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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第一章 東京
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第一話 異世界主人公(召喚予定なし)

 主人公。それは全てを解決する最大級のチートである。


 どんな物語でも主人公が出ることでたちどころに問題が消えて無くなる。

 相応の苦労はするかもしれないが、ハッピーエンドが保証されるはずだ。


 それはまさしく不正手段チートと呼ぶにふさわしい役割だろう。


 だが、もしその力がなかったとしたら。


 一人称視点でこいつが全てを解決するんだろうなと思っていた人物。

 そいつが、何もできずに惨めに状況に対して右往左往するだけの人物だとしたら。


 それは、ひどくつまらない。駄作の出来上がりである。


 そして、俺はまさしくその状況にあった。


 ●


 話は7年前に遡る。


 当時俺は高校一年生だった。まあ、普通の生徒だった。

 学校が進学校気味だったので勉強はそこそこやっていた自信はあるが、その程度である。



 そして、あの異変が起こった。

 世界各国で次々と異常な穴が発見され、おかしな現象が多数報告された。

 

 極め付けは、アフリカの映像だった。

 サバンナの大自然を背景に定点カメラで映し出された映像。

 そこには、どう見ても想像上の生き物であるところのドラゴンが飛んでいる姿が写っていたのだ。


 全世界が異変に気付いた。現実がファンタジーに侵食されかけているという事実に。


 各国は対応を急いだ。

 どうにも穴からモンスターが漏れ出しているらしいと気付いてからは早かった。


 あっという間に各地の穴は封鎖された。


 封鎖しきれなかった地域もあったが、仕方がなかった。ダンジョンの数は多すぎたのだ。

 純粋に物量が足りなかった。


 だが、徐々にダンジョンは危険なだけでなく、有用性もあるということがわかり始めた。

 地球上にはない鉱物。独自の生態系。


 さらに、時たま取れるダンジョンドロップ。

 そこから、ポーションや装備など人類に利益をもたらすものが多数発見された。


 今現在ほとんどの国は、ダンジョンの侵攻を防ぎつつ、階層を攻略していっている。

 多面展開しなくてはならないため、戦力を一箇所のダンジョンに集中させることができないのが悩みのタネらしい。

 

 万一、どこかが破られでもしたら地上の被害は甚大だから仕方がないだろう。




 さて、これは、世界の概要みたいなものだ。あんまり俺の事情とは絡まない。


 俺たち若い世代に直接インパクトを与えたものがもう一つあった。


 ステータス測定である。


 ダンジョンができてしばらく経ってから、学校総出である施設に出かけることになった。

 工場見学にしては大規模だったし、何より職員の雰囲気がピリピリしていた。


 変な装置に一人一人入れられて、体を精査された。

 製品体験なんて言ってはいたけど、どう考えても怪しかった。


 しばらくして、学校から数人の生徒がいなくなった。転校したらしい。

 どう考えてもタイミングが良すぎる。


 そして事件が起きた。

 学校のゴミ捨て場に謎の紙が落ちていた。

 どうにも成績表らしいがあまりにも変だった。それがラインで全校生徒に拡散された。


 こんな感じだった。


 岡本達也 魔法使い B

 平野潤 剣士 B

 渡辺慎吾 暗殺者 A-

 角田博之 園芸家 D

 周雅之 軍師 A

 都丸勇気 勇者 S

 平瀬茜 聖女 S

 直方仁 異世界主人公(召喚予定なし) E

 丸川洋二 暴れん坊将軍 B+

 木内莉緒 忍者 A

 倉野誠治 賢者 A

 北角聖歌 盗賊 C

 芝川幸恵 僧侶 B

 鮎田芽衣 狂戦士 C

 家村敏文 暗黒師 E

 陶雪菜 退魔師 C

 堀中絢香 風祈師 D

 ⋯⋯

 S 人類最高戦力

 A 強い職業。自衛隊への勧誘も視野

 B 普通。

 C 弱い。

 D 戦闘では無力。

 E 使いどころなし


 あんまり意味はないので割愛しよう。

 どうにもドラクエか何かの職業システムのようだが、そこに書かれているのは紛れもなく自分たちの名前だった。


 重要なのはランクSに位置づけられた人がすでに転校していたことである。

 勇者やら聖女やら、どう考えても強そうな職業の生徒だけがいなくなっている。


 これの意味するところは、つまり、国がダンジョン攻略のための戦力を欲しているということだ。



 そんな噂が広まった。

 間も無く、連絡が取れた転校した面々からそれを裏付けるような話が届き、それは真実だと確定した。


 全国から優秀な生徒たちが集められた、ダンジョン攻略専門学校が作られたのだ。


 で、だ。

 ここで勇者として認められてそこに行けたら話はもっと面白かっただろう。

 そんなにうまくいくはずがない。

 俺が語っていたのは残されたものからの視点だ。



 つまり、俺はその学校には行けなかった。

 年相応にライトノベルやゲームの中の冒険にワクワクを抱いていた俺は勉強するべき高校生として残された。どうしようもなく行きたかったのに、能力の時点で否定された。


 俺の職業ランクはE。最下位だ。使えないという評価まで貰っている。


 最初に主人公について語っていたことから察せると思うが、俺の名前は直方仁。



 その職業は「異世界主人公(召喚予定なし)」だ。




 ここで、異世界について解説しよう。

 日本最大のweb 小説投稿サイトにはこう書かれている。


 ー「現実世界」とは異なる、かかわりのない世界。

 物理的に一切つながりが無く、移動手段も確立されていない世界を指します。ー



 ここが現実世界だとしよう。俺がこうして生きているんだから現実世界に決まっている。

 たとえ異世界では主人公だったとしても、現実世界ではそうもいかない。

 異世界とご丁寧に但し書きがある以上、俺が現実世界で主人公たり得ないのは確実だった。



 なら、召喚されればいい。その小説投稿サイトには、その手の小説がごまんとあった。

 俺は、自分の職業のヒントになるかもしれないと思い、それを読み漁った。


 何十作か読んだ時点でようやく、参考にできないことがわかった。

 それら異世界転移の小説の主人公たちは、何の苦労もなく異世界にいっている。


 だいたい一話で簡単に辿り着いている。


 確かに彼らの異世界に行ってからの活躍には胸がすく思いだ。

 しかし、現実世界での彼らを取り巻く状況は、うまく行っていた場合を見つけることの方が難しい。



 そして、今俺がいるここは現実世界だ。異世界での主人公補正など、受けられるはずがない。

 まして(召喚予定なし)まで入っている。向こう側から召喚してくれることはないだろう。


 あとは、一縷の望みをかけて、トラックの前に身投げすることだが、流石にそれはためらう。

 子供を助けるくらいの状況下じゃないと犬死のリスクが高すぎる。



 国はどこまで知っているのだろうか。

 とりあえず、俺の職業に対する評価は的確と言わざるを得ないだろう。




 だが、異世界主人公の物語を追っていく中で、俺の中にも夢が生まれた。

 それは、自分もダンジョンを攻略してみたいという夢だ。


 ダンジョン。あれは、現実を凌駕したファンタジーの産物だ。


 現実世界で、あの異世界主人公たちと同じような冒険をしてみたい。

 そう考えた俺にはこれを見逃す手はなかった。



 全国から集められた才能ある高校生が、華々しくダンジョン攻略に乗り出したというニュースを横目に、俺は冒険者登録を済ませた。


 在野の戦力も当てにするべく、この頃から民間人でもダンジョンに潜ることができるようになっていた。


 最初は勝てなくても一つずつ階層を下げていく。


 職業がゴミだった上に、周りに理解者もいなかったので、俺は孤独に探索を続けた。

 ⋯⋯ 受験が迫っていて、そちらにかかりきりになっていたのもある。


 狙ったのは東京の大学だ。あっちは、俺の地元より整備されたダンジョンがたくさんあると聞いた。


 めでたく合格して、東京へ旅立つことになった。

 口では研究を頑張りますと言いながら、俺の頭の中はダンジョンのことでいっぱいだった。



 ●


 東京のダンジョンはレベルがクソ高かった。

 何だよあいつら。こっちより20くらい上のレベルはあるぞ。体感だけど。動きの鋭さが違いすぎる。


 初日に勝てるわけがないと気づいてトレインして別の冒険者に押し付けなかったら死んでいた。


 仕方なく、初心者用のダンジョンに潜ることしかできなくなった。

 絶対に俺の憧れた異世界主人公はこんなことしない。

 そう言いながら俺は今日も一階層を彷徨う。



 時々考える。

 俺に足りないのは何だろう。


 他の異世界主人公にあって、俺にないもの。


 異世界というフィールド。強力な能力。そして、可愛いヒロイン。


 どれも望み薄だ。



 いつか俺の元にも、困った美少女が訪れないだろうか。

 そんな薄い望みとともに、俺は大学生時々冒険者として日々を消費していた。







そして評価ボタンは最新話の下で、押される日を待ち望んでいた。

そんな彼に主人公は声を掛ける。


「待っていたら何も変わらない。自分から動いてこそだ。」


しかし仕様により評価ボタンは最新話の下から動けない。


「動けないお前のために、俺が最新話まで移動して押してやるよ。」


主人公のあまりの優しさに評価ボタンは涙を流すところだった。


だが、いつまで経っても主人公はボタンを押しに来ない。

気になった評価ボタンは一ページ前を覗き見た。


そこには見るも無残な主人公の姿が。

慟哭する評価ボタン。

そこに運営が救いの一手を差し伸べる。


「評価ボタンさん。自由に動けるようにしといたから。」


こうして、主人公の悲劇は誰も繰り返さなくなった。

彼の尊い犠牲は皆の胸に深く刻みつけられることだろう。

〜happy end〜


(現実は非情なので、最新話に行きましょう。評価ボタンを押すと主人公と作者が報われます。)

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