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背徳 / 石で、手を洗う
「岩絵具とは。
石を細かく砕き。
磨り、潰し。
砂や粉のようにした絵具」
だと言う。
「お石で。
お石で…… 絵が書けるの?」
幼い姫は、石を使って絵を描く、
という聞いたこともない奇想な話を知って興奮したし、
宝石や玉や水晶をも砕き、割って、壊してしまうという。
やってはいけない事を、平然とやってのける熱風を浴び、
さらに興奮を重ねた。
絶対、叱られる……
姫は、小瓶を手に取り。
陽の光にあて、
キラリ、ギラギラさせている。
旅商人は言う。
「姫様。お石の中には、薬として用いる石もある、といいます。
が、伝え聞いたところによると。
雷をビカッと発する石や。毒を出す石も在るとか……」
姫は、ギョッとして。眼を見開き、瞳孔をヒン剥いた。
心も身体も、こっ、硬直。
ゆっくり、そっと、そぉっと……
石を刺激しないよう、音を立てないよう、怒らせないよう、
小瓶を、元の位置へ、戻す。
と、すっかり忘れていたのか、急に慌てて。
懐から、翡翠色の巾着袋を取り出すと。
中に入っていた翡翠石で、必死に手を洗った。