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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第五章 飢える賊軍の地
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第94話 賊の土地(2/3)

「おいしい!」


 やせ細った男ダーパンは、顔に砂をつけたままで目を輝かせた。


 レヴィアも満足げであった。けれども俺は不安で仕方ない。


「おいレヴィア、大丈夫なのか? そのパン、どこで手に入れたやつだ? 俺は買ってやった記憶がないんだが……」


「キャリーサが買ってくれました」


「え? なんだって? 大丈夫なのか? 誘拐された時か? レヴィアは食べたのか? あの毒キノコみたいな服を着た女は、幻覚作用のあるものとか平気で使ってきそうで心配だ」


「キャリーサは優しい人なんですよ。おいしいもの、いっぱい食べさせてくれました」


「そんな優しいイメージないんだけどな。これは……すでに洗脳されているんじゃないか?」


 一方そのころダーパンは、レヴィアによって突っ込まれたパンを、もぐもぐ食べ切り、みるみる血色が良くなっていった。死んだ魚のように光を失っていた瞳も輝きを取り戻して行く。


「これは間違いなく高級な味です! ふわふわの食感と、甘く抜ける上品な香り! 空腹というスパイスも加わって! ああもう……ああもう……これは……」


 そしてダーパンは泣きながら、


「これはッ! 今までで生きてきた中で最高の食事! こんなにも幸福を感じたことはないです! うぅぅぅうう!」


 涙は砂地に吸い込まれていった。


  ★


「あなたがたが信用できる善人であり、かなりの実力をもった方々であることは理解しました。ならば、どうか、ぼくらにお力を貸していただきたい」


 ダーパンは愛馬にもパンを分け与えた後、俺たちに協力してくれと頼んできた。


「力を貸すって言ったって、何をどうしてほしいんだ?」と俺。


「ネオカナノを攻め落とすんです」


「あぁー、なるほど」


 関わりたくない。勝手に頑張ってくれと思った。


「ぼくらは、何の理由もなしに反乱を起こそうとしているわけではないんです。実は、ぼくらは食料不足に苦しんでいました。原因は、荒れ地での魔王決戦による魔力枯渇によって、肥沃な土地であったぼくらの土地が、すっかり作物が育たなくなり、肉類をドロップするモンスターも滅多に出なくなってしまったからなのです」


 可哀想だとは思うけれど、俺には反乱を手伝ってやる理由がないのだった。


「それじゃ、俺たちは先を急ぐから」


「ちょっと、そんなぁ、待ってくださいよォ」


 ダーパンが腕にしがみついてきた。


「おいこら、まとわりつくなよ、鬱陶(うっとう)しい」


「ぼくらを見捨てないでください!」


「飢えてる時にはワラでも食いたいってのはわかるけどな、俺たちは先を急ぐんだ。呪いを解いて東に向かわねばならんのだよ」


 そう、ミヤチズという町でレヴィアと一緒に現実に帰る方法を探すというのが目標なのだ。その前に、強力な護衛を仲間にするため、フリースの呪いを解きに来ただけなのだ。


「せめて! せめて、お礼をさせてもらえませんか? ぼくだって道案内くらいはできます! いや! むしろ、ぼくらの土地なんだから、ぼくみたいに土地勘のある人間が道案内しないと、城になんか辿り着けませんよ」


「まぁ、案内してもらえるってんなら、安心だけども」


「決まりですね! それじゃあ、行きましょう。ぼくが案内すればすぐですよ」


  ★


 さてさて、簡単に言うと、また俺は騙されてしまったわけだ。


 ダーパンというやせ細った男が連れてきてくれたのは、目指している城ではなかった。


 彼の乗った馬が、何かに怯えながらも先導し、西へと進んでやがて停まったのだが……。


 そこには砂の上に鎮座する、いくつもの天幕たちがあった。そのなかでもひときわ大きな天幕の前に辿り着いたわけである。


「いや、これは明らかにあれだろう。……野営地」


 炊き出しの煙がたちのぼり、金属を叩いたり研いだりする音が響く。


 反乱軍の中心部に連れて来られたわけだ。


 大きなテントの前で突っ立っていたら、「おい邪魔だ」と言われて大男に突き飛ばされた。


「なあおい、ここは、どう見ても俺たちが目指してる城じゃねえよなぁ?」


 俺が強く不快感を示してやったら、ダーパンは動揺した


「え、ええっと、いやッ、どうですかね。ちょっと寄っただけです……よ?」


 目をそらして、明らかに挙動不審である。


「こっちです。ついてきてください」


 俺たち三人は氷力車を離れ、ダーパンの先導によって進んでいく。一体どこに連れていかれるというのか。


 ダーパンは歩きながら話をはじめる。


「ぼくらが反乱を起こそうとしているのには、ちゃんとした理由があるんですよ」


「へぇ、そうなのか」俺は相槌を打った。


「ぼくのやせ細った身体(からだ)を見ればわかるように、荒れ地で魔王軍との決戦があってから、この地では食物が足りなくなりました。オトキヨ様の指示によって、食料が鳥によって運ばれてきて、落としてもらったのですが……」


「へぇ、オトキヨ様ってのは、なかなか気が利いてるじゃないか」


「ええ。三度ほど食料や、呪いに強い穀物とか種もみとか苗なんかを、落としてくれたんです」


「でも、食料が足りてないってことは、足りなかったのか?」


「いいえ、充分な量でした。なんなら、ちょっと余るくらい」


「じゃあ何で」


「なんでも、『ハタアリの指示を受けた』と言い張る者たちが、『毒が混じっている危険性があるから検査する』などと言って、すべて持ち去ってしまったんです」


「ハタアリ……」


 どっちのだろう。そういう(かす)め取りをしそうなのは老人のほうかなと思うけれど、セイクリッドさんも反逆者たちを滅ぼしたがってたから、可能性がなくはない。


「政府にどういうことか説明を求めても、『そんなことはしていない。ちゃんと届けた』の一点張りで、追加の食料は送ってもらえなかったんですよ」


「なるほど……」


 おそらく、本当にオトキヨ様とやらは、充分な量を送ったのだろう。


「独自に調査した結果、奪われた食料は、塀に囲われた高級住宅地であるカナノ地区に出回っているのが確認されてしまったのです!」


「ほう、そうなのか」


「なんです? さっきからその生返事! ちょっとはぼくの話を真剣にきいてくださいよ!」


「いやいや、ちゃんときいてるぞ。つまり、カナノ地区の連中が文字通り私腹を肥やすために、オトキヨ様からの慈悲を盗んでいった……と、お前たちは思ってるわけだ」


「ええ、そうでしょう! そうに違いありません! だから、ぼくらは集まってカナノ地区で略奪の限りを尽くしてやることにした! もともとぼくらに恵まれるはずの食料なんだから、返してもらうのが当然だって話なんですよ!」


「果たしてそうなのかなぁ」


「そうなんですよ! とはいえ、あのカナノを囲っている石壁には結界も張られているし、内部には私服捜査員みたいなのが監視の目を光らせている上に、大勇者のセイクリッドまでいやがります。生半可な戦力じゃ、一瞬で返り討ちにあうのがオチってわけです」


「だろうなぁ。それなりに大規模な反乱軍ではあるけれど、カナノ地区を相手にするにはキツくないか?」


「でも、もうやるしかないですよ」


「いや絶対にやめたほうがいいと思うぞ?」


「確かに! 確かに、大勇者、紅き双銃のセイクリッド……。あの人の砲撃は本当にヤバイ。ぼくらなんて、一瞬で溶けてしまうに違いありません。それでも好機はあるはずです。実は先日、『セイクリッドが不在になる』という情報と、『ハッタガヤ門が一日だけ開く』という情報が書かれた手紙が届いたのです」


 それはセイクリッドさんの罠だろうなぁ。


「ところが! 今朝、これを千載一遇の好機(チャンス)とばかりに攻め入ろうとしたら、突然に門が閉まるし、門の向こうにはセイクリッドが待ち構えてたりで、ここまで戻されちまったんですよ」


 知っている。なぜなら門を閉めたのはレヴィアと俺だからな。


「おかげで、進軍と撤退の行ったり来たりで、ぼくらにも疲労がたまってきてしまっています。かといって、残りの食料は少なく、そう長くはもたないでしょう」


「どれくらいならもつんだ?」


「そうですねぇ、もって二か月ってところでしょうね。ぼくの管轄している東側の川近くに少ないながらも田畑があるし、収穫が見込めるから、もう少しは粘れるかもしれませんが」


「なるほど……」


「もしも、底を尽きるようなことがあれば……勝ち目がないとわかっていても、最後の特攻を仕掛けるしかなくなりますね」


 と、そこで、ダーパンの足が止まった。


 彼の目的地に着いたのだ。




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