第三話 観測隊ならびにUS
ハワイのマウナケア。標高4000mを超えるその山は、黒々とした姿を見せていた。
ただいまの時刻は深夜。だが、観測所に明かりがたくさん付き始めた。
宇宙の観測所として各国の最新鋭の望遠鏡が揃っている場所だ。
七年前の異変以来、この場所はすっかり活気をなくしてしまっていた。
だが、今日は違う。人々が走り回っている。
「彗星が落ちてきただと?!」
「あれ以来、宇宙からの飛来物など何一つ来なかったはずだぞ。」
「報告します! 観測不可能だったサブミリ波、赤外線、どちらも観測可能になっています!」
「まさか、宇宙のダンジョンが、攻略されたというのか。」
「いったいどの国が。」
「それも大事だが、もっと重要なことがある。」
「そうだ。」
「これで、宇宙を完璧に観測できる。」
「その前に、あの彗星を観測するべきだろう。」
「確かに異変はあれからだ。」
彗星の観測結果を解析した研究員達は、信じられないような表情をした。
彗星は、一人の少女だったのだ。
どうして、あの急加速の中、無事でいられるのか。
どうして、あの小さな体で彗星のような光が出ているのか。
科学では説明がつかない。
とりあえず慌てて自国に報告を入れる。
他の異変はない。どこかの国が攻略したのなら、脱出する宇宙船が見つかるはずだが、それはないのだ。
果たして信じられるだろうか。
ただ一人の人間が、7年間、世界中の最高戦力を跳ね除けてきたダンジョンを攻略したというのだ。
彼女が落ちる場所は、東日本、東京であると判断できた。
観測所にできるのはこれまでだ。
ここからは、本国の仕事である。
●
ディラウア州ドーバー。
アメリカ空軍の基地がある場所だ。
ここにホワイトハウスから連絡が来た。
国防省を通さない緊急の連絡に、電話を受ける基地司令にも緊張が走る。
『命令だ。日本へ飛び、ある少女を攫え。名はトライヘキサ。少女だが、絶大な強さを誇る。決して油断はするな。詳細は送る。』
「イエッサー。」
念を押すような指示など珍しい。
それほどの案件ということか。
この基地には、米軍最強の姉妹がいる。それを当て込んでの直接命令だろう。
基地司令は納得する。
送られてきた司令書を読み込み、戦術行動に必要な人数を勘案。
作戦は組み上がった。
「しかし、日本か。やりにくいな。」
なぜか国民全員が高レベルな特殊国家。
トップ層の力は同じくらいだが、国民の平均レベルでは大きく水をあけられている。
やはりニンジャの末裔だからか。恐ろしい国だ。
今の所、あちらもこちらもダンジョン問題にかかりきりになっている。
そのため、しばらくぶつかることはないだろうが、戦争になれば覚悟をしなければいけないかもしれない。
とはいえ今回の任務は、戦争とは関係ない。対象の少女が政府に保護されているわけでもない限り大丈夫なはずだ。頭に浮かぶ悪い予感を振り払った。
「ワールド姉妹を呼べ。特別任務だ。」
唯一何が起こったのかを正確に予想することができるアメリカ。
彼の国が一歩先んじるのは当然の流れだった。
飛行機が飛び立つ。シーレーンが封鎖されても、空はまだ人類の領域だ。
目指すは、日本。在日米軍基地の中で唯一残っている横須賀。
ダンジョンが現れてなお、世界一の国力を保有するアメリカが、一人の少女を手に入れるために動き出す。