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粘って探して / 翡翠鉢
半日近く ――
頑張って、探したものの。
翡翠石は見つからなかった。
陽も暮れ始め ――
供の者が、
「そろそろ、戻りましょう」
などと、真顔で言い出したので。
姫は、
「見つかるのに」
「ホントは、すぐ、見つかるのに」
と、悔しさのあまり、
旅商人を前にして、泣いてしまった。
ブワッと溢れた涙の滝が、塩辛く頬を滴り落ちる。
本当に、すぐ見つかるのに。
湿った鼻をズズズビッと啜る。
旅商人が藩に滞在している間 ――
姫は、旅商人に懐き。
旅商人も、姫に懐いた。
姫は、何度も、せがんでは、旅商人から話を聴き。
旅商人も姫に訊いた。
姫は、岩絵具を使った絵の描き方も、教わった。
旅商人曰く、
「石の種と、薬剤調合の技をもってすれば、
草木や花と同じように、石も育てられる」
のだという。
嘘臭い。
が、姫は早速、植木鉢を集め。
土を敷き詰め。翡翠石を植えて。
毎日、水をやった。
石だから、水をヤリ過ぎる、という事もあるまい。
姫は、まるで、築城でもし終えたかのように、
腕組みしたまま、翡翠の鉢々を見下ろし、フンッと鼻を鳴らした。