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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第五章 飢える賊軍の地
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第96話 食べ物を調達せよ(1/3)

「さーて、延々とモブ狩りを続けてきた十年を存分に見せつけてやるぜ!」


 俺は、今こそ始まりの町ホクキオでの経験を活かす時だとばかりに意気揚々と歩き出した。


 はじめは難色を示していた反乱軍の女首領、ティーア・ヴォルフさんも、俺の必死の説得が実ってしばらくは攻め込まないことを約束してくれた。


 反乱軍は、万単位の人間ではあるが、俺のモブ狩り力をもってすれば、大量の肉を生み出すことなど赤子の手をヒネるようなもの。


「…………」


「…………」


「…………」


 あっれ……モブに出会わないんだけど。


 荒れ果てた荒野を、絡まった草たちが転がり去っていくばかりである。


 東、西、南、北。どこにも現れない。


 たまに出現したかと思ったら、倒す前からグッタリと弱っていて、倒しても肉系のアイテムを落とさない上に、落としたとしても品質がひどかった。腐ってた。


「このへんの魔力(マナ)、ゴミクズですよ」


 そう言ったのはレヴィアで、


 ――昔は緑がいっぱいだったのに。魔力(まりょく)が虫の息だね。


 そう嘆いたのはフリースだ。


 ――これが、カナノ地区の中心地だった場所なのかって、ちょっと残念で。


「ん? カナノの中心って、もっとずっと北の方だろ。ここはもう郊外だ。塀もないし」


 ――今はそうだけどね。


「昔、このあたりに居たことがあるのか?」


 フリースはこくりと深く頷いた。


 ともかく、荒れ果てたこの地では、いかに高いモブ狩り力を持っていたとしても無理である。


 大勇者なみの実力者であるフリースが仲間にいるのだから、賊どもから逃げるのは簡単だろう。けれども「自分が食べ物をゲットしてくるゼ」と豪語した手前、絶対に何とかしないといけない。


「かくなる上は――」


 俺は伝書鳥を呼び出した。


 ネオジュークでレンタルした鳥は、主にアオイさんとの文通に使っている。だが今回は、別の年上の女に宛てて手紙をしたためることにした。


 その相手とは、始まりの町ホクキオに暮らすベスおばさんである。


 マリーノーツ時間でいう十年前に、三つ編み裁判で俺を追い詰めたインチキうそ発見器。いまや二児の母である彼女になぜこのタイミングで手紙を送るのか。


 それは、彼女が高級モコモコヤギ牧場。その最高責任者だからなのだ。


 劣悪な環境がモブ狩りを許してくれないのなら、栄養のある場所から取り寄せればいい。そのために人脈めいたものは惜しみなく使ってやる!


 なぜかって? 言うまでもない。俺たちが川をせき止めて災害を引き起こしたのだから、俺たちが食料問題を解決しないといけないだろう。


 清廉潔白(せいれんけっぱく)聖人君子(せいじんくんし)とまではいかないまでも、自分で自分の(ケツ)くらいはキレイにふき取れる男でありたいと俺は思うのだ。


 てなわけで、手紙をくくりつけて送り出した。


 伝書鳥はすぐに返信を運んで戻ってきた。


「ダメか」


 そんなに大層なことは頼んでいない。売り物にならず、捨てるしかないような品を分けて欲しいと求めたのだ。


 その後、二通ほどベスさんに連絡をしたが、取り付く島もなく断られ続けた。


 人道支援だと言い張っても、「無理。関われない」と返ってくる。


 そこで俺は、もうベスさんに直接交渉することにした。


「ホクキオに行こう」


 賊軍の中で暮らしていた栄養失調気味の子供一人から、少しだけ汚れている帽子を借りて深くかぶり、サングラスなどで変装して、ホクキオに向かった。


 ホクキオに行くと言ったらレヴィアに「ホクキオは絶対ヤ。一緒に行きたくない」と言われたので、とても寂しかったけれど、フリースとの二人旅となった。


 とはいっても、フリースの氷力車で裏道を使って移動したら、思ったよりもずっと近くて、すぐに到着した。どうやら思いのほか近所だったようである。フリースが道に詳しいのも助かった。


 ホクキオ内は白い甲冑が多く警備していて、すでに王室親衛隊の姿はなく、俺が旅に出る以前の平和を取り戻していたようだ。変装していたこともあって、俺が歩いていても、特に後ろ指をさされることもなかったしな。


 さて、やはりというべきか、牧場で面と向かってお願いしても、やっぱり断られた。


「ラックくん、正直に答えてね? あなたは、これを政府に反逆してる人とかに渡さないと誓いますか?」


 などと三つ編み裁判の簡易版が発動し、あえなくバツンとほどけて終了である。


 ベスさんには全て見抜かれてしまっていた。


 サングラスの奥で涙目になってることにも気づかれていたようだが、それでも判決は覆らず、


「ラックくん、手を引くといいよ。その人たちに関わっても、ろくなことないから」


「いや、これは俺のケジメなんです」


 旦那(シラベール)さんによろしくと言い残し、俺はトボトボとホクキオ郊外に向かった。


 この世界に来たばかりの頃から十年間、慣れ親しんだ草原には、今日もたくさんのモブが湧いていた。


 スライム、スライム、犬、犬、犬、スライム、犬、スライム、犬。


 ここのモンスターは、倒すと砕け散り、中確率でアイテムを落とす。


 出てくるモンスターを倒して、倒して、倒して、倒して、食べ物になる犬肉(アイテム)を拾って、拾って、拾って、拾って、やがて持ちきれなくなって捨てた。


 アイテムを徒歩輸送するのは、大きな手間で時間もかかる。万の反乱軍の胃袋を充たすにはあまりにも不足だ。


 鳥や馬車を使って継続的に送るという手段も考えたが、送料は全然安くない。計算するまでもなく足りないことがわかるし、反乱軍の食べ物運搬のために、よろこんで鳥を飛ばしてくれる業者は皆無である。


 しかし、送料さえ確保できれば、鳥や馬車で送る作戦は悪くないように思えた。要するに、反乱軍に届けるということを伏せて送れば送れないことはないというわけだ。


 じゃあ荒れ地になりかけてる反乱軍の土地から何人かをアヌマーマ峠に移住させて狩猟生活をさせれば……いやこれは、山賊アンジュさんがいなくなってからホクキオとの人の流れがよくなった経緯を考えると、山賊の再来になってしまうから、まずダメだろう。


 そもそも、反乱軍の人々は、俺から見ても悲しくなるくらいレベルが低くて、とても軍とは思えないくらいの烏合之衆(よせあつめ)であるから、効率のいい狩りも期待できそうにない。


 やはり金がかかっても鳥や馬車で断続的に送り届けるのが現実的か。


 というわけで、なんとか送料分の金を稼ごうと、サウスサガヤやハイエンジあたりで出現する高速移動ウサギ、ラピッドラビットを捕まえて売りさばくことを思いついた。


 ラピッドラビットは、祭りが近くなると高く売れるというし、もう祭りが直前に迫っているため品質も向上しているはずだと思った。せめて飢えに苦しんでいる反乱軍の子供たちに、あの引き締まった肉を食べさせてやりたいと思った。


 ところがどうだ、俺がフリースの氷を使って乱獲(かり)を始めたところ、眼鏡のギルド員がすぐに駆け付け、言うのだ。


「知らないのですか? 祭りが近づいたこの季節は、ギルドから特別な許可がないかぎりウサギ狩りをしてはいけませんよ。処罰の対象となります。それも厳罰のね」


 などと言って、眼鏡のガラスレンズを光らせた。


 捕まりはしなかったものの、フリースが捕えて冷凍していたウサギ肉たちが没収された。


 せっかくサウスサガヤを訪れたので、この窮状(ピンチ)をサガヤギルド職員のアオイさんに相談しようとするが、彼女は不在だった。


 どうにも逆風が吹き荒れている気がする。


 どうしてこうなった。そもそも、なんで南のほうでは作物ができないんだ。魔王軍を倒したことで魔力が溢れたんじゃないのか?


 ハイエンジ地区の中心部あたりから再合流したレヴィアが言うには、


「ネオジュークでの用事の時に聞いた話ですけど、荒れ地での戦いの終盤に、数柱の大魔王が融合合体して三人の大勇者と戦ったそうです。あの大勇者まなか、セイクリッド、アリアの三人ですね。その三人がかりで倒した大魔王が、人類に対する最後の抵抗として、死にながら荒れ地周辺を広範囲にわたって呪ったらしいですよ」


「大勇者は、そのことを知りながら放置したのか?」


 俺が静かな怒りを表明したところ、これについてはフリースが、


 ――あの三人は戦闘狂(バーサーカー)だから、繊細なことは無理。戦後処理はギルド連合の担当のはず。


「じゃあ、なんでギルドはやってくれてないんだ?」


 ――だって切り捨てられた土地だからだね。


「なんで」


 ――あのカナノやホクキオの南側に広がる地域は、古くは複数の種族が混在していた稀有(レア)な場所だった。


 ――ハーフエルフさえも住める場所だった。


 ――魔力も豊富で、緑も多くて、差別が薄くて、人間(ヒト)、エルフ、今は滅んだ獣人の三大種族が平和(しあわせ)に暮らせる場所だった。


 ――だから、商業特区として、すごく栄えた。


 ――ところが、エルフは混血を嫌い、人間は力を誇示したがり、獣人は利己的(じぶんかって)な連中が多かった。もちろんそうでないマトモな者もいたけれどね。


 ――オトキヨ様が祭り上げられ、王室が生まれたあたりから、人間の力が強くなってきて、人間は交易路になっていたこの場所を争い、その過程で、和を乱すことが多かった獣人が迫害されてしまった。治安を乱すから、という人間の都合だった。


 ――バランスが崩れ去って、獣人は報復のために、群れをつくって他種族を襲うようになった。そこでエルフの血を引く者は北に逃れるためにこの地を去り、ここは人間の土地になり、人間が交易を独占するようになった。


 ――そしたら今度は、人間同士で、誰がこの場所を管理するのかって話になって、争いが起きた。


 ――人間同士の争いを治めるために、いつか、誰か、名前も残ってない誰かがこう言った。


 ――「同じ種族同士で争うなんて、みっともない。敵は別にいるはずだ」


 ――矛先が獣人に向いた。


 ――獣人は、人間の攻撃に対抗し、報復として人間を滅ぼすために、呪術に手を出し、大魔王を召喚した。


 ――これが最低の結果になった。


 ――大魔王の発生とともに、大規模な呪いが発生。肥沃(ひよく)な大地は荒れ果て、溢れた魔力によって災害が相次ぎ、栄えた街並みは破壊され、獣人は絶滅、人間は結界つきの巨大な壁をつくってその中に逃げ込んだ。


 ――この世界の南側が荒れ地になった経緯は、そんなとこだね。


 ――その後、塀に囲われた地域ができた。カナノ地区やネオジュークなんか、今も囲まれてる。今は囲われてないホクキオ、サガヤ、ハイエンジも、そのときは無差別に襲撃をはじめた獣人に対処するために壁をつくった。


 ――そんでもって、大魔王に対抗するために転生者が召喚されるようになって、今に至るんだね。これは大勇者クラスの者しか知らない重要機密で、口に出したり紙に書き出したら死ぬ呪いが掛けられてるんだけどね。


 フリースは口に出さず、紙にも書かず、虚空に氷を生み出しただけなので死ぬことはないのだろう。そんなのアリかって話だけども、抜け道ってのはあるもんなんだな。


 またしても、重たい話を聞かされて……いや違うか。重たい話を読まされてしまった。




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