてはくれまいか。
どうか、私の正体を突き止めてはくれないか。
もし、君が私をブッコロしたいのなら思う存分にヤってくれ。
……君にはその権利がある。
『全ては世界の果てに、全てを撚り合わせよ』
『可能性はゼロじゃない、収束を恐れるな、時は戻らない、始点はないと思え』
全ての謎を解き明かすには同梱した贈り物が役に立つはずだ。
……もう、時間がない。
それはゲームソフトというものだ。
是非遊んでみてくれ。
楽しいよ。
(無限に続くかと思われた長大な便箋はゲームを勧める言葉を最後に何も綴られなくなった、気付けばこれまで読んでいた部分まで白紙に戻っている、この手紙は何だったのだろうか、差出人の名前は何だったのか、今はもう確かめる手段がない)
「終の住処……」
(通常サイズの白紙に戻った便箋の中央にはただ一言、そのゲームのタイトルらしき名前のみが書かれていた。まるで、最初からそれしか書かれていなかったようにさえ見える手紙をパサリと脱力したように机に置くと、わたしは贈り物を眺めて再び呆ける時間に入ったのであった……)
TRPGのプレイ中に突然究極の選択ロールを突きつけられて「っぇえ〜……」って放心するやつ。