表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

図工で手を抜いたら情けないことになった話

作者: トキオリオン

俺が小学校高学年の頃の話だ。


丁度、その頃は、家庭内で両親が別居して家族の会話も激減して、とても学業に専念できる環境じゃなかった。


多忙で家庭を顧みない父とそれに愛想を尽かした母と言う絵に描いたような冷え切った夫婦のしわ寄せは、長男である俺の心を不安定にさせるには十分過ぎた。


勉強はもともとそれほど好きじゃなかったが、家庭内の軋轢に悲鳴を上げることもままならず、一番退屈な時間が教室での授業だった。


学校の先生が何か問題を出しても、家に帰って感じる冷凍庫の中のような寒々とした環境の方が俺にとって問題だと思っていたので、授業の内容も右から左だった。


ある日、図工の授業で水彩画の課題が出された。


とある童話を朗読された物語の中のどれか心に残った場面を絵に描いてくださいと言う内容だった。


俺は、正直どうでも良い気分で物語を聞くともなしに聞いていた。


物語は、美しい女性と恋仲の狩人が、恋人を奪おうと企む悪い王様と魔術師の出した無理難題の竜退治を成し遂げ、恋人と幸せになると言うものだった。


男女間のトラブルと言うものに辟易としていた俺は、その物語の中で、美しい女性を狩人から取り上げようと企む意地悪王様と魔術師の相談のシーンしか印象に残らなかったので、思いっきり手抜きで、そのシーンを汚い水彩画にして提出した。


同じクラスの人気者で努力家な友達は、狩人が竜と対決する勇壮な場面を綺麗な絵に仕上げていた。


物語の場面を水彩画にすると言う授業の数日後くらいに、俺は体調を崩し、しばらく学校を休むことになった。


俺が病気になったことも俺の両親にとっては責任のなすりつけ合いの材料に過ぎず、夫婦間の亀裂を大きくすることはあっても、塞ぐことはできなかった。


やがて、病から快復して再び登校してみて、驚いた。


あの水彩画の授業で描いた絵が自分の分だけ教室の壁に貼り出されてないのだ。


顔も名前も正直どうでも良いクラスメートたちの作品の中に俺の手抜きの絵だけが見当たらない。


手抜きで描いた絵だったから捨てられてしまったのだろうか?


病み上がりで、病欠中の学校の様子を教えてくれる友人もいなかった俺は、担任の先生に自分の絵がないことを尋ねた。


先生はおっしゃった。


「君の絵は美術室にあるよ」


先生が何を言っているのか意味がわからなかった。


先生の言葉に混乱と焦燥の中で俺は美術室に走った。


美術室には、見たこともない様々な水彩画が数多く展示されていた。


巡回展覧会参考出品作品と銘打たれたコーナーだった。


そんな中に俺の手抜きに手抜きを上塗りしたような駄作が貼り出されていた。


先生は俺の絵がとてもよく描けていたから、巡回展覧参考出品作品に選んだのだとおしえてくれた。


俺の何倍も綺麗に絵を描いているクラスメートが居たはずなのに、家庭内の不満を凝縮したようなやる気の欠片もない俺の絵は、しばらく市内のいろんな小学校を巡回して、いろんな人の目に晒された。


俺よりもっと頑張って竜と狩人の対決シーンを描いていたクラスメートの人気者を差し置いて、俺の手抜きの絵が、どんな理由で先生方の目にとまったのか真相を知る術は、今となってはない。


ただ、一つ学んだことがある。


努力しても結果が出ないこともあれば、まぐれ当たりしたせいで返って恥じをかくこともあると。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 恐らくですが……。 昔、役所でバイトをしていた時、ポスターのコンテストがあり、作品を並べたことがあります。 その時、技術的に上手な絵もありましたが、下手でも魅力を感じる絵が数枚あり、片付けの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ