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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第三章 ネオジュークを目指して
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第61話 ネオカナノの茶屋(3/3)

 店の奥に案内されたレヴィアと俺は、しゃがみ込まないと入れない狭い木戸から暗くて狭い部屋に入った。


 俺は狭くて暗い部屋なんて押入れとか牢屋に閉じ込められるみたいで恐怖しかなかったが、レヴィアは「なんだか落ち着きますね」とか言ってた。狭くて暗いところ好きなんだろうか。


 地面は畳っぽい和の匂いと柔らかい感触、壁は金属の冷たい感じがあり、ところどころつるつるの柱があって、温度の差から考えるに柱は木材っぽい。


 こんなところに押し込めて、やはり罠だったのかと思った時、茶屋のおっちゃんによる炎魔法で空中に吊り下げられていた装置に明かりがつけられ、まばゆいばかりに明るくなった。


「こ、これは……」


 乱反射する豪華壮麗な光。


 壁が黄金でできた茶室だった。


 なんという茶屋だ、ぼったくった金でこんな贅沢なものを作っていたとは。


 俺は世のため人のため、怒りを口にしようとしたのだけれど、その寸前に、彼は土下座をした。


「申し訳ありませんでしたぁ!」


 俺に向かっての土下座ではない。レヴィアに対しての土下座である。


「え、何?」とレヴィアは首をかしげている。


「あなた様は、すべてお見通しでいらせられたのですね。そして何より、優しいお方だ」


 わけがわからない。この男は何を言っているんだ。レヴィアはただ、茶を飲んで餅食って喜んでただけで、いろんなことを見通したのは俺のほうだぞ。


 店主は説明を始める。


「実は、この茶店は、数日前までは大勢のお客様がいらっしゃっていたのです。今ではお客様も少なく、閑散としていますのでホクキオからの旅をされているあなたがたには信じられないかもしれませんが……お客様がいらっしゃらなくなったのには理由があるのです。レヴィア様に、ぜひきいていただきたい」


「何ですか?」


「鑑定士に、逃げられたのです。浄化された土で福福蓬莱茶を作れるというのは嘘ではないのですが、完成した茶葉のなかで『福福蓬莱茶』になれるほど良質なものは、『聖なる薬草・(きわみ)』だけなのです。ですから摘み取った『鑑定アイテム:謎の草』を大量に鑑定する必要があるのです」


 ほう、『聖なる薬草・極』か。今となっては懐かしい響きだ。謎の草を鑑定し続けていると、たまに出る草だが、そんなにレアすぎるってわけでもない。百回の鑑定で五回くらいは引けるシロモノである。


 なんとなく貴重っぽいんで、倉庫の片隅に積んでおいたこともある。全部借金の穴埋めに持っていかれたけどな。


 店員はなおも続ける。


「それに、土壌の作成にしても毒キノコを浄化することで土ができますが、その多く生まれる土の中でも『聖なる土・極』が必要なのです。そこでまた数多の鑑定が必要なのです」


 つまり、この高級感あふれる金の茶室に俺たちを招き入れたのは、俺に『謎の草』や『謎の土』の鑑定作業をさせる算段ってわけだろうか。


「お二人には秘密にする必要がなくなったので白状しますが、先ほどお出ししたお茶は、クソ安い抹茶でいれたやつです」


 やはりそうか。


「服装から、あなたがたが貴族とその付き人であると判断して、ぼったくってやろうと思いました。自らの欲望をおさえられませんでした。店の奥で舌なめずりしまくっていました。そのことは謝ります。そして、そんな愚かな企みに気づきながらこの店を守ろうとしてくれたレヴィア様には心から御礼申し上げます」


「まあね、おいしいお餅たべさせてもらったから、お礼にね」


 いや、まてまて、レヴィアは絶対に説明されるまで何もわかってなかっただろう。そういう風に褒められたり持ち上げられたりしたときに、わかってたフリして天狗になるのは、ちょっとカワイイけども、やめたほうがいいと思うぞ。


「レヴィア様は、お連れ様が『福福蓬莱茶』に対して検査スキルを使うのを静観されていました。その上で、茶碗に残っていた低品質なお茶を検査させなかった。それは、すべてこの場で話し合いをするためですね」


 いやいやいやいや、絶対そんなこと考えてないはずで、ただの偶然だと思う。だが、レヴィアは、


「まあね」


 と誇らしげに言い放ちやがった。服装は人を変えるのだろうか、古着屋で貴族帽子をかぶってからというもの、まるで年上の女みたいに嘘をつくようになってしまったようだ。とても悲しいことである。


 と、思ってはみたものの、思い返すと、出会った時からわりと嘘っぽい空気を醸し出してたような気もするから何とも言えない。


 ここで、ふと気いたのだが、肯定を繰り返すことで結果的に店主が語りに入りやすくなっているではないか。思いのほか多くの情報が引き出されている。まさかレヴィアはこの効果を狙って、あえて自信満々に頷いたりしたのだろうか。


 いや、とてもそうは見えないけども……。


 茶屋店主はなおも続ける。


「レヴィア様、わかっていますよ。あなた様は目立ちたくなかった。方角的にはネオジュークに行くということですが、あなた様のような方が、ネオジュークに向かうのに、馬車にも乗らずに人の多い交差点を通ろうとなさるなら、それはもう、お忍びでどこかへ向かう最中だったに違いありません」


「その通りですよ」とレヴィア。


「付き人に鑑定士をつけているところを見ると、普通に考えれば、重要な商談か、闇ルートでの商品の購入といったところでしょうけど……」


 なるほど、そんな風に勘違いしてくれるなら好都合だ。逃げ回っている反逆者オリハラクオンとして通報されると面倒だからな、ここはレヴィアの嘘に乗っかっておこう。


「いや、それは申し訳ないが秘密なんだ。極秘なのでな」


 俺がすかした調子で口を挟んだところ、レヴィアが、


「友達を助けに行くんです」


 おいレヴィア、俺の機転をちょっとは活かしてくれよ。


 とはいえ、一応このすれちがいすら功を奏したようで、おっさんは言うのだ。


「……なにやら深い事情がおありの様子、これ以上の詮索はいたしませんが、もしも東のネオジュークではなく南西に行くようであれば、くれぐれも気を付けてください」


「南西? ってことは、荒れ地の方面ですよね? 何かあるんですか?」と俺。


「荒れ地……ええ、方角的にはそうですけども、荒れ地までは行きません。途中の川沿いに、とても大きなお城がありましてね、お城には、あらゆる呪いを解く宝物があるらしいんですわ。最近、その噂が広まってからというもの、物騒になりましてね。そのお宝を奪ってやろうと、数多くの冒険者くずれの盗賊が出没しているらしいのです」


 冒険者くずれの盗賊っていうと、もうホクキオで転生したての俺を眠らせたアンジュさんの顔しか思い浮かばないけど……まさかな。


 話が一段落したところで、俺は腕毛のおっさんに向かって言ってやる。


「まあとにかく、お前が騙そうとしてきたのは腹が立つけどな、鑑定が必要ってんなら、アイテムを持って来てくれ。ありったけ鑑定してやるよ」


「ありがとうございます、レヴィア様!」


「いや、鑑定するのは俺なんだぞ」


 そう言った時には、もうおっさんは鑑定アイテムを取りにいったようで、姿が見えなかった。


 ちょっとは感謝や謝罪をしてもらいたいものだが、まあ、細かいことだ。どうでもいいことにしようか。レヴィアが可憐すぎるのがいけないんだ。


  ★


 ゲーム内時間にして七日間もの間、俺は鑑定し、鑑定し、鑑定し続けた。


 レヴィアはその間、甘いもの食べてゴロゴロして寝るだけの生活だった。どこに出かけるわけでもなく、茶店に住み着き、狭い黄金の茶室で身体を丸めて眠っている時間が多かった。俺も同じ部屋で鑑定作業をしていたわけだから、こういう生活ぶりを間近で見ていたことになる。


 俺もホクキオひきこもり生活が長かったからな、こういうレヴィアのぐうたらな暮らしぶりには親近感すら湧くというもの。さすがにここまでヒドくはなかったけども……。


 そんなこんなで、鑑定の日々が終わるころには、なんとか店を軌道にのせることができた。マトモなお茶を出せるようになって客も再び増え始め、新しい鑑定士を雇う余裕も出てきたと言っていたので、これで俺の仕事は終わりである。


 何日もかけた鑑定生活は、特に苦痛に感じることはなかった。ラストエリクサーを鑑定し続ける日々を経験している俺にとって、十回引けば一回くらいは当たりを引ける福福蓬莱ガチャは、とてもヌルく感じられた。


 それに、この鑑定の仕事において有益だったのは、鑑定数をこなしたことによるスキルレベルアップである。


 この異世界マリーノーツでは、戦って勝つばかりが経験値を得る手段ではない。スキルで成果を出すことでも経験値がもらえるのだ。


 そんなわけで、俺の鑑定スキルは二段階目の限界突破を迎え、検査スキルも一段階限界突破するに至った。


 他のスキルを上げるという選択肢は選ばない。もはや、俺はこの二つの奥深いスキルを極めてやることに決めた。


 するとどうだ、画面に見慣れない文字列が表示されたので、読み上げてみる。


「複合スキル、『曇りなき(まなこ)』を習得しますか……だと?」


 これが複合スキル。茶屋のおっさんが言ってた毒と解呪スキルが複合した浄化スキルと同じように、二つのスキルが一定のレベルまで達すると、このような組み合わせスキルを会得できるのだという。


 詳細情報を確認してみると、以下のような説明文が記されていた。


「えーと、常時発動スキル。見るだけで偽装を見破ることができ、偽装された物に触れている間は『偽装スキル』を無効化する。さらにこのスキルレベルを限界まで上げると、『誤認スキル』まで無効化できる……ふむ。なるほど」


 つまり、いちいちスキルを発動するまでもなく自動鑑定と自動検査ができるというわけか。便利な反面、こちらから偽装を仕掛けるのが難しくなるし、暴かなくていい偽装まで明らかにしてしまう場合もありうる。


 これは少し迷うな。


 なぜなら今、俺たちは逃げ回っている身なんだ。もしも俺のニセ身分証とかに偽装スキルが使われていたらどうする。


 ありえないとは思うけれど、もし俺の身分証が偽装されていて、これから先の町で、身分証を手に持って見せたらいきなり逮捕って事態にならないとも限らない。


 でもでも、複合スキルというものも一刻も早く見てみたい気持ちもある。


 迷う。本当に迷う。


「なあレヴィア、どうすればいいと思う?」


 しかし彼女は幸せそうに身体を丸めてむにゃむにゃと眠っていて、答えてくれなかった。




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