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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第三章 ネオジュークを目指して
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第60話 ネオカナノの茶屋(2/3)

「あの」俺は茶屋のおっさんにたずねる。「自警団と王室親衛隊って仲悪いんですか?」


「最近は、そうですね。そもそも自警団って王室親衛隊の組織だったんですよ。政府が今の体制になったとき、権力闘争に負けた側がホクキオ七番街のあたりに勝手に陣取ったんですがね、その反体制派を取り締まるために王室側が自警団という名目で置いたのが始まりですからね、以前は王室派の言いなりだったのが独立して本物の自警団になった……ってところです」


「なるほど、でも、どうしてお(かみ)への反抗を始めたんですか?」


「さあねえ……ただ、どうも自警団の上層部と地元の牧場娘との結婚が決まったあたりから、自警団が王室側に本格的に反抗するようになって、王室側は自警団をつぶす口実を探していたらしいですわ」


「なるほど……」


 ん、待てよ。


 牧場娘ってことは、これはベスさんのことじゃないか。そして結婚相手は当時の自警団で食料盗難事件を担当していた俺の親友クテシマタ・シラベールさん。そんでもって、その二人は俺を一方的に裁いたギルティ三つ編み裁判で仲良くなっている。


 じゃあつまり、あれか、自警団の反抗の原因って、もしかして不本意ながらキューピッドになった俺にもちょっと原因があるんじゃないの。


 言いかえれば、混乱の責任の一端が、俺にもあるんじゃないの。


 いや、おちつけ、違う、俺にはどうすることもできない力が働いていた。そう思うことにしよう。


 俺が一人、心の中で頷いていると、おっさんがあらためて疑問を口にした。


「いやあ、それにしても本当に、どうして自警団が寝返ったりしたのか……」


 その答えには、ついさっき気付いてしまった。


「――それは、愛ですね」


 俺は格好つけた声でそう言うと、おっさんは、


「はあ、愛、ですか?」


 と首をかしげた。


 だって愛だろう。俺の親友、銀色甲冑のシラベールは、妻のために王室親衛隊にたてついて、妻を侮辱されたことに怒って兄に戦いを挑んだのだ。


「にしても、お茶屋さんは、いろんなことに詳しいですね」


「いやいや、このような交差点で茶屋なんぞをやっておりますと、自然、情報が集まってくるんですわ」


 おっさんは穏やかに微笑んだ。


  ★


「…………」


 互いに無言だった。


 俺とレヴィアが、ではない。俺と店員のおっさんの間を、重苦しい沈黙が包んでいた。


 ついさっきまでは、この腕毛の濃ゆいおっさんとの軽快な会話を楽しんでいたのだけれど、どういうわけか俺は、そのおっさんに威圧的に見下ろされていた。


「それっぽっちの金で、うちの茶を飲もうなんて百年早いんだよ、この下っ端が」


 言葉で殴られた。さっきまでの穏やかな微笑みが嘘みたいである。


 レヴィアは帽子をおさえて震えている。


「貴様が飲み干したお茶は神聖で高級な薬草茶なのだ。万病をたちどころに治し、幸運を呼び、寿命を延ばす福福蓬莱(ふくふくほうらい)茶なのだぞ。神仏をも殺す毒キノコを浄化スキルによって神の土壌に変化させ、そこで育てた神聖な茶葉を使用しているッ!」


「浄化スキル……だと……?」


「ああ、毒スキルと解呪スキルを限界突破することで得られる複合スキルさ。最強の毒キノコを入手するってえのは、奇跡にも近い困難なことだ。それに、土壌づくりにも茶葉の生長にも気の遠くなるような時間がかかるのでな、五百万ハーツを払ってもらおう」


 五百万ハーツ。金貨何枚分だろう。いずれにしても、そんなアホみたいな大金、持っているわけない。


 だけど、どうにも嘘くさい。こんなふうに客が金を払えない事態に慣れている感じがする。俺は、ダテに何度も騙されていないから、嘘の匂いくらいは感じ取れるようになってきた。


 要するに、俺の勘が、こう告げているのだ。


 ――ここはぼったくり茶屋である。


 いやはや、道理で人の往来が多い場所にあって閑散としているわけだ。そもそも、そんな高価なものを出してくれなどと頼んでいない。


 俺は立ち上がり、おっさんと同じ目線で言い返す。


「そんなに言うんだったら、その『ふくふくほうらいちゃ』とやらを持って来てもらおうか。俺にはそれが実在するなんてのが信じられない」


「ほう、本物だった場合には、二倍の金額を払っていただきますが、いいですね?」


「望むところだ」


 そうしておっさんが店の奥に引っ込み、すぐに金の箱を持って戻ってきた。


「なるほどな、立派な金の箱に入れることで、さも高価なものが入っているように見せかけるわけだ。パッケージ詐欺の常套手段ってやつだ」


「果たしてそれはどうだろう」


 チョイ悪を通り越して極悪に成り果てたおっさんは、そう言って、金色のフタを取り去った。


 閃光がほとばしった気がした。


 まさしく財宝に等しい輝きを放つ茶葉は光沢のある緑色に輝いていた。


 ラストエリクサーなんていうゴミクズとは違って、これは素人目にもわかる高級な薬草だ。


「ステータスをご覧ください。福福蓬莱茶という名と、寿命までのばすというすぐれた効能が書かれているでしょう?」


「ああ、そうだな。確認した」


 本物だとは思うけれど、一応だ、確認してみよう。


「――検査」


 スキルが輝く茶葉を通り抜けたけれど、何も変わらなかった。ステータスもそのままだし、相変わらず神々しい輝きを放っていて一点の曇りもない。


 だが、俺はおっさんの顔が焦りの色で曇ったのを見逃さなかった。


 ――何かある。


 確実に隠し事をしている雰囲気が漏れていたぞ。


 だが、おっさんもすぐに表情を引き締め、俺を追い詰めるように強い声を出す。


「これでわかったろう? さあ、約束通り、二倍の金を払ってもらおうか。一千万ハーツだ」


「絶対に払わないと言ったら?」


「その時は、そこの帽子のお姫様をもらおうか」


 その言葉を耳にした俺は胸中で怒りの炎が燃えたぎった。俺のレヴィアをどうする気だ。だが、おちつけ、おちつくのだ。こういう時には怒り狂った方が負けである。表面上は冷静に、格好つけた余裕の口調で言ってやる。


「ふっ、それは残念ながら無理だな。お前は俺を追い詰めているつもりだろうが、すぐに気付くことになる、実は追い詰められているのは茶屋のおっさん、お前のほうだとな!」


 俺はそう言い終わると、机に放置されていた物に手を伸ばした。


「この期に及んで、何を……はっ!」


 おっさんは俺が手に引き寄せた物体を見て、あからさまに慌てた。


 俺が引き寄せた物とは何かというと、それは、レヴィアが飲み残して遠ざけていたお茶である!


 店の奥から持ってきたものは本物かもしれない。だが、この机に放置されたお茶は、普段から店で出されているお茶ということ。


 すなわち!


 これを検査鑑定すれば、ぼったくりが明らかになるってことだ。


 ところがどうだ、さあいざ検査というときに、レヴィアが茶碗を掴んで奪い返した。


「ラックさん、だめです」


「な、なんだよレヴィア、今、俺は重要な話をしてるんだ」


「私、まだ負けてません。このお茶はとても苦かったですけど、ちゃんと最後まで飲むんです。いま続きを飲もうと思っていたところなんです」


「あのなレヴィア、今は、そういう話をしてるんじゃなくて、俺が借金生活になるかの瀬戸際なんだぞ。この犯罪者をカナノ地区が誇る私服捜査員に突き出さないと!」


「ヤ、です!」とレヴィア。「さてはラックさん、自分ばかり健康になる気ですね! このお茶は体によさそうな味なので渡しません、渡しませんよ!」


「違うって! あとでちゃんと返すから確認だけさせろ。今は俺のスキルが役に立つ数少ない場面なんだぞ!」


 こんな時に内輪もめをしていたらその間に対策を打たれてしまう危険性がある。俺は牽制のためにおっさんの方を、ちらっと確認した。


 その時、茶屋店主のおっちゃんが予想外の表情をしていたので、俺はギョッとした。


「え、えっと……おっさん?」


「…………」


 おっさんは、なぜか感極(かんきわ)まって泣いている。豪快に涙を流して鼻水を垂らしている。


 俺は一気に混乱に落とし込まれ、何が何やらわからない。


 おっさんは泣きながら言う。


「レヴィア様、といいましたか。いと(たっと)きあなた様にお渡ししたいものがあります。無理なお願いとは思いますが、店の奥まで来てもらえませんか?」


「え? 何かくれるんですか? さっきの甘いやつは、すごく甘かったので、もうちょっと欲しいと思っていたところでした」


 レヴィアは、茶碗を両手で抱え、緑色の液体を揺らしながら、あろうことか、おっさんの後ろをついていこうとする。


「お、おい、ちょと、待てよレヴィア」と俺。


「なんです?」


「罠かもしれないだろ? 演技かもしれない。店の奥に殺意を持った屈強な戦士がたくさんいたらどうするんだよ」


「え? そのときは皆殺しでいいじゃないですか」


 時々この子は、ゾッとするようなことを平然と言うよな。


「ちゃんと生かしたまま捕まえようぜ」


「ラックさんが言うなら、そうしますけど」



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