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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第四章 足踏み
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第70話 待機(1/3)

 一体、どのくらいの時間が経ったのだろう。


 このネオジュークのピラミッドの内部は、常に螺旋状の白い炎に照らされていて、夜がこない。陽が沈んだり昇ったりすることがないので、時間の感覚が狂ってしまう。


「レヴィア……」


 声に出してみたところで、レヴィアはなかなか戻ってこない。


 そもそも、彼女の「用事」というのは何なのだろう。


 信じて待ってるとか言って格好つけずに、こっそり後をついていけばよかった。


 そわそわした俺は、歩き回ったり、円周率を唱えだしたりして落ち着こうとする。レヴィアが自分をおいて逃げたんじゃないかと疑ってしまう自分を必死に抑え込む。


 と、さっきまでレヴィアがいたベンチの前でぐるぐる歩き回っていると、年上のアオイさんに手を掴まれた。


「落ち着きなさいよ、ラックくん」


 年上の黒髪女が優しい声で言ってくる。


「そうはいっても、遅くないですか? レヴィアが出てってどのくらい経つと思ってんですか!」


「十五分くらいでしょ。それもマリーノーツ時間で」


「えっ! たったそれだけですか?」


 アオイさんは滑らかな髪を撫でながら、呆れたように息を吐いた。


「あのねぇラックくん。レヴィアちゃんが心配なのはわかるけど、過保護は破滅を招くわよ? レヴィアちゃんは、ラックくんが思ってるよりずっと強いんだから」


「だけど……」


 アオイさんのその言葉こそ根拠がないじゃないか。


 さっきレヴィアはこう言ったんだ。


 ――私はもう、弱くなってるんですよ。


 確かにそう言ったんだ。


 心配するなっていう方が無理だろう。


 何で弱くなってしまったのか、本当に弱くなってしまったのか、そこらへんのところをレヴィアは語ってくれなかったから、わからない。わからないから不安になる。不安だから早く帰ってきてほしくて気が気じゃない。


 いっそのこと、年上の女の意見をもっと詳しくきいてみるか。


「じゃあ教えてくださいよ、アオイさん」


「はい? 何をよ」


「レヴィアが『自分は弱くなった』って言うんですけど、どういうことだか、わかりますか?」


 アオイさんは咄嗟に目をそらした後、すぐに俺の目を見つめて、「知らないわ」と力強く言った。そして誤魔化すように続けて、


「とにかく! あのねラックくん。とにかく、レヴィアちゃんのことばっか考えてないで、これからどうするか考えましょうよ。レヴィアちゃんのことは置いといてね」


「これからって言っても、レヴィアが戻ってこなけりゃ次の予定も立てられないじゃないですか」


「依存症かよ!」とアオイさん。


「愛してるだけだ!」と俺も応戦する。


「ふられたくせに」


「保留されただけです!」


「それ告白失敗じゃん! ほぼ片思いじゃん!」


「ぐっ……」


 舌戦は事実を突きつけらて後ずさった俺の負けのようだった。


「とにかくさ、ラックくん。死んだことになったおかげで指名手配も解けたんだからさ、もう自由なんだよ。自分の意思で道を歩けるようになったラックくんが次にどこを目指すのか、こっちとしてはちょっと興味があるのですよ」


「どこに行くかは、レヴィアが決める! 誰が何といおうと、俺の案内人はレヴィアだからだ!」


「はぁ?」


 アオイさんは、脳みそ鑑定してあげようか、とでも言い出しそうな雰囲気で顔をしかめた。


「あのね、ラックくん。夢を壊すようで悪いけれど、レヴィアちゃんの本当の姿に気付いてる?」


「なんです、本当の姿って?」


「えっと、それはさ……なんていうか、見た目の可愛さにばかり目がいってるようだから、彼女の中身も見てあげてってことよ。そのための『曇りなき眼』でしょ? そもそもラックくんみたいに普通くらいに勘のいい人だったら、レヴィアちゃんの正体に、気付いてないわけないと思うし」


「女の嘘は、探っちゃいけないんです」


「あーもう、イライラするなぁ!」


 きれいな黒髪がもったいないと思うくらいに、アオイさんは頭をかきむしって不快感を表明してきた。


「愚かなラックくんは、自分で決めたくないようだから、こっちがおねーさんらしく、三つの選択肢を提示してあげよう」


「はぁ、三択ですか」


「一つ目は、悪の組織『オリジンズレガシー』に入る道。二つ目は、魔王を倒して現実に帰る道。そして三つ目……この世界の秘密を調べる道よ」


 レヴィアのことを排除した三択など、取るに足らない。俺が選ぶ道は、


「四つ目! レヴィアと一緒に元の世界に帰って幸せに暮らすんだ! その方法を探す道を俺は選ぶ!」


「夢みすぎ! 何なのもう!」


「でも、俺の気持ちを嘘偽りなく正直に言うと、そういうことになるんですよ」


 アオイさんはさっきまでレヴィアが座っていたベンチに怒りをぶつけるように勢いよく腰掛け、レヴィアと同じように頭上の炎を見つめた。


 俺もアオイさんの隣に座り、同じ炎を見上げた


 炎を見ていると、少し落ち着く。


 しばらく無言が続いて、先に口を開いたのはアオイさんだった。


「じゃあさ、もっと東を目指しなよ。街道沿いにずっとさ。東のほうには、マリーノーツ中の書物や骨董が集まる街があるからさ、そこでなら、もしかしたらレヴィアちゃんと一緒に帰れる方法が見つかるかもしれないから」


「なるほど、東ですね。その町の名前は何ていうんです?」


「ミヤチズ」


 次の目的地は書物の集まる街ミヤチズになった。


  ★


 目的地が決まったからといって即出発というわけにはいかない。ここで待っていると誓った以上、余程のことがない限り、石にかじりついてでも、否、石になってでもこの場から離れるわけにはいかないと思っていた。


 まだまだレヴィアが帰って来る気配を見せないので、俺はアオイさんと話を続ける。


「そういえば、ラックくんは、どうせあのオリジンズレガシーとかいう組織のハタアリさんに恩返ししなきゃとか思ってるだろうけど、あまり深入りしちゃダメだからね」


 彼女は釘を刺すように言ってきた。


 この人もまた年上の女らしく心が読めるようだ。


 実を言うと、アオイさんの言うとおり、ハタアリさんには御礼をしないといけないと思っていた。なぜなら、レヴィアの居場所を知ることができたのは、彼らの情報網のおかげだったからだ。そして、恩返しの方法は――、


「おおかた、自分の力を必要としてくれるんだったら、彼らの作戦に協力してもいいかなぁとか、そんなとこでしょ?」


「心を読むのをやめていただきたい」


「でもねラックくん。協力は……協力だけは、本当にやめといたほうがいい」


「なんでです?」


「ラックくん、騙されちゃだめだよ」


「騙されるって何がです? ハタアリさんたちのグループは奴隷に役割を与えて社会を良い方向に正そうとしてるって話ですけど」


「そんなわけない。あれはゴミみたいな反逆系の犯罪組織だから、関わっちゃダメ」


「え、そうなんですかね……」


 アオイさんは、やっぱりか、とでも言いたげに鼻息をもらすと、


「奴隷を解放したとか言ってたけど、あんなの全然すごくない。次の人生を見つけるはずだった奴隷たちをからめとって、骨抜きにしてるだけ。要するに、今の社会に不満をもった人たちを集めて反逆したいだけなの」


「そうなのかな……」


「奴らは原典派の過激派ってやつよ」


「アオイさんも原典派では?」


 聖典を研究しているアオイさんは、今の聖典のほかに、もともとの原典があって、いつからか上書きされたのだという説を唱えている。だから彼女も原典派と言っても良いのではと思ったのだが、彼女は顔の前で手を振って「ノー」を表現した。


「ちがうちがう。原典の内容が正確にわからないのに、原典派とか名乗れないよ。そんなことしたら失礼ってもんだよ。普通の感覚なら」


「なるほど」


「それにさ、こっちは主義主張とかなくて、真実を知りたいだけで研究してる。あそこの人たちは世の中をひっくり返そうとしてる人たちだから、離れなくちゃ」


「それはちょっと考えすぎでは? ハタアリさんも慈善事業として元奴隷を集めてて……」


「ラックくん、だまされやすいでしょう?」


「そ、そんなことは……あるかもですけど……」


「でしょ? 身に覚えあるでしょ?」


「ない……とは言えませんね」


 偽物のラストエリクサーを掴まされた一件があったので、全く否定できなかった。




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